04
たぶん恋人。歪な関係は私が制服を脱ぐまで続いた。
「じゃあまたね」
「またいつか会えたらね」
涙ひとつ流さない淡白な最後。
彼にとって私は数ある恋人の1人で、特に覚えておく必要のない女のひとり。
虚空に消える煙草の煙と同じ存在……だったのだろう。
「さようなら、
パタリと見慣れたアパートの扉を閉めて呟いた。
封を切っていない煙草の箱をまじまじと見る。
制服はもう着ない。貴方が綺麗だと
朝焼けに紛れた橋の下で白煙をなびかせる。あの日の彼のように雪に吐息を溶かした。
「一口目でもう
過ごした月日が長すぎた。どんなにクズ男であっても情は湧くし、好きになる。
「火遊びが過ぎたなぁ」
溢れた涙が止まらないのはきっと煙が目に染みたから。
大学に入って、マトモになろうと明るい自分を演じた。
2番目にできた彼氏は渇望するほど好きにはなれなかった。一緒にお酒を飲む度に彼が鮮明にフラッシュバックした。煙草の香りを嗅ぐ度に姿を重ねた。そんな自分に嫌気がさした。
3番目に好きになった人。友達としてそばにいた。彼には恋人がいた。あの日のように浮気を唆すことは出来なかった。彼は無垢だから。汚してはダメな人。ただ片想いをして、離れたらさよなら。
働くようになってできた恋人。成り行きでなぁなぁと2年ほど。いつの頃からかタダイマを言うのが飽きた。オカエリを言うのに満足感を失った。気が付いたら手紙を残して私は家を出ていた。これもまた冬の日だった。
春になって片想いのまま「さよなら」した彼と再会した。偶然同じ赴任校、4年ぶりに会う国語教師と養護教諭の私。あの頃の想いはセピア色で、ああ、一時の気の迷いだったのか、と。正直に言えばどこに惚れたか忘れてしまっていた。
「ねぇ、秋田、今晩久しぶりにご飯行こうよ」
──あの日の自分は馬鹿だった。考えが至らなさすぎた。
忘れてたなんて嘘だった。
ちゃんと私は好きだった。
優しさに触れる度に胸が苦しい。
心の中で貴方が探す「誰か」が堪らなく羨ましい。
今、貴方に恋人がいなくても、私は貴方を愛してはいけない。そう、綺麗。貴方は綺麗なんだ。
──私は貴方を汚せないよ。
「さよなら秋田」
やっぱり今日も雪に紫煙を燻らせた。
雪に紫煙 佐藤令都 @soosoo
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