第2話 鶴岡が帰った後の工房では……

「お兄ちゃん。ありがとう」


 如月 亜衣は朝霞 零に背後から抱き着いた。


 この二人、姓は違うが実の兄妹だったのだ。


「鶴岡 懐石のお墨付きをもらえたのよ。これで、フードプリンターは売れるわ」

「しかしなあ……」


 朝霞 零は隠してあった魚を取り出して、鶴岡の食べ残した魚と食べ比べた。


「作った俺が食っても、違いが分からないぞ。こんな小細工する必要があったのか?」


 実は、ニジマスの塩焼きを作った後、フードプリンターでコピーを二つ作ってオリジナルは隠しておいたのだ。鶴岡の前に出した魚はすべてコピーだったのである。


「何言っているのよ。相手は鶴岡 懐石よ。お兄ちゃんにも分からない違いを見つけるに決まっているわ。そんな事になって、フードプリンターが売れなかったら、うちの会社は倒産よ。お兄ちゃんはあたしが路頭に迷ってもいいの?」

「いや……それは……」

「それとも、お兄ちゃんがあたしを一生養ってくれる?」

「それは嫌だ」


 朝霞 零の脳裏には、苦悩に満ちた顔で皿を見るふりをして、印を確認していた鶴岡の姿が蘇った。


「妹のためとはいえ、鶴岡さんには悪い事をしたな」



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フードプリンター 津嶋朋靖 @matsunokiyama827

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