「こちら」と「あちら」の柔らかい融解

文字通り、蕩けてしまいそうなお話でした。

軽妙な語り口で綴られる怪奇現象ですが、この世界ではそれが当然なんだと思わされてしまうくらいにナチュラルな文章で、のめり込むように読むことができました。

不思議と、読んでいる側としても未知のものだというのに、作中で描かれる感情にリアリティが感じられました。こちらの常識とあちらの常識が、それこそとけていくような感覚といったらいいのでしょうか。感じたことはないけれど、不思議とこの感情が耽美に分類されるものだということは分かる、そんな魅力があります。

二人の会話が脱力感がありつつもどこかそわそわとした距離感なのもいいですね。きっと溶けようが溶けまいが二人は同じようなテンションで同じような会話をしていたんだろうなぁと感じさせるだけのそれがあったように思います。

不思議な読み応えの、素敵な短編でした。アイスの「当たり」についての描写、ちょうどいい温度感の表現ですごく好きです。