第8話 リア充を異世界に召喚したとある女神とその他全員の末路(最終回)

「オラおらぁっ!! キリキリ働けぇェッ!!」

きりよりも激しくなァッ!!」

「一瞬たりとも怠けたらもっと叩きまくるぞォッ!!」

「てめェらのせいでオレたちはこんなことをするハメになっちまったんだからなァッ!!」

「俺たちから仕事を奪いやがってェッ!!」

「死んで楽になると思ったら大間違いだぞォッ!!」

「死んだ後もずっとここで酷使しまくってやるっ!!」

「この元凶どもがァッ!!」


 死者になった者なら、種族に関係なく必ず来る冥府の冥界では、死神たちはガトリングガンよりも速度と連打の鞭で、女神たちや天使たちを叩きまくっていました。

 むろん、すでに死亡済みなので、再死亡の心配もなく、安心して酷使することができました。

 天界を自身たちの肉体ごと人類と悪魔どもに滅ぼされ、死者として冥界に落ちた女神たちと天使たちは、シンデレラなら冒頭の一行目で死亡する凄絶な強制労働を課せられながらも、各異世界から逝って来る死者を、持ち前の転生術で必死に元の世界に返し続けていました。

 しかし、まったく追いついていませんでした。

 毎秒兆単位で死者の魂魄が冥界に殺到されては、どうしようもありませんでした。

 人類の暴虐な専横による結果でした。

 それにより、輪廻転生という魂魄こんぱくのリサイクル経済は完全に崩壊し、本来宝石よりも貴重なはずだった魂魄の価値はゴミクズまで暴落しました。

 生者の命を刈ることで、その経済活動の一端を担っていた死神の失業率も100%に達し、一人残らず失職しました。

 転職を余儀なくされた死神たちは、使い慣れた鎌から不慣れな鞭に持ち替えないと務まらない仕事に、むろん、最初は戸惑いましたが、経済崩壊の元凶どもを目の当たりに瞬間、本来の得物だった鎌よりも熟達した使いこなし方で、本職よりも精励しました。

 冒頭から続いていたセリフがそれを証明しています。

 さながら、世紀末のモヒカンでした。

 元凶と見なされた死神たちの仕打ちに、人類や悪魔に皆殺しにされた天界の元住人たちは、屈辱の極みに達していました。

 対等の立場だったはずの冥界の冥府から、魂魄のリサイクル経済崩壊の責任を無理やり取らされた結果、総大女神長や天使の地位に関係なく、奴隷同然に等しく扱われては、さもありなんでした。

 抗弁しようにも、死人になったことで、力関係は使い魔以下まで下落し、逆らってもまったく敵わず、無駄でした。

 自身に転生術を使って、冥界から逃亡を図っても、本職を奪われた死神たちが本領を発揮して即座に連れ戻されるので、これも無駄でした。

 天界を滅ぼされたそこの元住人たちは、なにをしても無駄だと悟ると、一瞬でも早く過酷な労働から解放してもらうため、あちこちの異世界から冥界に逝って来る死者の魂魄を、生者が住む異世界に送り返し続けました。

 むろん、毎秒兆単位で死んで来る死者に、転生の資格審議など実施する余裕などあるわけもなく、無条件で条件反射よりも速く送り返しました。

 後から死んで来た魔界の住人たちも、その中に混在していました。

 せっかく死んでくれたのに、転生させてはならない種族を、効率を最重視したため、構わず転生させたのでした。

 しかも、本来自我が発達してない胎児に転生させるのが、天界では厳守すべきルールなのに、自我の有無や年齢、種族に関係なく、各異世界の生者に無差別に無理やりねじ込んだので、多重人格者を始めとする人格破綻者が毎秒億単位で発生しました。

 当然、悪魔も各異世界で大量に出現し、人格破綻者もそのカテゴリーに分類されました。

 しかし、人類に虐げられられていた各異世界の住人たちにとって、そいつらの誕生は、救世主以外の何物でもありませんでした。

 隠れキリシタンよろしく、処刑時の元女神の堕天使Aの自作像に祈りを捧げ続けていた各異世界の住人たちは狂喜乱舞し、転生した悪魔たちにためらいなく魂をまとめ売りすると、神であるリア充Aが君臨する人類を打倒すべく、ともに反旗を翻しました。

 まさに神と悪魔の戦いでした。

 しかし、そんな戦いがあったことなど、一人も気づかないほどのあっけなさで、人類は全戦全勝しました。

 AIロボットがそいつらの比率が高くなった異世界に、その都度魔導核爆弾をポイ捨て感覚で投下しているからでした。

 人類にとって、悪魔の討伐はただのゴミ処理でしかありませんでした。


「はぁ、今日も平和だぜェ」


 こうして、某名作漫画の主人公の右腕に寄生したM氏の提唱どおりの定義に限りなく近い存在となった人類は、さらに近づけるべく、そこまでの道のりを無自覚かつ全速力で走り続けました。

 一方、死んで来る死者がついに毎秒京単位にまで膨れ上がった冥界では、ゴミクズと化した魂魄で満杯寸前になり、このままではパンクも時間の問題でした。

 効率を最重視した結果、更に悪化した事実に気づかない元天界の住人たちは、一向に好転しない事態に、冥界に強制移住させられてからずっとくすぶっていた怒りが次第にこみ上げて来ました。

 強制労働をさせられた当初は、互いの怒りを網目のような密度で投げ続けていましたが、いつしかこの場にいない天界の住人の一人に集約されました。

 すなわち、元女神の堕天使Aに。

 こいつが冥界に死んで来れば事態は好転すると、天界の住人たちは、口をそろえて死神たちに嘘八百を並べ立て、全責任を被せました。

 騙された死神たちは、そいつが死んで来るまでの間、引き続き天界の住人たちを使役し続けました。

 そいつの魂を狩りに行く余裕など絶無なので、止むを得ませんでした。

 どの死神も現職務を続行したので、その隙をついて逃亡を計画していた女神たちの思惑は見事に外れ、引き続き屈辱的な強制労働を課せられました。


『~~早く死んで来いっ! 疫病女神がァッ!!』


 何度核攻撃を受けても死なない元女神の堕天使Aがついに死んて来た瞬間、天界の元住人たちは、冒頭の死神たちの行為を、そっくりそのままの激しさで開始しました。

 シンデレラなら冒頭の一文字目で即死する凄絶な虐待を、同じ住人から受けまくった元女神の堕天使Aでしたが、肉体が完全にスライム状態だったので、どんな刺激を与えてもノーリアクションでした。

 超絶につまらないお笑い芸人みたいな状態の元女神の堕天使Aに、不満を過積載した元天界の住人たちは、喚き散らしながら苦しもがく姿をどうしても見たい一心と執念で、転生術作業を放棄して肉体復元術を編み出しました。

 むろん、詐欺師ばりの話術で、死神たちから許可を得た上でした。

 そして、肉体復元術を、スライム状態の元女神の堕天使Aに施した結果、見事に成功しました。

 それが終わりの始まりでした。

 せっかく耳の聴こえない老犬がひっかけたジョンベンのおかげで停止していた絶叫が、肉体復元術によって再開したからでした。

 唯一、半年にわたって人類と異世界住人たちを苦しめた近所迷惑な絶叫が届かなかった冥界に、再び、だが、パワーアップしてひびき渡りました。

 半年にわたって火あぶりされたことで、完全に自我が崩壊した元女神の堕天使Aは、もはやただの絶叫マシーンと化していました。

 肉体復元術を施してしまった天界の住人たちは、望み通りになったにも関わらず、喜ぶどころか、元女神の堕天使Aのようにもがき苦しみました。

 そうとは知らずに許可を与えてしまった死神たちも同様の状態になりました。

 むろん、どちらもそれぞれの仕事ができるわけもなく、冥界に死んで来る死者の魂魄は加速度的に蓄積され、冥界のパンクはカウントダウンの段階に入った直後、最悪にして最後の凶報を舞い込みました。

 人類が滅亡しました。

 パワーアップした元女神の堕天使Aの絶叫が、例外なくすべての世界にとどろき渡った影響で、ゴミ処理作業をしていたAIロボットが誤動作してしまい、無尽蔵かつ無計画に量産した魔導核爆弾を例外なく各世界に投下してしまったからでした。

 全生物の頂点に君臨したことで、堕天使よりも堕落した人類は、AIロボットにすべて丸投げしていたため、東暦二年を迎える前に悪魔と同じ末路をだどりました。

 こうして、冥界はパンクしました。

 前後左右上下の全方位を見渡しても、すし詰め状態の魂魄に囲まれているうえに、自身もそのひとつと化しているので、周囲の状況など、誰一人わかりませんでした。

 しかも、その状態で、引き続き元女神の堕天使Aの絶叫が轟いているため、防御手段のない全住人は、苦しみもがいたあげく発狂し、最後は自我が崩壊しました。

 一人残らず。

 こうして、すべての人が無我の境地になりました。

 永遠に。


                          《今度こそ、終わり》


 

 

 



 

 

 






 

 

 

 

 

 




 

 

 

 

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リア充を異世界に召喚したとある女神とそこの住人達の末路 赤城 努 @akagitsutomu

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