第7話 リア充を異世界に召喚したとある女神の末路(処刑編)

「殺せェッ!! 悪魔を殺せェッ!!」

「よくも今まで俺たちも脅かし続けてくれたなァッ!!」

「この悪魔めっ!!」

「くたばれ、悪魔っ!!」

「死ねェッ!! 悪魔っ!!」


 様々な怒号を乗せて、様々な種類の投擲物を、毎秒三桁でぶつけられている元女神の堕天使Aは、これまでの比ではない苦痛に、発狂寸前の状態になりました。回避したくても、三桁に届くほどの釘を全身にくまなく打ち止められては、完全に不可能でした。


「諸君! 静まりたまえ!」


 十字架ではりつけにされている元女神の堕天使Aの後方の頭上から、リア充Aが轟く声でなだめると、六桁に上る群衆たちは、瞬時に従い、投擲も止めました。


「我ら人類にとって、本日は今までの記念日よりも記念すべき日となる。なぜなら、悪魔におびえる日々が、未来永劫、二度と到来することがなくなるからだ」


 元女神の堕天使Aごしに、群衆を見下ろしているリア充Aの宣言に、現実世界の人類は、歓喜の喝采を上げました。


「おお、我らが救世主」

「あなたのおかげで、人類は救われました」

「これからはあなた様についていきます」

「どうか私たちを導いてください」

「必ず従いますから」


 リア充Aの元に集まった群衆は、現実世界での人種や言語に関係なく、リア充Aに絶対の忠誠と信仰を誓いました。

 第二話で二つ目の異世界を滅ぼしてからのリア充Aは、それまで受け続ていた不条理な不運や不遇など、あったがどうかすら怪しくなるほどの社会的地位を、マッハで築き上げました。

 異世界を使った様々な事業を立ち上げ、それに邪魔な天界の住人どもを葬り、利用価値の失った魔界の悪魔たちを消し去ったリア充Aの功績は、人類社会における偉人たちのそれをはるかに超越していました。

 その上、人類が原因で起きた気候変動による人類存亡の危機を、ノアの箱舟よろしく、自身の転移術で異世界に無事避難させたとあっては、その地位を不動のものにしたと言っても過言ではありませんでした。


 その結果、リア充Aは新世界の神になりました。


 人類史上、二人目の現人神の誕生です。


 その場を、当時は女神だった元女神の堕天使Aに召喚された異世界に、リア充Aは選び、それに先立ち、宣言しました。

 その瞬間、リア充Aの信者は核爆発的に増え、瞬く間に『リア充A教』が布教されました。

 その規模は、一人目の現人神信者だけでなく、数々の非現人神のそれをも超えました。

 逆らうなど、それこそ言語道断でした。

 だが、その言語道断を、各異世界の住人たちは犯しましたが、人類の科学技術と異世界住人の魔導技術が合わさった力を持つ人類の前に、なす術もなく虐殺されました。

 元々人権のない害虫として、国際法的に見なしていたので、法的な問題もなく実行できました。

 今となっては、異世界は一人一個の所有が当たり前となり、今後は複数が主流になると見込まれました。

 無論、天界の住人たちみたいな、ずさん極まる管理システムよりも徹底したそれを、リア充Aの原案で構築したので、安全に自分の異世界を好き勝手にすることができました。

 最後の生き残りである悪魔を発見することができたのも、その賜物です。

 本当は元女神の堕天使である元女神の堕天使Aは、人類から悪魔と勘違いされたまま、とある異世界の辺境で、細々とエンジョイしていたヒキニート生活を奪われたあげく、現在の状態になりました。

 三度に及ぶ核系の攻撃を受けた影響で、外見はもはや、頭部と四肢がかろうじて認識できる泥人形にまでなり果てたにも関わらず、最初の発見者が発した原住民の一言によって、そのように見なされてしましました。

 その報を受けたリア充Aは、神と『東暦』の発行宣言の予定の日程に、最後の生き残りの悪魔の公開処刑を組み込み、その記念に華を添えることにしたのです。


「ではこれより、最後の生き残りである悪魔の処刑を執行する」


 自身の宣言で最高潮のテンションになった群衆を見下ろしながら、リア充Aは、豪奢な法衣を身にまとった姿で、心の底から憐れんでいました。

 実在するかどうかもわからなかった神や悪魔を、実在していた存在として実際に葬っただけで、簡単に自分を神に祭り上げてくれた無知な彼らの愚かさを。

 実際、自分が実見した神や悪魔は、神に祭り上げてくれた彼らの想像通りな存在ではありませんでした。

 確かに、現実世界の国や人種によって、若干の食い違いはありましたが、少なくても、神がブラック企業体質だったり、悪魔が民主主義体質だったという想像をしていた人間は一人もいませんでした。

 そもそも神や悪魔は、元々人間が勝手に創り上げた概念上の存在であり、それっぽい存在を、実在の有無に関係なく、勝手に当てはめ、勝手に信じて、勝手に怯えるという光景は、対象たる自身に祈る某女神のようにしか見えませんでした。

 もっとも、そのおかげで自分を神として勝手に祭り上げてくれたので、そんな罰当たりな行為はしません。

 ましてや、魔王と個人的な密約を交わしたという後ろ暗い事実があってはなおさらです。

 しかも、それを示唆する物証を、悪魔らしき存在に掴まれては、発覚の恐れすらありました。

 ゆえに、その物証を魔界ごと隠滅するために、悪魔の撲滅を国際会議で提案したのです。

 無論、上記の事情により、決定まで一分もかかりませんでした。

 それでも、自分たちの手で実行するのは、神を撲滅した時と同様、怖いので、それは言い出しっぺたるリア充Aに、神の撲滅時と同様、一任されました。

 無論、リア充Aは引き受けましたが、当然、安請け合いはせず、その心理を存分に突いて、可能な限りの高値で引き受けました。

 彼らからすれば、火中の栗を拾わせる行為であっても、リア充Aからすれば、そんな行為など、入浴感覚でしかありません。

 いずれにしても、自然災害から人類を救った功績も合わさった結果、リア充Aは現在の地位に至りました。

 人類の頂点たる神として。

 これから行われる悪魔の処刑は、その総仕上げです。

 この悪魔の正体が、元女神の堕天使Aであろうがなかろうが、今となってはどうでもいいことでした。

 口が聞けない状態なのもさることながら、『悪魔』の言うことなど、今の『人類』が信じるわけがありません。

 その光景を、異世界間通信テレビで視聴していた各異世界の住人たちは、最後の希望が絶たれ、絶望していました。

 際限なく勢力拡大を続ける人類に対抗しうる、最大にして最後の勢力だった最後の生き残りが処刑されるとあっては、当然でした。

 人類に虐げられている各異世界の住人たちにとって、最後の希望でした。

 最後の生き残りを神として祭り上げ、はかなくも抵抗を続けていた信者たちも、ついに心が折れました。

 そして、すでに折れ済みの元女神の堕天使Aは、一瞬でも早く楽にして欲しい思いでした。女神時代だった頃ですらここまで信者が集まらなかったのに、天界史上、最多の信者をこんな外見で今更集めても、何の足しにもなりませんでした。


「いいから早く殺して」


 だが、その願いは無残に粉砕されました。

 

「この悪魔を火刑に処する」


 それは、人類にとって、数ある処刑法の中で一番残酷で苦しい処刑でした。


 火刑が開始された元女神の堕天使Aの口から、断末魔を超えた絶叫が放たれました。

 今まで味わったことのない激痛に、元女神の堕天使Aの身体は徐々に溶けていき、燃え盛る薪の上に落ちた時は、完全にスライムと化しました。

 リア充Aのそばにいるその婚約者は、その汚物に指をさして高笑いしました。リア充Bを殺した憎き女神だと、女の勘でその場で察したとあっては、これ以上はない娯楽でした。

 その哄笑は半日でやっと収まりましたが、絶叫の方は半年が経っても収まる気配がありませんでした。

 しかも、その絶叫は他の異世界まで響きわたり、今では深刻な騒音問題になってしまいました。

 その間、色々な方法を試しても殺せないと判断したリア充Aは、一瞬でも早く解決させるべく、『リア充A教』における最高神官の地位を餌に、騒音被害に悩まされている同じ人類にアイデアを公募しました。

 このままでは神としての威信が失ってしまうからでした。

 しかし、公募したすべてのアイデアを試しても効果がありませんでした。

 科学技術と魔導技術を組み合わせた最新の技術を用いたにも関わらず、聞き苦しい喚き声は止む気配がありませんでした。

 リア充Aが万事休すと思われれた矢先、ふいに聞き苦しい喚き声が止まりました。

 発生源がいる場所を確認すると、そこにいたはずの元女神の堕天使だったスライムAの姿がどこにも見当たりませんでした。

 調査はしたものの、結局、わからないまま終わりました。

 無論、耳の聴こえない通りがかりの老犬がひっかけたションベンで、跡形もなく蒸発してしまった事実など、知りようがありませんでした。

 そこに監視カメラを設置しても、高音波の影響でどれも数秒で破壊される上に、近場だと人間の鼓膜が破れるからでした。

 ――こうして、元女神の堕天使だったスライムAは死にました。

 

                                〈続く〉

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