第6話 リア充を異世界に召喚したとある女神とそこの住人達の末路(魔界編)
「なんでさっさと人間どもを殲滅しないのよっ!?」
元女神の天使Aは凄まじい形相で怒声で魔王を責めまくりました。野球ボールサイズやバスケットボールサイズの原子爆弾を二度も受けながらも、ゴキブリなみにじぶとい元女神の天使Aの身体と心は、その影響で、元凶たるリア充Aと同様、鎮火不可能な規模の復讐の炎が燃え上がっていました。マグマを超える激しさでたぎり続ける憎悪のあまり、元女神の天使Aは、今度は魔王に人類抹殺計画を持ち掛けたのでした。
一方、持ち掛けられた魔王の方は、当初は乗り気ではありませんでした。魔王や悪魔たちの悲願だった天界の打倒や、目障りな精霊界の滅亡に協力的だったリア充Aとその人類に対して、少なからず恩を感じていたからでした。このまま何事もなく推移すれば、魔界最高の称号『大魔王』の授与も時間の問題でした。
しかし、ズタボロの状態で来訪した元女神の天使Aが、時間しかなかったはずの問題を、三桁のクレーターサイズで蒸し返しました。
普通の説得では動かないと悟った元女神の天使Aは、いったいどこで掴んで来たのか、リア充Aと魔王の間で交わした、両者しか知らないはずの密約同盟をネタに、脅して来たのです。
これにはさすがの魔王を青ざめました。現実世界に住む人類の力を借りて、天界や精霊界を滅ぼした事実を、配下の悪魔たちに知られたら、『大魔王』の授与はおろか、ただの使い魔に降格されてしまうからでした。魔王たる者が魔王以外の力を借りるなど、魔界の住人からすれば、言語道断でしかありませんでした。
さっそく脅しに屈した魔王でしたが、脅迫者が持ち掛けた計画を即座に実行するには、ハードルが高く、かつ、時間がかかる内容でした。
自身の配下たる最高幹部たちの三分の二以上の賛同を得られなけば、今件に限らず、何事も実行できないからです。
一個人に
今まで誰一人反対したり、滞ったりすることもなく遂行できたのは、魔王と幹部の意思が常に一致していたからでした。
しかし、元女神の天使Aが持ち掛けた人類抹殺計画を、幹部会議の議案として提出したら、紛糾するに違いないと、魔王は確信していました。
配下であるはずの最高幹部の多くが、すでに親人類派になっていたからでした。
第一話で仲間と異世界を即座に売り飛ばしたリア充Aの悪魔的な行為が、悪魔たちの間で人類ごと好意を抱いていたのです。
無論、第二話以降に交わした同盟の密約など、魔王以外の悪魔たちは全く知りません。
そんな空気の中でこんな計画を議題に上げたら、紛糾の末に素粒子レベルで分断となるのは、目に見えていました。
魔王は頭を抱えました。
「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!」
元女神の天使Aは憎悪に等しいもどかしさを覚えました。魔王のくせに、なぜゴミ同然の配下に、健全な民主主義体制の政治家みたいな配慮をしなければならないのか、天界で受けた過労や虐待よりも理解に苦しみました。魔王らしく、力ずくで配下を従わせろと、元女神の天使Aは叫びたかったのでしたが、その結果、精霊界の二の舞になっては元も子もないので、かきむしりたくなるほどのもどかしさを、爪痕のごとく覚えました。天井知らずに増長し続ける現在の人類に対抗しうる勢力は、もはやここしか残されてないとあっては、メートル単位の深さでした。
そういうわけで、元女神の天使Aも頭を抱えましたが、諦めるなど論外なので、説得なのか脅迫なのか、自身でも分類しにくいレトリックを駆使して、魔王の決断を、自分の願望通りにすべく、必死に誘導しました。
元女神の天使Aの願望通りに魔王が決断したのは、それから半年後でした。
「それでもアンタは魔王なのっ!?」
このセリフが決定打となりました。
正直、元女神の天使に、悪魔の王である魔王の何たるかを説教される筋合いはないはずでしたが、それでも、魔王の何たるかを思い出した魔王の誇りを、完全に取り戻したことに変わりはありませんでした。
それでも、この密約を交わせば、悪魔と契約した罰として堕天使になる旨を、そんな筋合いはないはずの元女神の天使Aに、本来存在しないはずの良心の呵責に駆られて伝えましたが、元女神の天使Aは、悪魔に魂を売ったリア充Aの感覚と値段で、受け入れました。
こうして、堕天使となった元女神の堕天使Aは、親人類派の多い魔界の悪魔どもに、人類抹殺計画を決断させるべく、リア充Aばりの政治工作を、黒幕よろしく魔王の背後に隠れながらその耳に吹き込みました。
まさに悪魔の囁きでした。
幸い、二度の原子爆弾を受けた影響で、外見が悪魔よりも醜くなっていたため、元女神の堕天使だと気づく悪魔は存在せず、ただの使い魔としてしか認識していませんでした。
人類抹殺計画が魔王と最高幹部たちの間で可決されたのは、それから更に半年が経った後でした。
元女神の堕天使Aは魔王の足元で感涙にむせました。精霊界の時は誰も聞く耳を貸さずに自滅したので、今度はちゃんを聞いてくれて嬉しかったのでした。
涙にぼやけながらも立ち上がった元女神の堕天使Aは、はりきって人類抹殺計画のお手伝いをするべく、新たに進言しようとした矢先、ぼやけた視界の隅から、ゴルフボールサイズの玉が、グリーン上でのバーディートライのように転がってきました。そして、チップインバーディーのように元女神の堕天使Aの足元に当たった瞬間、人類抹殺計画の議決期間中に完成させた魔導核爆弾が炸裂しました。
原子爆弾の比ではない規模と破壊力を、悪魔たちと魔界は受けると、そこに残ったのは、完全なる『無』でした。
――こうして、人類に対抗しうる最大にして最後の勢力は、その人類に滅ぼされました。
〈終わり〉
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