第5話 リア充を異世界に召喚したとある女神とそこの住人達の末路(精霊界編)

「ヤメテェッ!! お願いだからァッ!!」


 核爆弾よりも激しい天変地異を目の当たりにした元女神の天使Aは、悲痛な大声を上げました。しかし、眼前の状況にふさわしい轟音でむなしくかき消され、自身の耳すら届きませんでした。

 魔王軍に占拠された天界から、六桁まで増えた悪魔どもの集団私刑フルボッコに耐えながらも、命からがら逃げきった元女神の天使Aは、自宅もろとも天界を滅亡に追いやった元凶のリア充Aと、そいつが率いる人類に報復すべく、精霊界にたどり着きました。

 その依頼を目的に。

 各異世界の天候操作はおろか、天変地異さえ起こせる精霊の絶大な力なら、現実世界で頻繁に起きている異常気象すら対処できない人類など、赤子でも簡単に捻れると思ったからでした。

 面会前にそれを目撃して確信しました。

 このままだと精霊が全滅することも。

 悲痛な悲鳴で制止を叫んでいるのは、向けるべき対象が、人類ではなく、同族に対してだからでした。

 そんな強大な力を同族に対して浪費しては、抹殺できる人類も抹殺できなくなってしまうので、元女神の天使Aは、抗争中止の懇願を、嵐のような攻撃を応酬する同族の精霊たちに続けましたが、およそ一分でムダな努力だと思い知ると、説得の対象を精霊界を統べる精霊王に切り替えました。しかし、その精霊王は、ヤク漬けにされた麻薬中毒者さながらな状態で、説得はおろか、会話も不可能でした。


「……い、いったい、なにが……」


 いったい何回すればいいのかと言いたくなるくらいにパルプンテな状態と化した元女神の天使Aは、加速度的に拡大する同族の抗争に、そのまま巻き込まれ、瞬時に意識が飛びました。光年単位までふっ飛んだ意識がやっと戻った後、精霊界で生き残っているのは、元女神の天使Aだけでした。

 それ以外である精霊は残らずくたばりました。


「……そ、そんな……」


 死亡済みの精霊で敷き詰められた精霊界の光景を前に、ただ茫然と立ち尽くす元女神の天使Aでしたが、頭部に途轍もない衝撃を喰らうと、再度意識が飛びました。


「――オイオイ。思いっきりやりすぎだって。作動する前に粉々になっちまったよ」


 だが、聞き覚えのある声で瞬時に意識を戻した元女神の天使Aは、これも見覚えのある相手の姿を視認して驚愕しました。


「――いくら婚約者を殺した憎い仇だからって、れなければ意味がないぜ」


 隣にいるリア充Aに諭された元リア充Bの婚約者は、それでも憎悪をたぎらせずにはいられませんでした。


(――計画通り――)


 と、笑みを浮かべずにはいられない現在の婚約者――リア充Aの思惑を知らずに。

 現実世界の人類が初めて異世界を蹂躙させたリア充Aは、その世界において、巨万の富と栄誉を欲しいままにしましたが、元婚約者の愛だけは欲しいままにできず、元より鎮火不可能な復讐の炎は拡大の一途を辿っていました。

 それを煽ったのが、現実世界での他国からの異世界分割譲渡の要求と悪魔からのクレームでした。

 前者は他国の欲深さに忌々しく思いながらも、幸い、異世界の存在が無数なのは調査ずみなので、アメ玉感覚で各国にあげまくって落ち着かせました。後者は、自衛隊が侵略したあの異世界を侵略する際、リア充Aの手引きで潜り込ませていた悪魔が、勢いあまった自衛隊の過剰殺戮オーバーキルに巻き込まれた被害の補償を、リア充Aが自身で調査した各異世界の情報を無償で提供することで解決しました。その巻き込まれた悪魔は、他称勇者ことリア充Aの仲間パーティに扮した悪魔で、無論、その仲間パーティの末路は一回目のそれと同様であり、正体を隠した悪魔とともに持ち帰った魔王の首もニセモノでした。仲間パーティを売り渡した際、リア充Aは魔王と相互不可侵・不可殺条約を、リア充A以外の人類には内密で締結しましたが、リア充Aが鎮火不可能な規模で燃え上がった復讐の炎で、脳内記憶にしか残してなかったその条約文書を、素粒子の欠片すら残さずに焼き尽くしてしまったために起きた不手際でした。

 リア充Aの脳裏に浮かんだのは、これらの処理を済ませた過程でした。


(――リア充Bを謀殺してヨリを戻し、その罪をあの疫病女神になすりつける――)


 という名案が。

 異世界住人を大量殺戮してのけたリア充Aにとって、現実世界の人間に手をかける行為に、ためらいや罪悪感などまったく覚えませんでした。ましてや、ウソ八百を吹き込んで婚約者の心を奪ったにっくき恋敵なら、なおさらでした。そして、疫病女神こと元女神の天使Aに至っては、言わずもがなでした。

 最後の任地となった元女神の天使Aの任地に魔王をけしかけ、元女神の天使Aに転移術を使用せざるをえない状況にまで追い込ませると、刑務所ブタ箱に服役中のリア充Bを、元女神の天使Aから授かった転移術で、その異世界に飛ばして悪魔に殺させることに成功しました。

 その訃報を知って嘆き悲しむリア充Bの婚約者の心の隙ができるのを待っていたリア充Aは、素粒子サイズの針穴を通すような正確さでつけ込んで、リア充Bに劣らぬ嘘八百を吹き込み、その結果、リア充Bを殺したのは元女神の天使Aだと信じ込ませることにも成功しました。


「~~あのクソ女神を絶対にぶち殺してくれるなら~~」


 という条件で、リア充Aは元婚約者との再婚約を果たしました。

 現実世界の主要国家元首たちを引き連れて天界に乗り込み、相手の反応や対応に関係なく、抹殺される前に抹殺したのも、最初からそのつもりでした。

 しかし、肝心の元女神の天使Aだけが、しぶとくも逃げ延びたので、転移術でここまで追ってきた次第でした。

 当然、元女神の天使Aも、悪魔よりも悪辣なリア充Aの思惑など知る由もなく、だが、殺されるのは確実なので、ダメージが回復次第、即座に逃げ出しました。

 しかし遅すぎでした。

 時速二○○キロのマサカリ投法で投擲した野球ボールサイズの核爆弾が、元女神の天使Aの背中に、一回目と同様、直撃しました。

 その時は作動前に粉々に四散したので本来の機能を発揮しませんでしたが、今度は硬い頭部ではなかったので、機能どおりに作動しました。


「――今度こそ始末したわね」


 炸裂直前に転移術で一旦避難したリア充Aの婚約者は、放射線防護服に身を包んで戻ってくると、地平線しかなくなった精霊界の周囲を見回しました。


「――ああ、計画通りにな」


 同行した婚約者もそれに倣うと、両者は善良や良心と絶縁した表情で笑いながら、願って止まなかった元女神の天使Aの抹殺の成功を心の奥底から喜びました。

 計画通りに終わった元女神の天使A抹殺計画に。

 しかし、精霊界の内ゲバまではリア充Aの計画通りではありませんでした。

 ――というより、最初から計画にありませんでした。

 なので、現実世界で最も廃棄に困っている核廃棄物を、転移術で適当に投棄した投棄先が精霊界である事実や、そこの精霊王が、偶然発見した核廃棄物に接触した結果、重度の麻薬中毒者な状態になったことで威信が完全失墜し、次期精霊王の座を巡って、地水火風の各属性を有する四大派閥が相争って自滅した真相など、こちらも知る由もありませんでした。


 ――こうして、精霊界は勝手に滅びました。


                                 〈終わり〉

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