跋
それから先は夢と現実の区別がつかない。
気がつくと自宅に帰っていた。
私が次代に選ばれたと決まると、家長からぬらりひょんについての説明がなされた。担当したのは首を切り落とした張本人だ。私は、全く何も聞きたくなかった。むしろ聞かぬように努力した。発狂しなかっただけましである。
気持ちとは裏腹に、私の脳味噌は家長の言葉をしっかりと記憶していた。
ぬらりひょんは、寿命になるまで何があっても絶対に死なない。病気でも、怪我でもである。しかし、不老ではない。ほとんどの場合、寿命を迎えるのは百を越えてからだそうだ。少なくとも、八十の後半までは必ず生きるという。つまり、それまでの命は保証されているわけだ。
寿命が来たことは、本人が自覚するらしい。その時は、本家に申し出れば一族をそろえて今回のように葬式をあげてくれるという。
葬式をしないとどうなるのか聞くと、寿命を超えても生きていると、化け物になってしまうので、死んでしまわないといけない、と怖い顔で言われた。
全く馬鹿げた話だし、信じていない。なぜ、殺されなくてはならないのか、納得もできない。それは寿命とは言わない。
これまでにも選ばれてしまった者で同じようなことを考えた者がいたようだが、最期には皆葬式という名のもとに殺されることを望んだという。理由は本人にしかわからないと言われた。
疑問はもう一つあったが、こちらは胸の内に留めた。何故、親戚一同の中で最も血が薄い私が選ばれたのだろう。そう考えると疑わしい。本家は遠い血筋の分家とも言えないような私に、忌まわしい慣習を押し付けたのではないか。そもそも、首を切り落とす方向によっては選ばれやすい人と、絶対に選ばれない人が出るのは自明の理である。私が選ばれるように仕組み、事情を飲み込めていない私を押し切って騙す。そういうことも可能であろう。
しかし目が合って、言葉をかけられたことは、認めたくはないが事実である。普通に考えれば、生首は声を出せないだろうから、超常現象と言われれば信じそうになる。何らかのトリックがあったとも考えられるが……。
とにかく、どうあってもこのような理不尽な理由で殺されたくはない。
親戚との縁を切り、全く無視して何事もなかったかのように生活することもできるが、これから生まれてくる自分の子どもに自分と同じ理不尽な経験をさせてしまう可能性を残したくはない。自らの手で決着をつけよう。
とは言え、何か起きるとしてもまだまだ先の事だろう。
例えば、寿命と言われた八十後半まで生きるとすれば、まだ五十年以上の歳月が残されている。
焦ることはない。
そうだ。まず警察、行こう。
こうして私はぬらりひょんに選ばれた。
寿命を迎えるまでは不死身である。
ぬらりひょんの葬式 テトラ @hikonar
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます