エピローグ
第159話 エピローグ、あるいはその後の大魔導
その後のお話。
魔物使いのメリッサ、記す。
魔王オルゴンゾーラは倒されて、世界には平和が戻った。
まあ、ウェスカーさんたちが大暴れして、しっちゃかめっちゃかになった世界を平和って言うなら、多分平和なんじゃないかな……?
世界は、最後のワールドピースに封印されていた島も次々に現れて、とたんに賑やかになった。
ユーティリット連合王国以外の国も現れて、ちょっとずつ交流も始まっているみたい。
橋の町で蒸気船なハブーは、魔力が必要な運行装置を改善して、誰でも動かせるようにしたんだって。
今ではハブーは大忙し。
世界中の海を巡り、新しい島の人たちを連れてくる。
アナベルさんは、そこで艦長さんみたいな地位になったとか。
私たちと一番仲が良かったひとだもんね。
ちなみに……彼女の恋心は、実らなかったみたい。
今はとにかく、仕事に邁進するんだって。
彼女にもきっと、素敵な人が現れる……といいなあ、何て思う私なのだった。
マリエルさん。
彼女がいたサンゴ礁の島は、魔王の塔が現れる時に潰れてしまった。
だから、マリエルさんは今、あの島々に住んでいたみんなを集めて、村を再興しようとしている。
魔王が倒されて、封じられていた人魚たちも次々に戻ってきてる。
この間あそこを通りかかったら、マリエルさんによく似た人魚の女の子が手を振ってた。
もしかして、妹さんか、娘さんだったり……?
人魚がいる海ということで、そこはちょっとした観光地になった。
人が訪れるようになって、お金も落ちてくるようになり、村の復興は順調に進んでいる。
ゼインさん。
彼は、マクベロン王国に戻った……なんてことはなくて、なぜかマリエルさんの仕事を手伝ってる。
あれ、絶対にマリエルさんを口説く気なのだ。
今ならウェスカーさんもいないし、邪魔する人はないもんね。
ブレない人だ。
そして、復興しようとする村や、人魚という珍しい生き物に良からぬ気持ちで近づく人もいるわけで、そういう人はゼインさんが片っ端からやっつけている。
この間は、たった一人で、新しい島から来た海賊団を壊滅させたんだって。
「魔王よりは楽だったわ」って言ってたけど、そりゃあねえ。
クリストファさんは、神様の島に戻……らないんだなあ、これが。
うちのパーティの人たちって、基本的に自由だよね。
どういうわけか、闇の女神教団に参加したクリストファさんは、女神キータスちゃんを連れて、全国に教団の教えを広める旅に出た。
彼はいつの間にか、ウェスカーさんから遠い距離を移動する魔法を習っていて、これを便利に使っているとか。
「新しい島をですね。まるごとひとつ教化したんですよ。いやあ、まっさらなものを染め上げるのは楽しいですね」とか言うこの人、第二の魔王になったりしないかな? とちょっと心配な私。
爽やかな見た目だけど、お腹の中では何を考えているか分からないような人だもんね。
あ、私は知ってる。
この人、自分が面白く暮らすことしか考えてない。
ゴリラは、ユーティリット連合王国から、新天地を目指す人を集めて火山島に戻った。
島で生き残っている人は少ししかいないけれど、新しく移住する人たちと、島を盛り上げていっているみたい。
ゴリラは結構リーダーシップがあるみたいで、移民の人たちは彼を中心として、一丸となっている。
多分、私たちの仲間になった中で、一番まともなんじゃないかな、ゴリラ。
ユーティリット連合王国ってさっきから言っているけれど、この国は大きく変わった。
何しろ、魔王を倒して戻ってきた、初代国王レヴィア一世陛下が、いきなり退位を口にしたからだ。
「私は権力に何の魅力も感じないからな! 後は好きにしろ」なんて言葉を残したから、それはもう大変だった。
ただでさえ、革命で興った国で、しかも彼女の腕力……おほん、カリスマでまとまっていたようなものなのだ。
そんなトップがいなくなれば、あっという間に国が乱れる。
頭を抱えた宰相のリチャードさん、この人、革命の立役者なんだけど、権力欲はそこまで無かったので、女王の兄であるガーヴィン様に声を掛けた。
ということで、二代目国王、ガーヴィン一世が即位し、ユーティリット連合王国はまた平和に戻ったの。
王位を譲る式が行われたけれど、そこに先代女王は姿を現さなかった。
もう、ルンルン気分で別のところに旅立った後だったの。
最初はガーヴィン一世に反抗する、レヴィア女王至上主義者達もいたけれど、いつの間にか彼らは消えてしまった。
先代女王を担ぎ上げようと直談判に行って、まとめて吹き飛ばされたんだと思うな、私は。
ガーヴィン一世の治世は、とっても穏健でまとも。
傍らには、常に奥さんのアレーナちゃんがいて、彼の精神的支えになってるみたい。
もうすぐ子供も生まれるみたいで、国の関心は、新たな島々との交流と、王家の跡継ぎ誕生に向かっている。
あっという間に、あのとんでもない先代女王のことなんか忘れられちゃったわけだ。
そして。
私は今、馬車に乗っている。
抱っこしているのは、ボンゴレだけ。
この子も、結構大きくなってきた。
魔法の力で、子猫から大きな姿に変わっていたけれど、これから段々、あの大きな姿が普通になるのかな?
「フャン?」
「いいのいいの。ひとりごと。ボンゴレはいつも可愛いよー」
「フャーン」
私は彼を、わしゃわしゃと撫でた。
ボンゴレは大きくなったけど、私だって背が伸びた。
こうして、育ったボンゴレをまだ抱きかかえてられる。
でも、もう少ししたら、私が上に乗せられるようになるんじゃないかな。
「もうすぐキーン村だねえ」
「フャン」
「ソファくんに乗ってた時は、あっという間だったけど……。あれって思えば、とんでもない速さだったんだねえ」
「フャンフャン」
ボンゴレに話しかける私に、乗客たちは不思議なものを見る目を向ける。
中には、露骨に動物を馬車に乗せるなんて、という人もいる。
だけど、誰も私に文句を言うことはできない。
私はボンゴレと二人、乗客たちの後ろにある、VIP席に乗ってるんだもの。
「あ、見えてきたよ!」
「フャン!」
馬車の窓から、見違えるほど大きくなったキーン村が見える。
動物よけに作られていた柵は豪華になり、その向こうに、幾つも高い建物が見える。
入り口は、もう、門と言っていいだろう。
連合王国にあって、一国に匹敵するほどの土地を占めるようになったこのキーン村。
新しく就任した村長が、近々叙爵され、キーン男爵領になるという話だ。
馬車が止まり、私はボンゴレと一緒に降りた。
門の前には、馬車の停留所があって、幾つもの駅馬車が停まっていた。
これに乗って、たくさんの人たちが王都を訪れる。
あるいは、たくさんの人たちが新天地を目指す。
でも、私の目的地はここ。
「入村許可証を……アッ……!! ウ、ウェスカーさんのお友達で……!? どうぞどうぞ……」
私は入り口の検問を、するりと通り抜ける。
村の中は、石畳で整備され、以前来た時とはまるで別の場所だった。
家々も立派になり、あちこちに、観光客用のお店や宿がある。
ここは、連合王国から新天地へ向かう、旅人のための拠点でもあるのだ。
「さて、と。二人の家は……」
「フャン!」
「二人のにおいがする? じゃあ、案内してくれたまえ、ボンゴレくん!」
「フャン!」
ボンゴレに導かれて、村の奥へと突き進む私。
どんどん進むと、やがて町並みが途絶えて、草木がぼうぼうに茂った場所に出る。
その一番奥に、家が見えた。
家の周りだけ、きれいに草が掃除されている。
わらぶき屋根の素朴な家で、その脇には双子の木が立っていた。
木の間にはハンモックが吊るされていて、誰かがそこで寝ている。
「ウェスカーさーん!」
私が呼ぶと、ハンモックの上の人がごそごそと動いた。
そして、ハンモックがぐるんと裏返り、その人はボテッと落っこちた。
「ぐえー」
「やっぱりウェスカーさんだ。変わってないねえ」
「フャン」
近づいてみたら、潰れたカエルみたいな格好になって、大魔導ウェスカーさんはのびていた。
つんつんとつつく。
ちょっと太ったみたい?
「おう、メリッサか。太った?」
「太ってないですー! 久しぶりにあうのに、いきなり太ったって、ウェスカーさん相変わらずデリカシーがないー!」
私は容赦なく、彼のお腹をつついた。
うわあ、本当に太ってる!
「ははは、やめろやめろ。もしかしてお腹のなかに赤ちゃんがいるかもしれん」
「いるわけないでしょー!」
ぶにぶにと、お腹をもんだ。
「あら、賑やかね? この気配はメリッサとボンゴレね?」
扉が開いて、穏やかな声がした。
言葉の内容がちょっとおかしいんだけど、この人の場合、気配で相手が誰だか当てるくらいはする。
元女王陛下で、今はただの人。
レヴィア一世陛下あらため……レヴィアさん。
「久しぶり、レヴィアさん!」
「メリッサ、やっぱり! どう? 兄上はまだ暗殺されてない?」
「うん、元気にやってるよー。アレーナちゃん、もうすぐ子供が生まれるって」
「そう。子供はめでたいわね。兄上に似ないといいわねえ」
すっかり女らしくなって、長い髪を編んで肩から垂らしている彼女は、素朴な服装ながらとってもきれいだった。
相変わらず、ガーヴィン陛下の事は嫌いみたいだけど。
元女王と、現役大魔導のこの夫婦。
村ではどう扱っていいか誰も分からなくて、こうして腫れ物を触るような立場らしい。
そりゃそうだよね。
魔王を殴り倒したり、おならで倒したような人たちだもの。
誰にだって、どうにもできない。
「しかし、メリッサはあれだな。太ったんじゃなくて背が伸びたんだなあ」
起き上がったウェスカーさんが、私とレヴィアさんを見比べる。
昔は、ずっと小さかった私。
今では、レヴィアさんの顎の辺りまでの背丈になっている。
「それはそうだよ。何年経ったと思ってるの? 私、もうすぐ十五歳なんだから」
「そうかあ……。俺も年を取るはずなのだ。最近ではすっかり、魔法も使わなくなって腕がなまってなあ……。たまにゼロイド師が遊びに来た時と、うちの娘と遊ぶときしか魔法使わないからな」
「そうだ! リディアちゃん! 見かけないけど、元気?」
私が問うと、レヴィアさんは嬉しそうにうなずいた。
「元気よ。私も彼も、リディアには英才教育をしているの。まだ二歳だけど、もう目からエナジーボルトだって出せるし、この間は投げつけた枝で熊を仕留めたわ」
「あっ、やっちゃいけない英才教育だ」
私は深く突っ込まないことにした。
リディアちゃんは、二人の子供。
髪の色や性格はウェスカーさん、見た目はレヴィアさんによく似ていて。
「ママー、パパー」
「噂をしたら! リディアちゃーん!」
「あーっ、メー!」
家の窓が開いて、そこから小さな女の子が文字通り飛んできた。
リディアちゃんは、私のことをメーって呼ぶんだけど……この年でもう飛べるとは、末恐ろしい。
私に抱きついてきた彼女は、私のお腹をぺたぺたした。
「ぷくぷく?」
「太ってないよ!」
すぐ、人に太ったって言う辺りは間違いなくウェスカーさんだ。
だけど、ふわふわの髪と、もちもちお肌。つぶらな瞳。
レヴィアさんから綺麗なところは全部受け継いでるなあ。
二人を足して割らない感じ。
うん。
この子をこの二人の教育だけに任せて、世に解き放ってはいけない。
私はそう決意するのだった。
そんな時。
村のほうが騒がしくなった。
ばたばたと、たくさんの人が走ってくる音がする。
「ウェスカー殿ー!! 大魔導殿ー!!」
「あっ、ラード氏」
これは明らかにぷくぷくに太った、連合王国執政官のラードさんが汗だくになって走ってくる。
「た、大変ですウェスカー殿! 今度は、王国の地下に封じられていた邪神が、復活を! 邪神教団と闇の女神教団が抗争を開始しまして、ここはウェスカー導師の力がなければとても……!」
「おほー!」
嬉しそうに、ウェスカーさんが飛び上がった。
「ほほー!」
レヴィアさんがにんまり笑った。
「んんー?」
リディアちゃんが首を傾げた。
「ここは、レヴィア。退屈な生活に訪れた、一時の潤いではあるまいか」
「いいわねえ。たまには体を動かさないとね」
「我ら家族の威力を見せてやろう」
そう言って、ウェスカーさんはリディアちゃんを抱っこし……いや、小脇に抱え込んだ。
「ぱぱー!」
「そうだぞー! パパとママとリディアで遊びに行くのだ」
「あそび! わーい!」
「ちょっとした家族旅行ね。ラード、それは一体どこなの?」
「へ!? 女王陛下……いえ、奥様まで行くんですか……!? あの、できれば大破壊は引き起こさないようにして頂けるとありがたく……」
「ははは」
「わはは」
レヴィアさん、ウェスカーさん、笑って誤魔化した。
これは私もついていかないと……!
……ということで。
世界はまだまだ、平和には程遠いけれど。
この人たちがいる限り、世界は賑やかなんだろうなあ、と思う私なのだった。
いきなり大魔導! ~地主の息子で天才魔導師! だが魔法は目とか尻から出る~ あけちともあき @nyankoteacher7
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