敗者の休息
「お……おい、どこだ、ここは?」
俺が、通学中にトラックに轢き殺され、この世界に転生して二〇日ほど。
俺は、ある理由で「目の見えない飛び道具使い」と云う、我ながら哀れで笑える代物に成り果てた。
しかし、俺は、何者かに乗り物に乗せられ(車輪の音と馬らしき鳴声が聞こえた事からして、多分、馬車だろう)……連れて来られたのは……だから、どこなんだよ、ここはッ⁉ 判るのは、人の足音や話し声、馬車か何かが行き交う音が、時々……そして、山に居た時とは明らかに違う臭い……。ここは、どこかの町か村なのか?
「あんたが、あの山に住んでた猟師の爺さんの弟子になった『転生者』なのか?」
若い女の声だ。多分、俺と同じ位の年齢。聞いた事が有るような気がするが……思い出せない。
「あ……あぁ、そうだ」
実は違うが、ここは話を合わせた方が良さそうだ。
「爺さんが、この町の市場に来た時に、あんたの事を話してるのと聞いてね。爺さんは家出中の金持ちのボンボンだと思ってたみたいだけど……ボクは、その話を聞いてピンと来たんだ。その『弟子』ってのは、ボクの同類だってね」
ボクっ娘なんて、アニメやマンガのキャラかアイドル以外では初めてだ……。
「……な……何を言ってる?」
「実は、ボクも『転生者』でね。『地球』って呼ばれてる世界の『日本』って国からの……」
「えっ?」
「で、冬が来て雪が積る前に、ボクの同類を一目ぐらい見ておくか、と思って、爺さんの小屋に行ったら、あの状態だった。爺さんを殺したのは何者だ?」
「わ……判らん……」
「目をやられてるみたいだけど……何日かかかるけど、ボクなら治せる。元通りとまではいかないかも知れないけど……まぁ、普通に生活する分には不便を感じない程度には『見える』ようになる筈だ」
「どう云う事だ?」
「どうやら……『気』を使った術でやられたみたいだけど……この世界に転生した時に、ボクも原理は同じ術を使えるようになった……あるモノと引き換えにね」
「あ……あんたも……俺をこんな目に遭わせたヤツと同じ能力を持ってるのか?」
「う〜ん、多分、違う。もし、あんたの視力を奪ったヤツが戦闘向きの能力だとしたら……ボクは原理は同じでも方向性は逆だ」
「よく判らん……」
「ボクの能力は『鍼師』だ。鍼で気を注入して他人を治療出来る」
「ところでさ……この世界に転生した時に、君は何を失なったんだ?」
その「鍼師」は、治療をしながら、俺にそう聞いた。
「えっ?」
「知ってるかも知れないけど、転生者は、この世界に転生した時に何かを失なう。家族の事は覚えてる? 友達の事は? 元の世界に居た時の趣味が何だったとかは?」
「判らない……心当りが……。あっ……」
「どうしたんだい?」
「思い出せない……行ってた筈の学校の事が何も……クラスメイトの顔や名前も……」
「あ……悪い事聞いたかな?」
「い……いや……思ったほどは動揺してない……。あんたは何を失なったんだ?」
「ボクは……失なった記憶には心当りが無い」
「そうか……」
「変な事を聞くけど……この世界では、転生者同士の殺し合いってのは……普通なのか?」
「やったの?」
「あ……ああ……。巻き込まれて……」
「まぁ、同じ人間から生まれた転生者同士でないと、相手の能力は奪えないらしいしね」
「そ……そうか……」
「ところで……。もう1人はどこへ行ったの?」
「も……もう1人?」
「君と一緒に、あの猟師の弟子になった『もう1人』だよ」
「そ……それは……」
鍼師が俺に刺した鍼から「何か」が俺の体に注入された……と思った瞬間、俺の意識は……。
「助かった……。これからも……女の子の体を楽しめる」
ボクは、別の「ボク」の能力……それも予想通り2つ……を取り込んでも、失なったモノを取り戻せなかった。今のボクにとっては運良くだけど。
ボクがこの世界に転生した際に失なったであろうもの……おそらくはY染色体……は元のままのようだ。
しかし、今回は幸運だった。どうやら、「ボク」同士の間で、マジで殺し合いが始まっているらしい。
もし、家族の記憶と、友達の記憶の両方を持ってる「ボク」と今後出会う事が有ったら……姉貴やお袋に似た声と顔……そして、アメコミ・オタクだったクラスメイトから聞いた、X−MENのウルヴァリンの女性化クローンの話を総合して……ボクの正体に気付くかも知れない……。
「ま……そうなったら……その時に、また考えるか……」
「どうしたの? 巧く行ったの?」
「うん……何も問題無い」
ボクは、ボクの同居人 兼 この世界で出来た
異世界転生して自分自身と戦う羽目になりました @HasumiChouji
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