アーチャー VS ガンナー
「居るか?」
「ああ、あの方向。大きさからして……イノシシかな。1匹だけ」
相棒は弾を放つ。音に驚いて藪の中から出て来たモノは……。
「イノシシって言ったけ?」
「あ……すまん、俺達の世界には居ない動物だった」
大きさはイノシシかブタぐらいだが、姿はタヌキに似た生物だった。
相棒の放った2発目の弾は、そのタヌキもどきに命中し、タヌキもどきは動かなくなった。
「これ何だ? 俺達の世界のタヌキの肉って、すげぇ臭いって話じゃなかったか?」
「とりあえず、親方んとこまで持ってくか」
俺が、通学中にトラックに轢き殺され、この世界に転生して二〇日ほど。
一体全体、何が原因で、何が起きたのか、さっぱり判らない。
ひょっとしたら、異世界転生ってのは、元々、そう云うモノなのかも知れない。
ともかく、「俺」は複数の「俺」に分裂してしまったらしい。
そして、「俺」は「俺」と出会った。
こっちの「俺」は、転生の際に「気功拳士」の能力を身に付け、もう1人の「俺」は……何故、ファンタジー世界に、そんなモノが有るか不明だが、転生後に気付いた時には手に「銃」を持っており、そして、その銃を扱う能力を身に付けていた。
銃と言っても「魔法の銃」のようで、シリンダーやマガジンなど見当たらず、どこに弾を格納して、そして、どうやって弾が補充されているか、さっぱり判らないが、ともかく、1日最大で二〇発の弾を撃てる。
もし、弾を撃ち尽しても、翌日の夜明けには、弾が、これまたきっかり二〇発補充される仕掛けのようだ。いや、「仕掛け」と言っても、どんな「仕掛け」か、さっぱり見当も付かないが。
そして、俺達は、俺の「気」を検知する能力と、相棒……つまり、もう1人の「俺」の銃のスキルを使って、この世界で猟師を始めた……。
俺が獲物を見付け、相棒が撃つ。それで何の問題も……色々と有った。獲物の解体の仕方も知らない。毛皮の鞣し方も知らない。その他色々知らない。そして、この世界の動物の中には、俺達の世界に居ないモノだって結構居る。
つまり、俺達は、どれだけ動物を撃っても、ロクに食べる事も出来ず、金に替える事も出来なかった。
この世界に動物愛護団体や自然保護団体が有ったら、俺達は袋叩きにされるだろう。喰う為、生きる為なら、まだ言い訳が出来るが、俺達は、この世界の動物を次々と無意味に殺して、そして、自分で殺したのに、その死体を前に途方に暮れてたんだから。
そして、この世界に動物愛護団体や自然保護団体が無くても、俺達は飢え死にする。
どう転んでも死ぬような状況を救ってくれたのは「親方」だった。
たまたま俺達を見付けた猟師……俺達が「親方」と呼んでいる爺さんは、俺達に、この世界で猟師をやっていくイロハを教えてくれた。
まぁ、どうも、この世界にも「転生者」についての伝説や昔話は有るらしいが、親方は、まさか、俺達がその「転生者」だとは思わず、どうやら、家出したいいとこの双子のボンボンだと思ってるようだが。
今は、まだ、親方の世話になっているが、1〜2年もすれば1人立ち出来るだろう……。いや2人立ちかも知れないが。
親方の小屋に着いた時には暗くなっていたが……。
「変だぞ」
「ああ……」
もう、親方が帰って来る時間なのに、小屋には灯りが無い。
そもそも、もう冬も近い時期の山の中だ……。寝ていたとしても、小屋の中に何らかの火が無いと、寝てる間に、良くて風邪、下手すれば凍死だ。
「誰か居る……あっちの方向……人間だ」
「親方か?」
「いや……『気』の質が違う……若い男……多分、二〇以下……いや……待て……この『気』は……」
その時、俺の左肩に何かが刺さった。
「移動したぞ、あっちだ」
「距離は?」
「三〇m以内の筈……」
「でも、音がしないぞ」
「止まった、あそこだ」
俺が指差した方向に向かって、相棒は銃を撃つ。
轟音と火花……。
その時、俺は気付いた。多分、相棒もそうだろう……。
この状況で、弓矢VS銃なら……弓矢の方が有利だ。
そして、暗闇から、音も無く飛んで来た矢が相棒の脇腹を貫いた。
「お前は……伏せていろ……俺が……囮になる……」
相棒は、そう言って、俺から離れていった。
轟音が響く度に、夜の闇を何度も火花が照らす。しかし……。
やがて、その轟音と火花は絶えた。最後に見えた火花の方向に、俺は這って行った。
「な……なぁ……覚えてるか……『俺』。幼稚園か……小学校の頃……兄貴か弟が欲しいって思った事が有ったのを……」
「おい……しゃべるな……」
「楽しかったぜ……ガキの頃の夢が叶ったみたいで……」
相棒の体に刺さった何本もの矢が地面に落ちた。
「何だ、こりゃ?」
相棒の体は消え、その代り……。
「おい‼ 糞野郎‼ 俺も何発撃ったか覚えていねぇ‼ 賭けてみるか、俺の銃が弾切れかどうかを‼」
「威勢がいいな……『俺』」
聞き覚えの有る声……そうだ……さっきヤツの「気」を感じた時も……俺と相棒の「気」にそっくりな「気」だった。
精神を集中し、ヤツの「気」を感じとる。
この世界に転生してから、ここまで感覚が冴えたのは初めてだ。
数十m先の闇の中に居る筈のヤツの動きさえもが「見え」た。
俺が銃を撃つのが、ヤツが矢を放つより一瞬だけ早かった。
「流石は『俺』だ……。さぁ、俺を殺して、俺の能力をお前のモノにしろ」
俺の銃の弾で左の鎖骨を砕かれ、弓を落した「弓矢使いの『俺』」は、そう言った。
「どう云う事だ?」
「理由は判らんが……他の『俺』を殺して能力を奪い続けてる『俺』が居るらしい……。そいつが切っ掛けで、『俺』同士の殺し合いが始まった」
「馬鹿な話だ……。他の『俺』を殺そうとしてる『俺』から身を守る為に、その殺人鬼になりやがった『俺』と同じ事をするのか?」
「ああ、馬鹿馬鹿しい。だが……俺達が元居た世界でも良く有った事だろ。学校のクラス内の派閥から、国同士の戦争まで」
確かに……俺は絶対に死ぬ訳にはいかない……。俺が死ねば……俺が取り込んだ相棒……いや兄弟の能力も……他の誰かに奪われてしまうだろう。
それだけは避けねばらならない。
兄弟を、もう2度と死なせる訳にはいかない……。
「ところで……まさか……俺の相棒だけじゃなくて、親方も殺したのか?」
「あ……あぁ、あの爺さんの事か……。気の毒だとは思ったが……なりゆきでな……」
「そうか……」
そう言って、俺は、両手をヤツのこめかみに当てる。ヤツの体の中の大きな血管や神経、そして「気」の経路が、文字通り、手に取るように判った。そして、俺は「気」を送り込んだ。
「てめぇ‼ 何をした‼」
「お前の能力を俺の体に取り込むなんて真っ平御免だ。これからは、『目の見えない弓矢使い』として、惨めに生きて……惨めに野垂れ死ね」
この夜、俺と兄弟の血塗られた旅が始まった。
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