困ったときの神だのみ

朝凪 凜

第1話

 学校帰りの電車で一人悩む女の子がいた。

「(どうしよっかなぁ。言おうかな、やっぱりやめといた方がいいかな)」

 堂堂巡りをしている思考で電車の揺れに流されている。

「(あー、でも……。うーん…………)」

 そんな答えの出ない考えを巡らせていると最寄り駅まで着いてしまった。

「なんか考えが纏まらないからカフェに入って考えよ」

 そう言っていつも帰る道とは反対の方向へ歩いて行き――

「あれ? こんなカフェあったっけ?」

 気がつくと女の子の記憶にあったお店とは違う外観になっていた。

 よくよく看板を見てみると、

「えーっと、『占いあります。決めかねている方は是非』

 占いねぇ。こういうのって胡散臭いのよねぇ」

 店の前で「えー」だの「でもなー」だのと口に出している。

 しかし意を決して、その店へ入っていった。

 店の中は想像していたものとは全く異なり、しかし外観に合った装飾がされている。

「おぉー、明るい」

「いらっしゃいませ」

 扉を押して店内に入ると受付の人が待ち構えていた。

「ここって占いのお店……で合ってます?」

 恐る恐る訊ね、間違った店に入っていないか改めて確認する。

「はい、こちらで占いをさせていただいています。何かお悩みでしたら助けになるかもしれません」

 丁寧に答えてくれて、感じも良く、まあせっかくだしと占ってもらうことにした。

「では、こちらへどうぞ」

 そう言って受付の脇から奥の部屋へ通された。通路も普通の部屋というか喫茶店のような雰囲気だ。

「では中へお入り下さい」

 受付の人が扉を開けて中へ促される。

 そのままゆっくり入っていくと――

「はいいらっしゃい! 今日はどうしました!?」

 威勢の良い医者みたいな女性が白衣で座っていた。

「え? 病院?」

 白衣を着た人を見れば誰もがそう思うだろう。

「あぁ、これは気分。占いって暗い部屋で黒のローブを纏って水晶玉を持った婆ちゃんがやるようなイメージあるっしょ」

「いや、そこまでじゃないですけど、黒ってイメージですね、はい」

 占い屋というイメージだけでこうも翻弄されていたことに気づいた。

「そ。だからウチは真逆のイメージ展開をしようってわけ。まあ、最近はちょくちょく増えてるんだけどね、こういうイメージの払拭って」

 肩を竦ませながら女医らしき人が快活に語ってくれた。

「へぇ、そうなんですか」

 たじたじしつつとりあえず向かい合わせに置いてある丸椅子に座った。

「でもこれ完全に診察室じゃないですか」

 辺りを見回すと机にパソコンが置いてあり、壁にはホワイトボード。反対側には簡易ベッド。女医さんの後ろにあるテーブルには白いシーツで覆われていて分からないが、どうみても病院の診察室風だ。

「ほら、だからイメージの払拭だって。これみて占いだとは思わないだろ」

 ニコニコとした表情からもこの人が占いをするとは到底思えない、とはさすがに口に出すことは無かった。

「まあ、それは分かりました。でもこれで占いって本当に出来るんです? なんか気がどうとかそういう雰囲気って必要なのかと」

「ないない。占いったって殆どは心理学だからね。そんなのは雰囲気だけよ」

 バッサリと言い切られ、そんなもんなのかなと思うが、実際の所は分からない。

「で? どんなことを占いたいの?」

 あぁ、そういえば、とこの店に足を運んだ理由を思い出した。

「あぁ、いえ。高校大学と一緒の友達がいるんですけどね。告白しようかどうしようか悩んでて」

「あー、なるほど。女の子の悩みだ」

 女医さんが笑いながら、机の方からボードを取りだしてきた。

「それじゃあ、とりあえずここに名前書いて」

 渡された紙には、小学一年生が書くような緑色の大きなマスが縦に10個並んでいる。

「…………はい、書きました」

 姓名判断でもするのだろうかと思いながら書いたボードを渡す。

「えーと、国木田くにきだあゆむさんね。えーっと、そうねぇ」

 名前を見て何やら思案しているよう。やはり姓名判断かと歩は思っていると、

「結構真面目なのねぇ。ほらここ」

 そう言って見せてくれたのは国の字の所。

「左上がつながってるでしょ? これは真面目な人。几帳面でしょ?」

「あぁ、まあそう言われるかもしれないですね」

 頭にはてなを出しつつも、まあ間違っては無いし、と思う。

「で、中の玉の横棒が等間隔になっているでしょ? 理論的に考えられる人。浮気をしないタイプね」

「え、でも普通バラバラには書かないじゃないです? ここ」

 こんなところで理論的だといわれても、と反論するも、すぐに諭されてしまう。

「ほらもうそれが真面目なんだって。間隔もバラバラばら棒の長さもバラバラだったりするんだから。で、それから――」

 他にも文字について色々と説明されて、歩の性格が分かってしまったところで。

「で、最初の悩みに戻って、告白だっけ?」

 ボードを後ろに仕舞って、改めて向き合った。

「色々と性格の欠点とか丸裸にされた後にこの話をされるのはすごく恥ずかしいんですけど……」

 俯いて顔を隠しながら、明らかに恥ずかしがっている。

「まあまあ、お互いの事を知ってこそよ」

「私のことしか知られてないと思うんですけど!?」

 顔を上げて赤くしながら歩が声を上げるも、女医さんは柳に風でニコニコとしている。

「私が思うに、言っちゃっていいんじゃない?」

「軽っ!!」

 思わぬ軽快な答えに思わず突っ込む。

「まあまあ。性格診断したからこう言ってるのよ。告白したら今までの関係が壊れちゃうんじゃ無いかとかそう思ってるでしょ? アタマが固いわー。そんな気にしないでいいのよ」

 図星を指されて言葉に詰まる。

「で、でも、駄目だったらどうするんですか。次の日から私どうすればいいんですか」

 僅かに悩んだように見えるも、すぐに女医さんが真面目に答える。

「駄目だったことを考えて告白するの? それこそうまくいかないわよ。もっと堂々としてればいいの」

「それは、確かに、そうなんですけど……。なんか言いくるめられてる気がする」

「それはね。誰かに後押ししてほしいだけなのよ。悩んでは居るけど、答えはもうとっくに出てたんでしょ? 誰かに背中を押して欲しかったのよ」

 心の中にストンとその言葉が落ちていった。

「あ、はい。さすがですね」

 占い師はなんでもお見通しなのだった。

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