午前六時
1
楽観的な絶望で見る
午前三時。当たり前だが外は暗い。ここは田舎だから空を見れば星はプラネタリウムと同じように燦然と輝いているが、空の星や月以外の部分、名前があるのかも知らないが、そこがあまりにも紺色すぎるので暗い。街灯は太い道路を照らすのみで、俺の家の近くには一本もたってない。
そんな中カーテンの薄い俺の部屋だけ明るく外に浮かぶのを想像すると不気味だから、とりあえず電気だけは消して、ベッドの中で携帯を触る。このベッドも寝心地が悪いわけではないのだが、板の上に敷布団を乗せるタイプのベッドだから、やんわり板の硬さがわかるのが心に悪い。何となく寝づらいような気持ちになってしまうからだ。
それでも動画を見ている間は、以前親戚のギャンブルカスに聞いたパチンコに夢中になっているときの頭の回転と似たような思考の転がし方をするので他の何も気にならなくなる。とにかく今の動画のこと以外は考えられないし、そもそも動画を見ることすら惰性に近く、その時の俺の脳は軽い刺激を得られるだけのオートマチックでしかなかった。
午前四時。もう三時ともなればいい加減四時までには寝ようと思って結局いつも四時を大きく過ぎてから時間の流れの速さに気づく。今日はたまたま四時に気づいた。気づいたところで眠れるような気分ではなかった。脳はまだオートマチックだった。しかし今度は動画からTwitterに移動していた。
適当にトレンドからツイートを眺めて、それが政治関連の単語だったときは決まってげんなりとしたが、火力は強いが焼いているのは自分の土地の畑みたいな人間のふたつの赤いエクスクラメーションマークを施したツイートは見ていて面白かった。
本当はこんなものが面白いわけない。脳がちゃんと働いてない時はどんなものでもアミューズメントになりうる。それは底抜けに楽しい世界への訪れかもしれないが絶対に寝たほうがいい。それに気づかずまだまだ時間は過ぎる。
午前五時。四時代のころにはあれ? もう明るいか? と半信半疑だったのが、五時にもなると明るいな? に変わる。ここらでもう完徹するかという随分前からそんな過ごし方をしていただろうと思われるようなただただ呆れた考えが浮かんでくる。
だが、もう頭も痛くなってきたし、眠たくなって来るのは五時この頃だ。完徹、つまり寝てはいけないと思うとますます眠くなってくる。寝てはいけないなんてこと、本当は全くないのだが、三時くらいに思ったベッドと寝心地の悪さの錯覚と同じで、俺は真実とは異なる部分からの影響を多分に受ける。理解できているのならさっさと携帯を閉じて眠ればいいが、まだじゅうぶんに働かない頭は理性よりも惰性を優先する。また動画が流される。
こうして何度も夜が暮れる。結局朝に寝る。昼も寝る。夕方ぐらいに起き出して。夜に電車は走らない。田舎の薬局は薬の販売に割と厳しい。そこには高いビルもない。
言い訳は夜に募り、朝を覆う。死にたい朝はもう来ない。目が覚める夕方から何となく「生活」をして、また眠気のくる午前三時、脳の正常に働くそれまでの間、死にたい夜が続いていく。死にたい気持ちを死ねない言い訳でプラマイゼロにして、なんとか生きていられる。
なんの生産もない、消費しかない日々の浪費。生産があったにしてもそれは消費をするためで、蓄えるためではない。備蓄の欠乏が生への不安になり、オーバーな消費がそれを掻き消す矛盾を繰り返す。ついにはオートマチックに頼りきり、なんとか生きていられる。
見る人が見ればただつまらない。別の人が見ればなんて怠惰で自堕落的! また別の人が見れば、なんて苦しみだ、なんて、これは俺とおんなじような立場のやつがあたかも分かりきったように言うだろうな。
とにかくもう俺にはどうしようもない。散々見た動画の中のどの物語よりも惨めな、運命、きっとそれが、俺を強く押さえつけてやまない。弱さに酔わされて甘え上戸になっているだけじゃないかと言われればそうかもしれない。しかしどうにも体を思う通りに動かせない。それが病気でもなんでもないから、それなら運命でなくてなんだというのか。
ああ、もうだいぶ目も回ってきた。演説めいた文章を考えて、誰に送るでもない壮大な文章を脳内で書いて、結局帰着は午前六時。これだ。今は午前六時、もう抗えないほど眠いのだ。
今日もまたさようなら、願わくば死んでいますように。次目が覚めた時には、こんな楽観的な絶望の世界を、走馬灯のなかに見ていますように。
ああ。眠い、眠い、眠い・・・・・・。
午前六時 1 @whale-comet
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