3(特別編最終話) 復讐者クロム・その後
ユーノとの戦いから一か月ほどが過ぎた。
俺はシャーディ王国の辺境にある森に小さな小屋を作り、シアやユリンと暮らしている。
川で魚を獲ったり、森で木の実を採ったりといった自給自足に加え、ときには近隣の村で食物を仕入れたりもする。
俺たち三人は勇者ユーノに
彼女の【魔人】としてのスキルを駆使すれば、正体を隠して食べ物などを仕入れるのは簡単だった。
今のところは、取り立てて変化のない日々だ。
──いや、復讐の旅で死や戦いと隣り合わせだった日々から比べれば、大きな変化か。
そういえば、もう一つ『変化』がある。
かつて禁呪法『闇の鎖』を受けた影響で極端に衰えた俺の身体能力が少しずつ──ほんの少しずつだが回復している。
ユーノを打ち倒し、【光】に属するユーノを俺の【従属者】として屈服させたことで、奴の【光】を取りこむ形になったらしい。
【光】を取りこむ──それが『闇の鎖』を受けた者が回復するための条件だ。
まだまだ、普通の人間に比べればかなり弱々しいものの、俺は回復しつつあった。
まあ、焦る必要はない。
復讐はすべて終わったんだ。
平穏な時間の中で、少しずつ取り戻していけばいい──。
そんなある日の夜、俺はシアやユリンとともに夕食を取っていた。
「えへへ、なんだか家族みたいですね」
シアがにっこりと笑う。
「毎日三人一緒にごはん食べたり、お話したり……」
「家族……か」
つぶやく俺。
その隣でユリンが熱いため息をついた。
「私たち三人の新婚生活……はふぅ」
「ユリンちゃんが妄想モードに!?」
「あ、すみません、ちょっとあっちの世界に飛んでいたみたいです」
「ユリンちゃんって、けっこう妄想キャラだよね」
「シアさんだって意外と……」
「うっ、そうかも」
二人の掛け合いを見ていると、心が和むのを感じる。
今までの復讐の旅路では、常に心を尖らせていた。
二人と接して気持ちが癒されることは多々あったが、それでも俺の根底にあったのはユーノやイリーナたちへの憎悪だ。
奴らにどう復讐するか。
復讐を成し遂げるために、どう戦うか。
常にそれを考え続けていた。
シアやユリンに癒されていても、それは心の片隅にとどめておくものだった。
だけど、今は違ってきているのかもしれない。
復讐を終え、俺の中から少しずつユーノやイリーナたちへの気持ちが薄れていくのを感じる。
もちろん彼らを忘れることなんてない。
憎悪も、悲しみや絶望も完全に消えることなんてない。
それでも徐々に……ほんの少しずつだが、薄くなっている気がする。
代わりに、俺の心の中心にはシアとユリンが住まい始めている。
「どうしました、クロム様?」
「私たちの方をジッと見ていましたね」
シアとユリンが微笑みながら俺を見つめる。
「はっ!? まさかクロム様もあたしたちとの新婚生活妄想モードに!?」
「クロム様も妄想キャラだったんですか?」
「いや、妄想はしてないが……」
俺は思わず微笑む。
それから、気づく。
そうだ、復讐を終えてから──シアやユリンと一緒にいて笑うことが増えたな、と。
「……一緒にいてくれて、ありがとう。シア、ユリン」
「き、急にどうしたんですか、クロム様」
「照れちゃいます……ふふ」
「いや、勇者パーティとの決着をつけてから、ちゃんと礼を言ってなかったからな」
俺はもう一度微笑んだ。
「あたしの方こそ。一緒にいられて幸せです」
「私もです、クロム様」
シアとユリンが左右から俺に寄り添う。
俺は両手で彼女たちの肩をそれぞれ抱いた。
平穏で幸せな日々。
恋人や家族のような温かな絆。
そんな未来を、二人とともに歩むことを思いながら──。
※ ※ ※
これにて本編、特別編ともに完結となります。
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました!
また別のお話でお会いできましたら幸いです~!
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