生死の価値が逆になったところで

ちびまるフォイ

殺し屋 ↔ 生かす屋

「これは……治りませんね」

「えっ」


医者がさじを投げた瞬間を見たのは初めてだった。


「薬では症状をやわらげるくらいしかできないんで、

 この場所に行ってみてください」


「有名な大学病院とかあるんですか」

「運が良ければ治りますよ」


指定された場所は入り組んでいて方向オンチの俺にはわからなかった。

カーナビは宇宙で目的地付近だと言い、インターネットの地図では深海にピン留めされている。


「ちょっと聞いてみるか」


移動中に第一村人を見かけて声をかけた。


「あの、この街へいきたいんですけど……」


「あんたもそうなのか。我々もちょうどいくところだったんだ。

 ツアーのバスがあるから一緒に乗っていくといい」


「本当ですか! やった!」


ちょうどツアーで立ち寄ったらしくバスに相乗りさせてもらうことに。

バスガイドはにこやかに案内した。


「みなさん、それでは死にまくりツアー楽しんでいきましょう!」


「「 おおー! 」」


俺だけ顔が青ざめた。


「あの! これってなんのツアーなんですか!? 自殺ツアーとか?!」


「そうだよ。やっぱり一人で死ぬのはなかなか勇気がいるから。

 でも長生きなんて絶対イヤだろう?」


「おります! おりまーーーす!!」


「ははは。そんなに死にたいのか。

 車から落ちて死のうとしなくても、ツアーの過程で死にスポットはいくらでもあるよ」


慌ててバスを降りると、小さな村へとたどり着いた。

村では喪服を着た人が暗い顔で列をなしていた。


「あのすみません。ここはどこですか?」


「……今は黙っていてくれ。産式の最中だ」


「さん、しき? その服からして葬式ではないんですか」


「子供が生まれたんだよ……かわいそうに。

 この世に生を受けたことであらゆる苦難をこれから味わうことになるんだ……」


列の先には生まれたての赤ちゃんと絶望の顔をした母親の姿。


「ああ……かわいそう……こんなに元気で生まれてしまって……。

 これではきっと長生きしてしまうわ……」


なにを思ったのか母親は我が子を手にかけようとしたので、

慌てて子供を助けた。


「あんたなにやってんだ!? せっかく生まれた子供だろ!?」


「お前こそなにやってんだ! 子供に長生きさせたいのか!!」

「なんてひどいことを!! それでも人間か!!」


まるで自分が非人道的なことをしでかしているかのように責め立てられる。


「人いかし!!」

「人いかし!!」

「人いかし!!」


人ごろし、のイントネーションで村の人は一斉に叫び始める。


「お前ら……人を殺すのが正しいと思っているのか!?」


「あんたこそ! 人を生かすことに罪の意識はないのか!」


「もういい!!」


話が通じないので子供を奪取したまま逃げようとした。

しかし、アクセル全開で突っ込んできた車に跳ね飛ばされた。


そこで意識は途切れた。


目を覚ますと十字架に張り付けられて裁判の最中だった。


「ここは……」


「ここは最終裁判所。人いかしをした貴様を裁くところだ」


「人いかしって……生きることがそんなに悪いことなんですか!!」


傍聴席にいる人達の顔が青ざめていくのがわかった。


「信じられない……」

「罪悪感そのものがないのか……」

「あんなの人間じゃない! 悪魔よ!!」


「悪いに決まっているだろう。人間は生きるだけで多くのものを破壊し消費する。

 早死にすることがなによりも良いなんて常識だ」


「そんな馬鹿な……」


「人いかしをした貴様の罪は重い。逝族への謝罪の言葉はあるか」


「謝罪!? 人を殺そうとしたのを止めて、俺が謝るんですか!?」


恐怖の顔をしていた傍聴人がしだいに怒りへと変わっていく。


「人を生かしておいて、謝る言葉もないのか!!」

「こんな奴を野放しにはできない!!」

「極刑を!! 考えうる最大級の極刑を!!!」


裁判所は未曾有の極刑コール&レスポンスに包まれる。

静粛に、の言葉も極刑大合唱の前には聞こえない。


「きょ、きょっけい……」


ごくりと生唾を飲み込んだ。

脳裏には中世で行われた拷問の数々がよぎっては消えていく。

生前の楽しかった思い出が走馬灯で駆け巡る。


裁判長は判決を下した。


「被告は重罪を冒したにも関わらず反省の色も謝罪もない。

 再犯性も高いと認められるため、極刑に処する」


俺はすべてを覚悟した。

最後に美味しいものでも食べればよかった。



「最大級の極刑として、被告を超健康管理を施し、最大限の長生き刑に処す!!!」



傍聴席からはわっと拍手が巻き起こった。

俺は徹底した健康管理によりどこまでも長生きさせられることになった。

おかげで病気は治った。

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