第十一章
当たり前の
地面に辿りついた観覧車から降り立つ。
がこん、と音を立てて私の背中を照らしていた光が消えた。
さび付いた金属の軋む音がしばらく響いて・・完全に止む。もう二度と、この観覧車が動くことはないだろう。
私は振り返ることもしなかった。
花庭園の方を見ると、そこに私を見送ってくれた二人の姿はもう無い。
でも、色とりどりの花達をイルミネーションが照らすその風景は変わらない。
私が見たものが、見たままの形で残っている。
それを受け入れよう。そして・・・見えないものはもういい。
広場に戻ると、スピーチを終えた博士が走り寄って来る。
おそらく途中で姿が見えなくなったから探し回っていたのだろう、博士はぜえぜえと息を切らしていた。
「・・・助手、・・・私のスピーチ聞いていてくれましたか?」
「・・・・・・・・・。・・・ええ、素敵でした。苦しいこともありますが、みんなで生きていきましょう、この世界で」
「・・・・・・そう、ですね。では帰りましょうか。私達の家へ」
博士が差し出した手を、少し躊躇ってしまったけど・・・私は掴む。
手を繋いで二人で遊園地を後にした。
みんなに挨拶をしておこうと思ったが、そのみんなの中に誰がいて誰がいないのかを考えるのが今は怖かった、だから止めておいた。
途中、ポケットに手を入れると・・・あの人形の感触があった。
これはもう私のものだ。これは博士と助手がもらったもの、だから・・・もう私のもの。・・・だって私はこちらを選んだのだから。
ああ・・・この幸せな世界で生きていくことはこんなにも罪深いものなのか。
こんな思いを背負って生きていくのだ。永遠に。
それでも、私を心配そうにのぞき込む博士の顔を見て・・・生きていこうと誓う。
もう私が何を願っても繰り返しは起こらないだろう。地震が起こす”私の周りの苦しみ”はこれで消えたかもしれないが、生きている限り・・・その先に何が待ち受けるかはわからない。
その時失敗したら、きっとそれまでだ。
その時、私は耐えられるのだろうか。
この世界を選んだ私にその強さはあるのだろうか。
それでも私は選んだんだ。
おそらくこの世界以外での出来事は、時間と共に私の中では白昼夢のように幻に溶けていくのだろう。だって、他の可能性なんてわかるわけがないのだから。
先がわからないのは誰もが一緒。
他の可能性を知るなんて、それはヒトにしかできない。
私はヒトじゃない、みんなと同じ・・・あたたかな世界にフレンズとして生きることを選んだ。
これでようやく私も一つの命の流れの中に戻ることができたんだ。
今度こそ、あなたの隣で。
サーバルとかばんの姿が一瞬頭をよぎったが、それもすぐにもやがかかって消えてしまった。だから、完全になくす前に、小さく――――と、呟いた。
「博士、ずっと一緒なのですよ」
「・・・はい、ずっとずっと一緒なのですよ助手!」
繋いだ手は、小さくてあたたかい。
出会った時と変わらない、私の大好きな博士の手だった。
「君の笑顔が好きだったから」 おわり
君の笑顔が好きだったから あきなろ @akinaro0105
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