「君の笑顔が好きだから」
季節は夏――
空は雲一つ無い快晴で、玉のような汗が滴る程に強い日差しが照り付ける。
図書館の入り口で、ワシミミズクが鼻歌を歌いながらプランターの花達に水をあげていた。春の花のプランターとは別に、ここ最近で彼女がいくつも増やしたせいでそれなりの花壇のようになっていた。
「そーらーは、とーべないけど」
それは、いつかどこかで彼女達と口ずさんだ思い出の歌。
「さて、お前達もさっさと咲くのです。秋が来る前にその満開の姿をコノハに見せてあげるのですよ」
春が終わりしおれた花や、夏の到来で咲いた花、そしてこれから咲く蕾達。
一つずつに祈りを込めて声をかけていく。
図書館の周りを多くの花で囲むのが、ワシミミズクの当面の目標だった。
花壇の横には本がいくつか重ねられ、その中の一つを読んで彼女は始めることにした。それがあの子の心を癒す最初の一歩になるのなら。
そういう類の本は初めて読んだが、中には色々な方法があった。
ひとつずつやっていこう、これが・・・私がしたことの責任だ。
「よし、水やりは終わり。肥料も良しっと」
花の世話を終えたワシミミズクがじょうろを置いて、図書館の中に入ると中からぱたぱたと足音と一緒にちりんちりんと鈴の音が近づいてくる。
「みーみっ!」
「おとと…コノハ、急に飛びついてくると危ないのですよ」
元気いっぱいにジャンプして飛びついてくる彼女を受け止める。
自分より少し体が小さいくらいだけなので、全力で来られるとたまに受け止めきれずにひっくり返ってしまうこともあった。
「んー、みみ~」
彼女が甘えるようにワシミミズクの胸元に頭をこすりつけ、その匂いを胸いっぱいに吸い込むと安心したように安堵の笑顔を見せた。
首には紐に括られた可愛らしい鈴がぶらさがっていた。
これがあれば少し目を離した隙や夜中に起き出してどこかへ行ってしまうということも避けられる。ワシミミズクがここで目覚めた時にまず最初にしたことだった。
「大人しく待っていられて偉いね、コノハ」
「うん!えらい!」
「よしよし」
「えへへぇ・・・」
頭を撫でられて子猫のように目を細める彼女を見て、ワシミミズクは何を思ったのだろうか。自分が選んだ世界の中で、彼女は幸せを見つけられるだろうか。
「そろそろお昼ご飯にしようか」
「おなか、ぐー」
「おなか空いた?どれどれ」
彼女の前にしゃがみこみ、おなかに耳を当たると”くー”と可愛らしい音が聞こえた。
「コノハはくいしんぼなんだから~!それ、こちょこちょこちょ」
「きゃはははははっ、あはっ、みみ!めー!めー!あははっはは!!」
花壇に広がる花達だけが、図書館から漏れる二人の笑い声を聞いていた。
―――――――――――
もう誰も住んでいない埃をかぶった小さな家。
そしてその家の近くには辺り一面に広がる花畑があり、その真ん中には小さなお墓がありました。
誰も立ち寄る人がいなくなったそのお墓に、森からやってきた一匹のサーバルキャットがやってきます。
お墓にかけられた、ずいぶんぼろぼろになった帽子に身を寄せるように眠ると・・・
どこか遠くの方で大きな音と、小さな振動の後に世界中に虹色の光が降り注ぎました。
その光は、誰もが記憶の彼方で見たことのある光。
この輝きは、出会いと命を生む光。
その中から二つの小さな光が、彼女達に再び出会いを与えます。
私はサーバルキャットのサーバル!あなた、なんのフレンズ?
え、ボク・・・?ボクは・・・ええっと
わからないの?なら、一緒に見つけに行こうよ!
ほんとう?ありがとう、うれしい。えへへ
あーっ!あなた、笑った顔がとっても可愛いね!きっと素敵なけものだよ!
サーバルちゃんは、どうしてそんなに優しくしてくれるの?
そうかな?普通だよ普通!
だって、ボク、自分が何かもわからないのに・・・何でそんなに親切に・・・
えへへ、それはね―――――――
「君の笑顔が好きだったから」 おわり
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