第4話 わたしのろくでもな先輩
かやは歌詞制作に行き詰っていた。今のままではいい音楽は出来ない、だから実里の提案を受けた。結婚式場に行けば新しい歌詞も浮かぶかもしれない。
「じゃあ、まずは見学の予約をしようよ」
実里は嬉しそうだなと思った。しかしふと思った。
「予約?」
「そう予約、今は閑散期だからすぐに行けると思うよ」
「予約したら練習は?」
「え」
「来来週、有名レーベルの人がライブハウスに来るんだ。だからそれまでは合わせに専念する」
断定だった。その瞬間、悟った。私、選ばれたわけじゃなかった。この人にとって私はつなぎだ。
「もういい」
「もういいよ」
「何が?」
「なんで私を優先しないの?」
「優先しているよ」
「じゃ、何で私よりバンドなの? 私との将来は?」
涙すら出なかった。絶望失望、実里が持つどの言葉よりがっかりしていた。
「だから今度のレーベルが終わったら」
「いつもそう。バンドそんなに大事?」
「大切だ」
「私は?」
かやが即答出来なかった時点でこの人とは終わりだなと思った。すっかり憑き物が落ちた。
十年以上も続いたこの関係は終わりだ。神様さようなら、あなたに選ばれたと思っていたのに、あなたは私のことを一切見ようとしていなかった。
あの日、心斎橋モーニングでステージを真剣に見ていたことを唐突に思い出した。
「荷物はまた取りに来る。いや捨てて、今から持って帰るやつ以外。早く合わせに行って」
「だってまだ時間」
「早く会場に着いた方が真剣度伝わると思うよ」
「ここから出て行って、神様」
「神様?」
「私が神様を嫌いになる前に」
「なにが」
「早く」
神様は私の声に疑問を感じているようだ。
なぜ怒っているのか分からない。
この人は神様。そう思い込み感情を殺した。
神様は荷物をまとめ、靴を履き、ベースを持ち部屋を出て行った。
さようなら神様。もう会わない。
あなたは今日から、私のろくでもない先輩。
わたしのろくでもない先輩 ハナビシトモエ @sikasann
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます