異世界ゆけむりグルメ旅殺人事件簿~密室は筋肉でぶち破る

西川 旭

第1話 魔界海沿いの老舗旅館! 妖しい仲居サキュバスと狙われた牛鬼女

 俺はの名は、ショウ。

 オーガ50%エルフ25%ヒト種25%の、種族的にはなんだかわからんが、とにかくショウと言う男だ。

 魔界のとある勢力の頭目の隠し子、とかそういうことは別にない。

 

「ショウちゃん、温泉、楽しみだにゃゎん!」

「たまには羽を伸ばさねえとな!」


 そして横にいるのはミウ。

 ワーキャット50%、ワードッグ50%の、なに獣人なのかよくわからん、とにかくミウだ。

 俺の助手をやっている。

 いや、弟子だったかな? それとも舎弟? 

 義理の妹ではないが、幼馴染なのは確定的に明らか。

 貧乏が染みついているのでたまに贅沢するときはテンション高い。


「これもショウちゃんが異世界パチンコ『血の池』で一発当ててくれたおかげニャヮン!」

「お前面倒くせえ語尾やめろ。打ちにくいんだよ」


 ちなみにパチンコで負けたらミウを娼館に売ることになっていた。

 

 旅館は魔界の断崖絶壁の際に立つ、老舗と聞いている。


「着いたわニャン! 立派な建物だわんにゃぁ~」

「お前河内のオッサンみたいな語尾になったぞ」

「うるさい! 注文が多い!」


 怒ると普通の語尾になるのか?


 なにはともあれ俺たちは温泉旅館に到着した。

 奮発しただけあって、立派な建物だ。

 それでも一番安い部屋だがな。

 

 さっそく浴衣に着替える。

 ミウは着替えを見せてくれなかった。


「お風呂は大浴場にゃわん。もっといい部屋なら展望部屋風呂があったニャンのにワン」

「お前そろそろ自分でも語尾疲れて来てるだろ、無理しなくてもいいんだぞ……」

「少にゃいキャラ属性を失うわけにはいかないのだワン!」


 騒いでたら仲居さんが心配して様子を伺いに来た。

 サキュバスの仲居さんだった。

 ウッソだろサキュバスの仲居かよ後で絶対俺一人でまた来ようこの旅館。


「なにか御不満な点でもありましたでしょうか……?」

「いえ、馬鹿が騒いでいるだけです」


 ショウはあくまでクールに説明するぜ。

 相手が美人のサキュバスだからじゃないぞ、勘違いするな!


「牛でも馬でもにゃいワン!」

「いや、馬と鹿って言ったんだが……」


 本当のバカには言葉も通じないようだ。


 と言うわけで混浴、であるはずもない温泉を俺とミウはおのおの別に楽しむ。


「いい湯だ、心も洗われるようだ……」


 湯船は片方がデスヘル炭酸泉。

 魔界の更に地底の底、死者の国で吐かれた二酸化炭素がこの温泉に溶け込んでいるらしい。

 疲れが取れるという効能らしいが、説明聞いただけで気持ちがどんよりしてきた。


「こっちはぬるぬる温泉系か」


 もう片方の湯は、スライム系塩化物ナトリウム温泉。

 天然のスライムがお湯に溶けているらしく、ペーハーがやや高め、アルカリ質のお肌ツルツル温泉だ。

 入りすぎているともちろん骨まで溶かされる。

 海の近くの温泉には多いポピュラーな泉質だ。


「さて、覗くか」


 心をしっかり洗い流し、身もすっきりして俺は女湯と男湯の境を作っている垣根を乗り越えようとした。

 しかしちょうどそのとき。


「う、うわああ! し、死んでる……!!」


 誰かが廊下で物騒なことを叫んだ。


「なにごとだわニャン!?」

「お、お客さま! 服を着てください!!」


 俺じゃなくて店員にラッキースケベかましてどうするんだよあの馬鹿犬猫女!!!!


「で、死んでるってこのおばさんか?」

「そうです。私が来た時にはもう……」


 旅館の大将のトロル親父がそう説明する。

 今のところ一番あやしいのお前なんだが。


「牛鬼のおんニャ、中年牛オバサンだワンね」


 服を着て俺たちは改めて現場に集合した。

 牛系獣人の中年女性が、背中、わき腹辺りを大きくキャトられて(えぐり抜かれて)、大量の血を流して横たわっていた。


「お、お腹の減る匂いだわニャン……理性が……クッ、鎮まるニャワン私の食欲!」

「お前犯人にされたいのかちょっと黙ってろ」


 一応、ミウにも俺にもアリバイがあるからな。

 部屋から真っ直ぐここにきて、風呂入ってただけだし。


 男湯には痴女のゴーストが黙って俺の入浴を覗いてたから、俺の無実は証明できる。


「あっちに血の匂いがするワニャン!」


 それは言わなくても地面に落ちた血で分かるんだが、野生の嗅覚を頼りにミウが犯人の足取りを追った。

 血はなにかの物置のような、堅牢な扉に閉ざされた部屋の前で切れていた。


「この奥が怪しいと私は思うんにゃわ」


 頭を使いすぎたのか、ミウはまた昔の近畿地方のお婆ちゃんみたいな言葉にバグっていた。

 頭を使わなくてもこの部屋を探り当てられるはずだが。


「そんな馬鹿な……ここは、館が始まって以来の開かずの間のはず……」

「知っているニャワン大将!?」

「自分の旅館なんだから知ってるに決まってるだろ」 


 つーか犯人が密室に引きこもるのかよ。


「素直に大人しく出てこい!」


 俺はとりあえず扉を右のスクリューフックでぶち破って、中に侵入する。


 そこではいい香りを立てて、牛鬼女のリブロースステーキを鉄皿でじゅうじゅう音立てて食っているサキュバス仲居がいた。


「そ、そんな、この密室が破られるなんて……!! あなた何者!?」

「いやフツーにオーガの血が混じってるって、ちゃんと宿の台帳にも書いただろ……」


 ここは魔界なので、オーガ混じりのやつくらいはあまり注目されないのが哀しい。


「クッ……もうここまでね! 私なんて!」


 サーっとサキュバスは飛翔して、建物を出て断崖絶壁の端に立つ。


「いやお前飛べるじゃん。ここ死ぬロケーションにならないよね?」

「大将が……大将が悪いのよ! 私がいるのに、あんな、客の牛女と……」


 俺の話は聞き入れてもらえず、なにか自分の世界に入ってサキュバス仲居は語り始めてしまった……。


「し、仕方がなかったんだ……きみのことは愛していた、でも、私には安らぎが欲しかったんだ」


 トロル大将もなにかゾーン入っちゃったし。


「彼女も、運命と言う魔人に翻弄された被害者ニャのかもしれないワン……」

「お前そんな難しい言葉どこで覚えた!?」


 付き合ってられないので、俺はミウを連れて部屋に戻り、二人でやることしっかりやって寝た。

 ぶちかまして、ぶち込んで、ぶちまけてやった、うん、温泉は最高だ。


 あ、ビリヤードの話な。

 なぜか部屋にあったんだよ。盛り上がる。


「いやあ今回もお手柄だったねえ、ショウくん」


 魔界警察の警部、アークデーモン小暮さんが俺の苦労をねぎらってくれる。


「いい加減、こんなことに巻き込まれるのは勘弁してほしいっスけどね」


 ただの異世界パチンカーなんだが、俺。


「ところで福引で旅行チケットを当ててしまってねえ。でも僕は仕事で忙しい」


 そう言って小暮警部は「吸血鬼旅館・リニューアルオープン優待券・ペア一組」と書かれた札を、俺たちにくれたのだった。


「小暮警部、いい人だわニャン!」

「いや、絶対ろくな目に遭わないやつだこれ」


 俺は新たな事件の予感を、ひしひしと感じてしまうのだった。

 

 連載もの? 続くのかこれで!?

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異世界ゆけむりグルメ旅殺人事件簿~密室は筋肉でぶち破る 西川 旭 @beerman0726

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