少年は知らぬ話を

ギルドではライラとギルドマスターのラスターが話し合いをしていた。


「それで、ラスターはアスカをどう思う?」


ライラが話の続きを促す。


「ふむ、とりあえず嘘をついている気配はなかったし、記憶がないというのは本当なんだろうな。純粋な感じで嘘をつけなさそうだったし、特段他国の偵察や、ましてや魔物関連の何かというわけではないだろうな。出自がわかれば、もっとどうにかできようというものだが……。特に身分がわかるような物を身に着けていたりというのもなかったのだろう?」


「あぁ、服自体はあったのだろうがボロボロになっていた。……そういえば、どちらかというと戦闘とかの結果というよりは風化したような感じだったな……」


途中で思い出したようにライラが言う。


「とりあえずはギルドで保護する形で経過観察するしかないか……」


ラスターもどうしようもないといった感じで曖昧なことしか決めることはできない。


それよりも、と言葉を続ける。


「お前たちが行ってた禁忌の森の様子はどうだったんだ? 魔物がざわついていたという事しか聞いていないが、他に何か気づいたことはあったのか?」


ライラが渋い顔をする。


「正直よく分からないんだ……。魔物がざわついてるのと、後……漂う魔力の質が、いつもより薄くなっていたような気がする」


「魔力の質? どういうことだ?」


ラスターが聞き返す。


「それが、うまく言葉にできないんだ。前まで行っていた時は、もっと凍てつくような魔力があったんだが、それが少し和らいでいた気がした……。これは私の感覚の話だから、本当にそうだったかも分からないし……」


ライラは眉間にしわをよせて答える。


応接室に一瞬の沈黙が流れる。ラスターが口を開いてライラに問う。


「封魔の聖炎はどうだったんだ?」


その言葉を聞いてライラはしまった……という顔をした。


「そういえば、目視で確認はしなかったな……。森に入った時に使った探知魔法ではいつも通りだったが……」


「そうか。じゃあ森側の異変ではないのか……?」


ラスターも思考がグルグルし始めた。


「とりあえず今話しあえるのはこの辺までか……。もう一度、なるべく急いで禁忌の森の調査をした方がいいかもしれないな。彼の身元が分からないままじゃ、色々と不便だろう」


と、ラスターが立ちあがったタイミングで、ドアがコンコン、とノックされた。


入れ、とラスターが端的に答える。と、受付嬢の一人が入ってきた。


ドア付近に立ったまま、一礼してラスターに話しかける。


「会談中失礼します。ラスターさん。王宮から緊急の連絡が来ています」


ラスターが少し怪訝な顔をする。


「王宮から? 何かあったのか?」


受付嬢は少し困ったような顔をして答える。


「それが……どうも極秘の情報らしいので、伝言ではなく、直接伝えたいとのことで、騎士の方がいらしています」


「極秘か……分かった。すぐ行く」


そう言うとラスターは受付嬢の横を通り過ぎて、部屋の外へ抜けて一階へと降りていく。


ライラは自分が行っていいものではないと判断したのか、座っていたソファに寝転がってしまった。


ラスターが一階に降りていくと、受付嬢に聞いていた通りに騎士がいた。礼儀正しく近づいてきて、礼をする。


「こんにちはギルドマスター。私はヴァルキアラ騎士団第一部隊隊長 コールド・べーバスだ。いきなりお呼び建てをして申し訳ない。その上で失礼を重ねるが、一刻の猶予もない可能性があることだ。人のいないところで話をしたいのだが、いいだろうか」


コールド・べーバスと名乗った騎士は焦った様子で、早口でまくしたてる。想像以上に大変な事態が起こっているのかもしれない。


「あぁ、ついてきな」


だからこそラスターも社交辞令などをせずにすぐに移動する。移動場所は2階の先ほどの部屋だ。防音対策もしてあるから、人に聞かれる心配はない。今いるライラは追い出せばいいと思っていた。


「どんな要件なんだ?」


ラスターは移動中軽く尋ねる。


「禁忌の森についてのことだ」


騎士も聞かれていい範囲で軽く答える。が、ラスターにとっては聞き逃せない言葉だった。


(禁忌の森だと!? まさかこのタイミングで王宮から連絡があるとは……何があったか知らんが、なんか嫌な予感がするな。当たらなきゃいいが……)


部屋にはすぐにたどり着く。ドアを開け、寝そべっているライラにラスターが話しかける。


「ライラ、人に聞かれたくない話らしい。すまんが出て行ってくれ」


「ん? あぁそう。わかったわ」


と出ていこうとするライラにベーバスが声をかける。


「え!? 待ってください。ライラ様がいらっしゃるのですか!? でしたらライラ様にも聞いていただきたいです!」


出ていこうとしていた、ライラが動きを止めてラスターを見る。


「……だそうだ。出ていかなくていいぞ」


ラスターが声をかけ、とりあえず座れ、と自分も腰を下ろす。


ライラは今度はラスターの横に座り、次いでベーバスが失礼します、と言って腰を下ろした。


そうして早々、口を開く。


「早速で悪いのですが、本題に入らせていただきます。実は先ほど禁忌の森の封魔の聖炎の消失が確認されました。もし神話の話が本当なのであれば、封印されていた『奴』が、復活するという事になります。実際問題今現在はそう感じられる現象は確認されておりませんが、すぐにでも禁忌の森の調査など様々な事を行わねばなりません。また、ギルドの方ではもし戦争になった場合にすぐにでも国民を守れるように戦闘態勢を整えておいてほしく……」


ラスターはそれを聞き終わってすぐに口を開いた。


「実は、ライラとフウカの、国からの調査依頼の奴、今日行ってたんだけどな。その時に2人が謎の記憶喪失の少年を禁忌の森で拾ってきてるんだ。しかも今日は禁忌の森は魔物がなんか少しざわついてる感覚もあったらしい。もしかしたら本当に……」


「……っ!! その少年は今どこにいるのですか!? 彼が封印されていた奴という可能性はないのですか!?」


ベーバスが取り乱して声を荒げる。


「その可能性は、状況的に高いかもしれないわ。でも、あの少年にそこまでの力があったとは思えないのよ。私も実際に触れたけど、魔力量なんてなんなら同年代ぐらいにみえる子供の平均より少なかったし、私たちがまったくの違和感を覚えないレベルの隠蔽が使えるならわざわざそんなことしなくても最初から国を真正面から滅ぼせるだけの力があるわ」


ライラが落ち着いて答える。


「ただやはりなんであそこにいたのかはやはり不可解だし……。多分、そう遠くないうちにギルドに戻ってくると思うから、ちょっと待っていったらどうかしら?」


「う、うむ……。ライラ様の言うようにさせていただきます。それと、このことについてなのですが、混乱を防ぐためになるべく他言無用でお願いしたいです」


騎士もやはり騎士というもの。状況の飲み込みは早い。自身の焦りより職務をしっかりと全うする。


「と言っても、フウカ様などには私共からも伝えることなので、他言無用がきちんと守れる方々には話していただいて構いません。実力のある方が、準備できていなかったせいで突発的な戦闘に対応できないとなると被害が増えますので」


「あぁ、分かった」


ラスターともとりあえず話す内容は終わったようだ。


それから、数分程度禁忌の森でのことなどを騎士も交えて話していたら、フウカとアスカはギルドに帰ってきた。

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