ファンタジー、あるいは破天荒な神話として

 現実と異界が地続きとなり、一歩踏み込めば不思議な現象に見舞われる。あるいは「向こう側」がひょいと越境してきて、日常が日常としての平穏さを失う。そういった世界観、描写はマジックリアリズムの王道だと思いますが、この作品は少し様相が違います。ひとことで言えば「すべてが偏在する」世界です。

 あらゆることが起きる。起きたことは起きたこととしてのみ描写され、非現実性に関する説明は重要視されない。出来事のみを積み重ねていくような記述は、ある種の神話的な空気を纏っています。無理やり分類するなら「異世界ファンタジー」なのかもしれませんが、この作品の宿したパワーは、そうした安易な枠組みを拒否するようでもあります。

 単にファンタジックなモチーフを散りばめるのみでは、これほどのエネルギーは生じえなかったでしょう。破天荒な神話としてこの物語が生み出されたことに、僕は驚嘆しています。この強靭な幻想に、ぜひ触れていただきたいと思います。