第1章 はじまりの物語 第6話【少年たち】

 爆笑の渦が終息するまでの間、周汰は3人の少年を観察していた。

 とは言っても、黄色おかっぱの少年は20メートルほど転がった先で、ホコリでも吸い込んだのか、笑いながらむせ返していた。


 まず、足元に崩れ落ちた赤髪の角有り少年を観察した。

腕も脚も引き締まった筋肉質で、額に生えた2本の角が、日本の伝説に出てくる赤鬼を匂わせている。


(ここは、日本の昔話か何かの世界なのか?)


 まだ少年ではあるが、戦闘力が高そうな雰囲気をビンビン感じた。

 もし、この少年が赤鬼なら、青髪のマルという少年は、青鬼ということになる。

 しかし、額に角は見当たらない。

 赤鬼君とは違い、体の線は細く、しなやかな長い手足、真ん中で分けられたサラサラヘアーは、将来イケメン候補な様子だが、何となく、この少年からも戦闘力のようなものを感じる。


(やっぱり、鬼の子供達だったりして…)


(そんなことないよな)


 なんて、我ながらバカなことを考えるものだと自嘲し、気を取り直そうとしていたところに


「ねぇ、ナス。この赤い髪の子はキラ、青い子はマル、黄色い子はロンって言って、そこの村に住んでる子供達。」


 突然のテディの介入に


『あ、あぁ、そうなんだ』


 と返事をすると


「鬼って知ってる? よく昔話に出てくるキャラの…」


(やっぱり鬼なのかよ!?)


 周汰は、自嘲した自分を自嘲した。

 いや、一周回って自分を褒めた。


(俺の観察力は、さすがだ。俺は冷静だ。ここが何処だとしても、必ず元の自分がいた場所に帰ってみせる!)


 小さくガッツポーズをした。


「…でね、私がお世話になってるのは…」


 テディは、ずっと説明をしていが、周汰が聞いていないことに気づいてしまった。


「ねぇ、ナス。聞いてるの? あなた危ない人なの?」


 周汰は、冷たい視線というのは、本当に冷たく感じるモノなのだと思った。20年間生きてきて、初めて出会ったと思える冷ややかな目を向けられている。


『あ、ごめん。知ってるよ、鬼がどうしたんだっけ?』


 テディは、ため息をついて


「まぁ、いいわよ。村に行って落ち着いてから教えてあげる。私が知っていることも少ないんだけどぉ」


 呆れた様子を見せつつも、見捨てはしないという、彼女の性格の良さを垣間見た。


 テディは、少年達に帰ろうと微笑みながら声をかけて歩き出している。

 少年達もテディに懐いている様子で、素直に後を付いて歩き出した。

 ワイワイしながら歩く4人の後ろを周汰も付いて行く。


(鬼の子供達かぁ)


 ほんと、ここは何処なんだろうと周汰は思う。

 しかし、本当であれば、絶望しかない状況下にあって、取り乱すこともなく、入ってくる情報は素直に受け止められている。


(なんか不思議だなぁ)


 目の前を歩く4人の先に、村の入り口だという門がパックリと口を開けて待っている。

 薄暗いトンネルの先を見ようと目を細めた時


『………名前?』


 テディと握手をした時以来の感覚だった。

 思えば、それ以来忘れていたような気がする。


 懐かしかった。

 忘れていたと思うことが、自分で恥ずかしくなるような、申し訳ないような気分になった。


 周汰は

『ごめん』

 と、素直に謝った。


 村の入り口は、もう目の前なのに、薄暗いトンネルのせいで、その中は見えない。

 前を歩く4人は、相変わらず笑い声を弾いている。


 トンネルの入り口の前で、テディが振り返り

「到着だよぉ」

 と言って微笑んだ。

 3人の少年は、入り口に向かって走り出している。


 暗くなった―――


 突然、空から降り注ぐ光が遮られた。

 少年たちは、立ち止まった。

 目の前のテディも、はてな顔になっていた。


  周汰は、空を見上げた。


(なんだ?)


 何かが上空、と言っても3階建て学校の屋上くらいの場所に浮かんでいる。

いや、通り過ぎようとしているようだったのだが


(止まった?)


「わぁー」

 と、少し間の抜けたような、テディの少し驚きを秘めた声。


 次の瞬間、上空のモノの影が左右を持ち上げて、空の光を降らせたと思ったが、今度は、黒い影が左右から落ちてくるような動きを見せた。


 バッサーーーーッ


 音が鳴るや否や、強風が降ってきた。

 表現が、おかしい。おかしいかもしれないが、降ってきたのだ、強い風が真上から叩きつけてきた。


 目を開けられず、地面に仰向けに押さえつけられた。

キャーというテディの悲鳴。


 周汰は、何とか顔の上に両腕をかざして、目を開けた。


 上空には、見たこともないほど大きな鳥に似た生き物が浮かんでいた。

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君の名前が片時も胸から離れない 彩時 @swd1041

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