第1章 はじまりの物語 第5話 【テディ Ⅱ】
空は青く澄み渡っている。雲ひとつもない。風はそよいで、暑くも寒くもない。
ただ不思議だった。お日様が、太陽が見当たらない。それでも、空は青く、のどかな景色は、どこまでも明るい。
周汰の身につけている衣服は、ボーダーTシャツの上にフード付きで薄手の半袖カーディガンを羽織り、薄いパンツスタイルにスニーカー。よくある夏の格好だ。
ここが何処なのかは解らないが、とても過ごしやすい気候だということに感謝している。
テディの服装は、白いフリル付ブラウスに薄茶色の膝丈フレアワンピースと言うんだろうか?をすっぽりと着た感じで、風にそよぐ雰囲気が清潔感を与え、少女のようで少女過ぎない印象を受けた。
特段、違和感を感じない服装で、周汰が行き来していた街の中で、こういったコーディネートの女の子とは、何人ともすれ違っているであろう服装だった。
テディの服装が、この場所へ対する周汰の違和感をかなりの割合で軽くしていた。
見た目と身長、服装から推測すると、周汰より2つか3つくらい年下だろうか?
不思議な色合いの瞳に、髪は肩より少し長めで、肩口くらいでフワフワと弾んだ感じだった。
キツ過ぎず柔らか過ぎない顔立ちで、アイドルグループに居たとしたら、センターの座に付いてるであろう美少女の類いだ。
性格を口調から推測すると、実に穏和で育ちの良さを感じる。
テディのことを分析しながら歩いていた周汰だったが、やはり、この場所は周汰が知っている世界の中のどこかではないのではないか?という疑念に1票を投じてきた。
さっき手を振っていた3人の少年が近づいて見えてきた。
10歳から12歳くらいの3人の少年達。服装を見ても、ポロシャツにハーフパンツといったスタイルで、違和感を感じない。
少なくとも服装に関しては…だ。
しかし、お互いの距離が縮まるにつれ、その中の一人の少年の風貌に何か違う人種の特徴があった。
ボーダーのポロシャツを着た一人の少年。髪型はボサボサの活発的な印象だったのだが、少し余分なパーツがあった。
立ち上げた前髪の生え際から少し下に小さな突起物が2つ付いているのが見えた。
『んー、何かコブが出てるなぁ』
周汰は、その少年の額に視線を囚われながら歩いている。
しばらくして―――
周汰の目は、もうそれをアレだと認識していた。
『角…』
赤髪で1番のやんちゃそうな少年の額には、二本の角が付いている。
長さというのか、高さというのか、円錐のそれは5センチくらいあった。
「みんなぁ、散歩してたのぉ?」
テディは、おっとりした口調でたずねる。
「テディの帰りが遅いから、母ちゃんに迎えに行ってこいって言われたんだ」
なぁ?
と言った感じで、3人の中で1番身長が高い青髪の少年がニヤニヤしながら他の二人に同意を促す。
「マルの母ちゃんが、オレらにも行ってこいって言うから、迎えに来たんだ」
続いて黄色い髪のおかっぱ頭の少年が同調して言った。
「テディは、道に迷うことは無いと思ったけど、マルの母ちゃん怒るとおっかねーからな」
最後に赤髪の角有り少年が得意げに言って笑っている。笑った口元から鋭い犬歯が2本見えた。
(ふむふむ、青髪少年はマルと言い、角は無い。母ちゃんは怒ると怖い)
周汰は、整理を付けようとしたが何の解答も得られないでいた。
「それより、テディ。その兄ちゃんは、誰だ?」
黄色いおかっぱ少年が、テディに聞いた。
「あー、見えるぅ?」
テディは冗談を言った。
3人の少年は、わぁっと笑い、見えるに決まってると言っている。
「この人は、ナスって言うの。私が落ちてた場所に落ちてたの。私も拾われ者だけど、今度は私が拾ってきたわぁ」
などと、テディは悪趣味な冗談を言ってケラケラと笑っている。
それに対して3人の少年は腹を抱えて笑い転げた。
本当に笑い転げている。
マルは仰向けになり、脚をバタつかせて両手で腹を押さえて身をよじっている。
赤髪の少年は両膝を付いて、腹を両手で押さえて、額を地面にゴリゴリ押しつけて笑っている。
黄色おかっぱは両手で腹を押さえて、元来た道を転がって行った。
テディを見ると両手で口元を押さえながら、ふふふふふっと笑っている。
周汰は完全アウェイのピッチの中で、ただ一人取り残されていた。
今日感じた中で1番強いそよ風が、周汰のつむじを吹き抜けた。
そんな気がした……
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