パーティーはバランスが大切です

月之 雫

パーティーはバランスが大切です

「光の花よ、癒しを!」

 杖を掲げると光の花弁が降り注ぎ、仲間の傷を修復していく。

「ちょっと!後先考えず突っ込みすぎよ!もうちょっと下がって」

 うちのパーティーの攻撃陣、ウォリアーのアルフレッドとメイジのクロムウェルは、とにかく攻撃的な性格で、策も練らずに敵に突っ込んでいってしまう。2人が互いに攻撃力の強さで張り合おうとするため、余計に暴走に輪をかける。おかげで火力はトップクラスのパーティーになったが、回復薬の私はいつもオーバーワークになる。

「クロム!あなたは防御力低いんだから突っ込まないで」

 そもそも魔法で攻撃するのだから敵に突っ込む必要はない。遠距離攻撃が可能なのだから。なのにアルフレッドが突っ込んでいくと何故か一緒に行ってしまう。常に張り合っていないと気が済まないのだ。

「危ない!」

 火を吹くミニドラゴンとクロムウェルの間に大きな盾を持ったナイトのエリックが割って入った。

「助かったぜ、エリック」

「もっと下がって。マリーが怒ってる」

 エリックは体も大きくとても頑丈だけれど、性格は実に穏やかというか、大人しいというか、情けないというか。もう少し攻撃的になってもいいと思うのだが、ひたすら守り一辺倒だ。まあ、うちには鉄砲玉が2人もいるのだから、それぐらいの方がバランスが取れているのかもしれないが。

 この3人の男たちに加えて、プリーストの私マリアンヌの4人パーティーでダンジョンの攻略に挑んでいる。さほど大きなダンジョンではない。ボスがいる最深部は地下5階。現在は地下4階で中ボスとの戦闘中だ。これを倒せば目的地まであと少し。

「おおおりゃああ!!!!」

 アルフレッドが大きな剣を振りかぶってミニドラゴンに叩きつける。ずいぶん弱ってきている。しかしミニドラゴンは最後の力を振り絞り、長く太い尾を振り回す。

「マリーっ!!!」

 狙いは私だった。まずいと思った瞬間、大きな影が私の前に立ち塞がる。エリックだ。

 ミニドラゴンの尾はエリックの巨体を吹き飛ばし、一緒に私の体もなぎ倒す。そのまま2人一緒に背後の壁に叩きつけられ……たかと思ったのだが、気付くと見知らぬ通路に転がっていた。

 壁がどんでん返しになっており、壁の反対側の通路に入り込んでしまったのだ。忍者屋敷なんかによくあるアレだ。

「無事か?マリー」

「うん、エリックがダメージはほとんど吸収してくれたから」

 エリックに手を引かれて立ち上がる。服についた砂埃を手で払い落とした。

「壁が回転したのか」

 エリックは通路の壁をコンコンと軽く叩く。岩壁のように見えるが一部だけ岩ではないようだ。音が軽いところがある。

「戻れるか?」

 ぐっと力を込めて仕掛け部分の壁を押してみるが、びくともしない。

「ダメだ。多分向こう側からの一方通行だな」

 おそらく中ボスを倒さずしてショートカットできる隠し通路になっているのだろう。

「どうしよう、あいつら気付くかな」

「気付くと思うか?」

「気付かないわよねえ、脳筋と魔法ヲタじゃあねえ…」

 私たちは顔を見合わせてため息をついた。

「二分されるならせめて他の組み合わせが良かったわ。防衛一辺倒で私たちどうするのよ」

 アルフレッドと私、クロムウェルとエリックであれば問題なかった。クロムウェルと私、アルフレッドとエリックでも何とかなったと思う。しかし状況は最悪のパターンである。

「俺、防御全振りなんだよなあ。下手に攻撃すっとあいつらに巻き込まれるし」

「私も攻撃魔法は必要ないと思って…」

 倒れることはなくとも、敵を倒すことができない。

 向こうは向こうで攻撃全振りの2人なので、攻撃はできるものの反撃はモロに食らうし回復の術もない。力尽きるのも時間の問題だ。

「今回は諦めて脱出するか?あいつらもそのうち出てくるだろ」

「甘いわね、エリック。あいつらがおめおめと引き返すと思うの?絶対無謀でも突き進むわよ、バカだから」

「…ああ…」

 慎重派エリックは自分とは思考回路の違いすぎる2人を想像して頭を抱えた。

「幸いにも目的地はわかってるわ。こっちからだって行けるはずよ」

 どこで彼らのルートと合流するかはわからないが、最悪ボス戦では合流できるはずだ。どのルートを通ったところでそこが終着地なのだから。

「この状態でさらに奥に進むのかよ」

 もう一階層深く潜れば敵の強さも増すだろう。それでもきっと彼らは進むし、雑魚敵にはやられないと思うのだ。ただボス戦になれば話は別だ。やはり私たちの力が必要になるだろう。

「とりあえず敵に見つからないように幻の魔法をかけるわ。それでも見つかったらひたすら逃げるのよ。多少やられたって回復してあげるから、全力で退避ね」

 楽しい戦いでは全くない。得るものもゼロだ。それでも進み、合流することが最優先だ。

「わかった。全力でマリーを守りながら逃げるよ」

「頼りにしてるわ」

 私たちはゆっくりと慎重にダンジョンの奥へと向かった。



 その後、階段を降り最下層に達したが、進めど進めど彼らの姿は見つからなかった。

「中ボスをショートカットできる代わりにだいぶ回り道をさせられたのかもしれないわ」

 ただでさえ、勢いで突き進む彼らと敵に見つからないよう慎重に進む私たちとではスピードがずいぶん違うと思うのだ。ずいぶん遅れをとっている。

「間に合うかしら。まだ生きてるといいんだけど」



 いかにもこの向こうにボスがいます、といった感じの重厚な門をくぐって進む。

「いた!」

 すでに激しい戦闘が行われており、広い空間に砂煙が立ち上っている。

「アル!クロム!無事?」

「どこ行ってたんだよ、おまえら。遅えぞ」

 2人とも、まだ立っている。かなりボロッボロにはなっているが。

「回復するわ。いったん引いて」

 エリックが最前線に飛び出し、傷ついた2人を後方へ押しやる。

「バカね、私たち抜きで勝てるわけないのよ」

「行けると思ったんだけどなあ」

「私たちがいてこそあんたたちの力が存分に発揮できるんでしょうが」

 2人分の回復をすると、ばちんと両手で2人の背中を押した。

「ほら、エリックが頑張ってるからいってらっしゃい。あとは気にせず突っ走れ!」

 我先にと駆け出していく背中に向かって攻撃強化の魔法を贈る。

 誰一人欠けてもダメだ。私たちはこれで最良のバランス。どんなモンスターにだって立ち向かえる。




 長い戦いの末、私たちはボスを倒しダンジョンを攻略した。

「やったね」

 息の上がる仲間たちとハイタッチを交わす。

 報酬もがっぽりだ。と思ったのだが。

「あれ?思ったより少なくない?」

「だよなあ、このレベルのダンジョンにしてはいまいち…」

 私とエリックが首を傾げると、クロムウェルが不自然に目を逸らす。

「なによ」

「悪いのはあいつだからな」

 詰め寄るとクロムウェルは慌ててアルフレッドを指差した。

「は?何言ってんだよ。おまえが死ぬから蘇生してやったんだろ?感謝しろよ」

「俺を殺したのはてめえのわけわからん暴発スキルだろうが。言っとくけど敵にやられたわけじゃないからな」

 ぎゃあぎゃあと罪のなすりつけ合いが始まる。

「要するに、私たちが合流する前に一度やられてるわけね?それで蘇生アイテム使ったわけね?」

「「…はい…」」

 二人仲良く返事をすると息のあった土下座を繰り出す。

 つまり、全員生存とアイテム未使用のミッション報酬が貰えなかったというわけだ。

「蘇生アイテム高いのよ?これじゃ収支マイナスじゃない」

 私はガックリと膝を折る。目の前に並んだ頭二つをポカリと殴ってやる。

「あんたらしばらくタダ働きよ」

「ちょ…それは勘弁してくれ。そもそもマリーたちが急に消えるからいけないんじゃないのか?」

「消えてないわよ。壁にどんでん返しの仕掛けがあったの。あんたたちが気付けばすぐ合流できたのに、調べもしないじゃない」

「は?知るかよ、そんなの」

「ギミックとか考えるの、俺らの役目じゃないし」

 二人揃って不服そうな顔をする。いつも喧嘩をしている割に仲良しだ。基本的に思考回路が同じなのだ。

「しょうがないか」

 私は大きく息を吐いて立ち上がる。役割分担、確かにそうだ。あそこで分断されてしまったことが運の尽きだったのだ。

「アル、クロム、エリック、帰るわよ」

 にっこり笑えば犬っころのように駆け寄ってくる3人。多分いろんな意味で絶妙にバランスの取れたパーティーだ。私は毎日楽しい。

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