【KAC20204】 四年に一度拡散する世界樹の種をUターンさせる最高のお祭り

遥乎あお

四年に一度拡散する世界樹の種をUターンさせる最高のお祭り



「えー、それでは今から世界樹の種探し祭りを開催します! 回りくどいことは言わん! 探せ探せー!!」



「「「「「「おぉー!」」」」」」



 島長とうちょうさんの悪のりのような言葉に大人も子供も関係なく拳を突き上げて吼えました。


 もちろん、私も一緒に吼えましたよ? ま、まあ、ちょっとビクッとしちゃって〝お、ぉー〟みたいな感じで少し恥ずかしかったけど……誰にも聞かれていないと良いなぁ。


「今年は見つけたいなあ」


「もきゅ!」


「ね、もっきゅちゃん!」


 私の頭の上に乗っている白いもこもこの小動物――もっきゅちゃんを撫でながら町の外へ一歩踏み出しました。


 私が探しているのは島長さんも言っていた世界樹の種です。


 この島では中心に存在する巨大な木を世界樹と呼んでいるのですが、四年に一度発光現象を起こすのです。


 世界樹が地脈から魔力を貯めたことによって発光していると島の学者さん達は言っていますが私にはよく分かりません。


 その発光と一緒に世界樹から種が一〇〇個島中に散らばるのです。


 私達はそれを集めて世界樹の根元に返すことをお祭りとしています。


 何でも、こうすることで世界樹を安定させ、島の作物や漁場も安定するのだとか。


 集めた一〇〇人にも世界樹の加護がかかるとかで、四年間自分や家族が幸運が訪れるなんて話も聞きます。


 私も前回八歳のときにチャレンジしたのですが、結局見つけられず終いでしたので今年こそは! と張り切っているのです。


 と、海岸沿いを歩いていると屋台やらそこでくつろぐ大人達を見つけました。


「お、ティアちゃん! 種、探しているのかい?」


 話しかけてきたのはベンチに座りながらお酒をがぶ飲みしている、魚屋のおじさんでした。

 このお祭りは真面目に探している人もいますが、結局の所お祭りなので、飲んで食べて騒ぐだけの人も結構います。


「はい、おじさんは……探す気はなさそうですね」


「はははっ、おじさん達は体力無いからいいんだよ。それに、こういうのは若人達に任せるさ。おばちゃん! もう一杯! あと、つまみにイカ焼き一つ!」


「あいよ!」


 おじさん達がこれだけ飲んでいるということはここには無いということでしょうか? でも地面を見ながら歩いている人も結構いますね……なんて、考えていたら〝あった!〟という声が聞こえてきました。


 その声の方を向けば、


「げっ」


 思わずしかめっ面をしてしまいました。


 そこにいたのは、ヴァル君だったからです。


「お? なんだティアじゃねーか、へへっどうだよ? 種、見つけたぜ?」


「良かったですね。おめでとうございます」


 ヴァル君はこうしてよく私に構ってくるので、正直苦手なのです。


 あと、ガキ大将とでも言えばいいんですかね。大きめの態度とか子分みたいな友達がいるのも苦手です。


 私があまり顔に出さないように返事をするとヴァル君は口を尖らせました。


「んだよ、つまんねー反応だな。今回の祭りにやる気出してたみたいだし、何ならこの種くれてやっても良いぜ?」


 そう言って、ヴァル君は私に種を差し出してきました。


 微妙ににやついた顔が腹立たしいですね。それに、他人から貰ったものでは私の中では意味がありません。


「うるさいです。自分で探すのでヴァル君は島長さんのところに持っていくといいと思いますよ!」


 私はそのまま、島の奥の方に駆け出します。


 まだ、あのあたりならばあまり人がいないかもしれません。




「あ……、だー!? 俺は何でいつもこうなんだ!?」






 そこから先もずっと種を探していたのですが、私が種を見つけることはなく。もう夕方を過ぎて夜になろうかという時間帯でした。


「私にはやっぱり見つけられないのですかね……」


 思わず気弱な言葉が口からこぼれ出てしまいました。


 先ほど島長さんが九九個の種が見つかった! と宣言していました。


 種は毎回絶対に一〇〇個ですので、あと一個しか有りません。


 もう、子供の足で行ける場所の種は残っていないでしょうし……


「もっきゅ! もっきゅ!」


「もっきゅちゃん!?」


 唐突にもっきゅちゃんが私の頭の上から飛び降りて、森の中へと入っていきます。脇目も振らずに跳ねて駆けだしていく様を見て、すぐに後を追いました。


「ま、まって、もっきゅちゃん! いったいどうしたの!?」


 私はもっきゅちゃんを見失わないように必死で追いかけます。


 木々をかき分けて少し開けた場所にたどり着くと、そこには、暗闇の中で薄く光る物体――世界樹の種がありました。


「もきゅ、もっきゅ!」


 もっきゅちゃんが種の近くで声を出しながら、跳ねていました。


 まるで、〝ここだよ〟というようにです。


「もっきゅちゃん、もしかして私のために見つけてくれたんですか?」


「もっきゅ!」


「ありがとうございます!」


 もっきゅちゃんを撫でた後、私は世界樹の種を持ちます。


 種の大きさは私が両手で持てるほどの大きさです。ちょっと重いですが、持ち運ぶのが不可能な大きさではありません。


「それじゃ、島長さんのところにいきましょうか」


「もっきゅ!」


 私ともっきゅちゃんは世界樹目指して歩き始めたのです。






「お、おおー!? 最後の種を持ち帰ってきたのはティアちゃんだ! 皆、盛大な出むかえを!!」


 島長さんを始めとしてその場にいた沢山の人からの拍手とともに迎え入れられました。


 そのまま、世界樹の根元に向けて歩いて行きます。


 その途中にヴァル君がいたので自分で見つけましたよ、とドヤ顔を披露したのですが、なぜかヴァル君はすぐに顔を背けてしまいました。


 はて? なんで背けたのでしょうか?


 気にはなりますが、今はそれどころではありません。


 他の種と同様の位置にゆっくりとおきます。


 これで準備は万端です。


 あとは暫く待っていると種は地面に吸収されて世界樹が再び光り輝くそうで――なんて言っている間に種が地面に沈んでいきますね。


 その次の瞬間には世界樹が光り輝いていました。やさしい光です。


「出来れば私が種を見つけるのを直接見せたかったですね」


「もきゅ?」


「大丈夫ですよ、もっきゅちゃん」


 少ししんみりした気分になってしまったのがもっきゅちゃんに伝わったのか、心配させてしまったようです。


 頭の上のもっきゅちゃんを撫でながら、私は今回ここまでこのお祭りを頑張っていた理由を思い出していました。


 私の両親は島の伝統工芸品を作る職人なのですが、島の特産品でもあるので毎日忙しそうにしていました。

 そのため、あまり私に構ってくれなかったのです。愛情がないわけではないのですけどね。


 ですので、私は昔からおじいちゃんとおばあちゃんの元で遊んでいました。細かくは覚えていませんが、私の懐き具合は凄かったらしいです。


 私が四年前のお祭りに黙って参加して、迷ったときも迎えに来てくれたのは、おじいちゃんとおばあちゃんでした。


 心配かけたことを怒られたのは良く覚えています。


 多分、私としては、その頃体調を崩しがちだったおじいちゃんとおばあちゃんに幸運が訪れれれば、治ると思っていたのでしょう。


 結局、失敗したうえに、おじいちゃんとおばあちゃんは二年前に亡くなっているのですけどね。


 だから、せめて、今回のお祭りでは見つけたかったのです。


「この光がおじいちゃんとおばあちゃんにも届いているといいですね」


「もきゅ!」




 私は夜空へ繋ぐ柱のような世界樹の光が消えるまでずっと見ていたのでした。


 今年のお祭りは最高でしたね。

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【KAC20204】 四年に一度拡散する世界樹の種をUターンさせる最高のお祭り 遥乎あお @raiki

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