不思議な店主の葬儀屋さん

人生

問題です。一緒に入って、最期は別々。

これなあに?

 答えはこちら、覚悟を決めたらぜひクリックを




 はいこんばんは、わたくしの葬儀屋にようこそ。


 どんな最期をお望みですか?


 あぁもちろん、わたくしたちは葬儀屋であって殺し屋ではないので、誰々を殺しますという話じゃあございません。


 え、知っている? あぁそうですか、お客様のご紹介で。へえなるほど。やはり時には〝生き証人〟を残すものですね。


 ……あぁいえ、こちらの話。


 ではプランのご説明に入りましょう。大別して、この世界には四つの葬儀のかたちがございます。



 まずはこの国でもっともポピュラー根付いた文化、『土葬』でございます。

 ご遺体を土に埋葬するのです。ご遺体はそうして土地に根付き、根を張って、新たな時代への糧となるでしょう。

 亡くなられた方の魂がこの国に根付くよう祈り、そしてまた巡り巡って――どういうかたちであれ、生まれ変わってまた生命を得られるようにと。


 この国独特の風習でございますね。故にこの国はもっとも人口が多く、栄えているのでしょう。


 ……ある意味、この国から魂を逃がすまいとする呪いのようでもありますが。


 いえいえこちらの話、では次のご説明に参りましょう。



 お次は『火葬』――火を以て肉体も魂も焼き尽くさんとする、焼却処理でございます。


 の国において、死とは弱者の証明、生存・長命こそがもっとも尊ばれる故に、「死んでしまうとは情けない」という戒めを込めて、劣等種を断たんと火をくべるのです。


 しかして魂とは狡猾でして、肉体の檻から解き放たれたとみるや、燃やし尽くされる前に輪廻の川へと飛び込みます。故に彼らの蔑む劣等は、未だにしぶとく生まれてきます。


 強者こそが絶対正義、領地を増やし私腹を肥やす強者にとって、墓地に割く土地など無駄以外のなにものでもない。墓石をつくるくらいなビルを建てる――そんなお国柄だからこそ、どこよりも発展し……そうそう、お客様も少なからずその恩恵を受けているのでは?



 そして続きましては『風葬』でございます。

 または〝鳥葬〟、単純に〝腐敗〟、放置しているだけともとれますが、これにはこれで立派な理由がございます。


 その国は国土の大部分を砂漠と荒野が埋めているため、人の住める土地は限られています。墓地をつくる余裕がないとはいいますが、人工物が自然を塗り潰すのも時間の問題でしょうか。


 彼らは開拓者です。わずかな資源から世界を広げ、ヒトに新たな道を示さんとする傲慢さは、尊ぶべきか蔑むべきか。なんにしても、彼らは広がることを望みます。

 それは人生においても、その最期においても同様です。


 死体を外地に晒すのは、虫や鳥によってその肉が世界の糧になるように、新たな世界へ広がるようにという願いをこめたものです。

 開拓の果ての終着駅から、表層だけの美しさから解き放たれて、あの空へ、真に生命が輝くように。

 その魂は肉体を離れ風に乗り、自由に世界を巡ります。



 ――いかがでしょうか、お客様の望む終わりのかたちは見えましたか?


 え? 四つ目は何か、ですか?


 お客様も好奇心旺盛なことで、猫のようにお可愛い方、深入りすると死にますよ?


 まあいいでしょう語りましょう、四つ目の死のかたち、それは『水葬』でございます。




                   ■




 二人の従業員が、棺を引っ張って闇の中を進んでいる。

 ロープで棺をぐるぐる巻いて、ロープの両の端を二人仲良く引っ張っている。

 ガタガタ、どんどん。引きずられた棺が飛び跳ねる。


「……オレ、毎回思うんですよ。のためだけにうちはあるんじゃないかって」


「バイトくん、あんまり深く考えない方がいいよ。だって実際、葬儀のためだけに外国いくとか馬鹿じゃん。……それがガタガタいってんのも、私たちのずぼらさが原因だから。気にしない気にしない、中身は死体、中身は死体」


「もはや言い聞かせている……。というか、こんなのご遺族の方が見たらクレームものですよ。水葬なんて――」


 二人は棺を、闇の奥へと押しやった。


 ちゃぷん、と――暗い水の中に、棺が沈んでいく。


「……ただ遺体を、水の中に沈めてるだけなんだから」


「放り投げるよりはマシでしょうよ。それに、ご遺族はここには入ってこれないし――そもそも、」



 なんだこれなんだこれ水が水が水が入ってくるやめて助けてここから出して!!



「ご遺族もこれで笑顔になるでしょ」




                   ■




 恨みつらみがあるのなら、沈めてしまえその人を!


 ……はい、『水葬』でございます。


 これはわたくしの故郷に伝わる風習でして、あったものは、元あった、あるべき場所に帰そうという考え方に基づいています。

 つまり人は母の母胎から生まれ出て、水に沈み帰るのです――魂はあるべき場所へ、そしてまたいつか巡りくるでしょう。


 た・だ・し――お客様のご紹介でしたら、ここに特別プランを追加いたします。


 ええ、お察しの通り……


 肉体は腐り水底で骨となり積もるでしょう。それはあなたの恨みのように。

 魂は土に還らず風にも乗れず、むしろ火に焦がれるほどの水の中にて――



 水槽の中にて



 あなたが飽きるまで、望む限り永遠に、その魂を閉じ込めておくことが出来ます。



 ――いかが致しましょうか、お客様?



 ……え? わたくしの故郷のことをお知りになりたい?


 それは言わぬが花というものです。

 まあそうですね、どうしても知りたいというのなら、新しいお客様をご紹介してくれると助かります。


 不思議な店主の葬儀屋さん、どうぞまたのお越しをお願いします。




                   ■




 ――あぁ、そうそう。


 ご遺体ならまだしも――まあ、その、なんですか。わたくしどもは殺し屋ではないもので。

 たまに上がってくるのですよ、それもまたその人の運命ですね。


 そしてあなたの運命だ。




                   ■




 


 葬儀がご入用の際は、ぜひともわたくしジョーカーの葬儀屋さんにご用命いたければこれ幸い。


 またのご来店をお待ちしております――どうぞ、ご贔屓に。



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