ラングトンの地図 第3話
左手のビニールの手提げに、水滴がついていることに気づいた。D君に誘われて行ってきたライブの帰り、駅から下宿に向かう短い間に、雨が降ってきていた。天気予報では夜から雨だと言っていたから、折り畳みの傘はカバンに入れていたけど、それはさすほどでもないだろう、と足をはやめた。
しかしせっかく、ライブ会場で買ったD君いちおしのCD、しかも握手の後にサインつき……のこれは濡らしてはならないなと左手を胸に寄せるとき、すこしふらついて、おっとと電柱のそばで立ち止まった。……街灯ごしに、雨粒が見える。……ふと、この道を歩き始めた3年ほど前を思い出した。
あの頃はまだ、左脇にある小さな飲食店は
小雨の日は、それがぼんやりと見えて、とくに枠の部分が四角に、オレンジや緑や赤に交互に光る動作が、ライフゲームみたいに見えた。隣のドットやセルの状態によって反転するとか、オセロゲームのようなルールだけど、世界には
あたらしい生活がはじまって、駅から社宅までの道に、またそういった小さな発見はあるだろうか。当たり前だった研究生活から、何もわからない場所に飛び出すことは、正直不安の方が多い。
それでも、周到とはいえないにしても、これまでの研究やら経験やらが全く役に立たないわけでもないだろう。規則的なパターンで、隣接するセルの状態でこっちが死にそうになる、なんてことはないはずだ。ぱたぱたと広がっていくセルの様子のように、A先生の教えを伝える、とまでいくと仰々しいが……自分の存在が少しでも社会に良いように影響すればいいかな、と青臭いことも考えてみた。
ラングトンの地図 なみかわ @mediakisslab
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