ラングトンの地図 第2話
がらがらと大きなスーツケースを運んで来たのは、隣のC先生の研究室の院生のD君だ。「あれ、掃除当番?」鍵を回しながら聞いてくる。「最後の仕事かな。そっちは?」「学会から帰ってきたとこ。荷物置きに」「ああついでに、塵取り貸してよ。向こうに取りに行くのもめんどくさいし」
ガラガラと引き戸を開けて、D君はそのまま自分のデスクまですすむ。日頃この階の部屋はだいたい行き来が自由で、ドアを閉めるのはゼミの時くらいだ。僕は勝手知ったる奥の部屋から、塵取りとモップをつかむ。
「いつ引っ越し?」「下宿の方? 明後日には鍵を返すし、もう荷物も実家や社宅に送ってる」「あっそ」D君はさくさくと荷物をほどきながら雑談をしてくれる。
彼とも学部の時からだから6年のつきあいだ。4月からは博士後期課程にすすむ。もう少し研究したいことがある、という一方で、彼は高校の頃から内臓の疾患があって……見た目には何もないが、履歴書を見る企業からは嫌われて、もうずっと大学で研究をしているのでは、という噂も聞いていた。
「そそ、明日の晩って空いてる? チケット余ってて」
D君はいつもと変わらず、追っかけをしているアーティストのライブに行かないかと持ちかけてきてくれる。
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