↓最初に書いたもの

ラングトンの地図 第1話

 長い学生生活だった。

 そして研究者になることと、教鞭を執りながら研究者になることとは、ずいぶんと違うのだということがわかった。

「ここにいてくれるのなら、推薦状を書いてあげましょう」と、おそらく生涯の先生、A先生は背中を押してくれたけれども、僕は企業研究者への道を選んだ。


 そもそも自分のデスク周りはもちろん片付けるつもりだったけれど、A先生の部屋まできれいにして掃除をするという最後の大役を仰せつかった。この古びた三階建ての、講義室やら事務室やら、研究室が詰まっていた学舎が取り壊しになるのだ。先生や後輩は、すでに新しいラボに引っ越していた。


 僕がB社で新卒向けの研修をうけ終わる頃、ここは立ち入り禁止になって、この部屋から西側の夕日で染められた壁も見ることができなくなる。携帯で見慣れた景色を撮ってみたが、まだこれが二度と見られなくなる、という実感はわかなかった。

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