第十六話「......本当に取材は終わりなのかい?」

ガチャ


 扉の先には、様々な機会が置かれていた。

「これ全部坂崎さんの発明?」

「ああ、すべて僕の発明さ」

「例えばこれは?」

私のすぐ近くにある椅子のような家具を指差す。

「それは自動散髪機さ」

「なんだかありが......モゴッ」

いきなりシロナちゃんに口を塞がれ、耳元で忠告してくれた。

「アリガチッテ言ッタラ、アノ人、凄ク落チ込ンデ三時間何モ言ワナクナルノ......」

「ん? 口を塞いで何をしているんだね?」

シロナちゃんの手から解放され、私の次の言葉が頭の中で回り始める。

「えっと......その......」

「上宮、この自動散髪機について質問があるのか?」

部屋を見渡す目線の中にミディアムウルフを捉えてようやく、次の言葉が掴めた。

「えっと......そう、シロナちゃんの髪ってこれで?」

「ああ、この自動散髪機は例え人間とは違う姿をした者でも、パネルひとつで好みの髪型に仕上げてしまうのだよ。上宮も試してみるかね?」

「今はいいです。このポニーテール、イメチェンするにはまだ惜しいんですよ」

「ふうむ、こだわりある髪型か......実に個性的だ!」

......さて、そろそろ茶番はここまでにしよう。

「坂崎さん、そろそろ取材に戻ってよろしいでしょうか」

「......ああ、僕と"カメさん"のことだったね」


 カメさん......それが亀の化け物の愛称らしい。本名は坂崎さんですら知らないとのことだ。二人の出会いはこの島で行われたという。牧場と兼業して研究に明け暮れていた坂崎さんが、加奈ちゃんを連れて気晴らしに海岸を歩いていた時、海の中からカメさんが現れた。驚き戸惑う二人に、カメさんは静かに告げた。

「......驚カセテスマナイ。私ハコウ見エテモ人間ダッタノダ」

人の言葉を喋ったことにさらに驚く二人だったが、そこは個性的なものが大好物な坂崎さん、そのままカメさんを受け入れるのであった。

 カメさんは昔、"二度坂市"で暮らしていた民謡学者だという。しかしある日、体に異変が起き始め......


「ちょっとストップストップストップ!! ストップ......ストップ......」

思わずストップを五連呼してしまった。

「なんだね?」

「坂崎さんは、この町の噂はご存知ですよね?」

「ああ、一島町で失踪した者は姿が変わる......って奴だろう?」

「でもカメさんの話では、二度坂市で体に異変が起きたって......」

二度坂市......それはこの一島町とは別の県にある大都会だ。かつては二度も住民が立ち去ってしまう事件が起きたものの、奇跡的に立ち直したという。

「それはあくまでも一島の都市伝説に乗っかった噂だ。カメさんいわく、日本中に異変が広がっている可能性もあるらしい」

「コノ町ダケジャア......ナインダ......」

「そういうことだ。さて、続きは次の部屋に向かいながら説明しよう」




 廊下の中でカメさんの話の続き。遂に化け物の姿になったカメさんは一時期は部屋に籠っていたものの、自分の姿が消える能力があることに気づくと、それを利用して町に潜む化け物と出会っていたという。そんなある日、彼は一島の都市伝説を耳にして......


「......この町に訪れたと」

「ああ、カメさんは都市伝説と化け物になる異変に繋がりがあると推測したようだ。僕はこの都市伝説を解明したくてこの島で暮らしていたが、それに関しては力にはなれなかった。その代わりに、加奈はカメさんのサポートを、僕は化け物の役に立つ道具の発明で役に立とうとしているのさ」

「あの自動散髪機も?」

「そうだ。情けないことに、化け物の役に立つ道具は二つしか出来ていないがね」

そう話している間に、私たち一行は扉の前に立ち止まる。坂崎さんはドアノブに手をかけながら、こちらに謎の微笑みを向ける。




モォ~


「なるほど、一島町の美味しいカフェオレを支える牛乳はここで採っていたわけだ」

「だから、一島という名の僧侶によって生まれた......」

坂崎さんの訂正を無視して、牛舎の中で牛さんの世話を終えた加奈ちゃんに近寄る。

「加奈ちゃん、調子はどうだい?」

加奈ちゃんはこちらを見てお辞儀する。モジモジしているところが気になるなあ......

「何か話したいことがあるのかい?」

「お話......終わった?」

一旦坂崎さんの表情を確認してから、再び加奈ちゃんと向き合う。

「ああ、話してごらん」

「あのね......一緒に花火......してくれる?」

「花火って、手に持つ方?」

「うん......今までお友達と花火......したことがないから......」

お友達かあ......一瞬照れかけたけど、よく見ると加奈ちゃんの視線はシロナちゃんに向けられている。ちょっと残念。

「シロナちゃんは大丈夫?」

「花火ッテシタコトナイケド......イイヨ」

急に加奈ちゃんの表情が明るくなった。

「本当!? それじゃあ、準備するね!」

「マ、待ッテ、一人デ暗イトコロニ行ッタラ危ナイ......」

そう言って二人は牛舎から走り去って行った。


「......本当に取材は終わりなのかい?」

「いいえ、あとひとつありますよ。あなたは個性的なものが大好物とおっしゃいましたが、もしも化け物に協力することがありがちとしたら......あなたは興味を失いますか?」

最後の質問に、坂崎さんは暫く黙ったままだった......と思いきや、急に笑い始めた。


「まさかお前が僕にテストを課すとはなあ......例え興味を失っても、化け物は人とは違う個性を持っていることは理解し続けると思う。彼らがとても個性的なことは揺らぎないからな」





 坂崎さんと共に外に出ると、加奈ちゃんとシロナちゃんの手には線香花火が握られていたのが見える。はしゃぐ加奈ちゃんに対して、ちょっと心配そうだけど微笑みを浮かべながらお喋りをするシロナちゃん。その花火大会にしれっと参加する坂崎さん......

 それにしても、まさか二度坂市でも異変が起きているとは......トラウマの事件の時は一島町には住んでいないから、一島町以外の街に化け物がいてもおかしくはないけど、あの大都会にもいることは予測できなかった。いつかは行くことになるのかな。

 坂崎さんは確かに変わり者だけど、シロナちゃんの言う通り悪い人ではなさそう......かな? 結局よくわからない人だったけど......彼の発明品はいつか、化け物の役に立つ時が来る可能性がありそうだ。

「ソウイエバ、カメサンッテドコニイッタノ?」

「わからない。カメさん、恥ずかしがり屋さんだから」


 バケツの中の水は、線香花火によって個性的な光を写していた。違和感を歓迎するかのような美しさで。




FILE3 END

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上宮俊の化け物取材記録~妙な記者精神を持つWebライターの変化賛歌~ オロボ46 @orobo46

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