後輩▷▷
佐々木実桜
カップケーキはいかが?
3月14日。
世間はホワイトデーがどうので賑わいを見せている。
俺は今日、可愛い後輩にお返しをしなければならない。
一ヶ月前のバレンタインの日、たった一人の後輩からチョコレートを貰った。
市販のチョコレートを照れくさそうに渡す後輩は、何とも分かりやすく、そして何とも可愛らしかった。
『これ、あげます。』
『お返しは3倍で! 』
照れ隠しにそんなことを言った後輩に、任せろと言ったことを、少し後悔している。
ちゃんと準備はしてきた。
3倍かどうか正直自信はないが、知ってる限り好きそうなものを選んできたつもりだ。
「喜んでくれるかな…」
「誰がっすか? 」
「うわっ!」
「そんな驚くことないじゃないっすか〜」
やたらと疲れた様子の後輩が、なだれ込むようにもたれかかってきた。
「別になんでもないよ、それよりどうしたの?そんな疲れた顔して」
「お返し配り歩いてたら疲れたんす。」
「…へぇ」
「いっぱい貰ったからいっぱい返してたんすよ、俺モテモテ」
そう言ってドヤ顔をかます後輩。
(ズキッ)
まただ。
あのわかりやすい愛らしい表情を見てから、後輩の恋愛沙汰にモヤモヤするようになった。
「先輩はあの子にお返ししたんすか?」
「あー、あの子ね。一応友達伝手に渡してもらったよ。」
「そうなんすね。で、俺の分は??」
きらきらと目を輝かせる後輩は散歩を急かす犬のように見えた。
「あるから待ってて」
「まじ!やった!」
カバンを漁って、用意してきたお返しを取り出す。
「はい、どうぞ」
「やった! あざす!! 」
俺が用意したお返しは外装を見ただけじゃ中身がわからない仕様になっていて、後輩は開けてもいいかと問うようにこちらを見ている。
「あけていいよ」
「はい! 」
中身は、やんちゃな後輩に似合うピアスと、
「あれ、俺あけたこと言いましたっけ? 」
「バレバレ、頭髪検査引っかからないようにね」
「はーい」
それと、イチゴ味のカップケーキ。
「え、」
「イチゴ、好きだったでしょ? 」
「はい、大好物です…」
「よかった」
「これ、手作りですか? 」
「うん、妹にめっちゃ聞きながら作った。あ、手作り苦手だったら全然自分で食べるよ。」
「いや、食べます!!食べますけど…」
後輩の様子が少し変だ。
「どうかしたの? 」
「お、俺はいいですけど、あの子へのお返しもこんな豪勢だったらダメですよ、振ったくせに、勘違いさせちゃう 」
「それに、カップケーキとか余計、ダメです。だって、お返しに贈るカップケーキの意味は、」
「『特別な人』、でしょ」
「あ、はい。え、知ってるんですか? 」
「知ってるよ、知ってて作った。」
「あの子へのお返しは、こんなに頑張ってない。」
「どういうこと、ですか? 」
目を丸くして聞いてくる後輩。
さて、覚悟を決めなければ。
「そのまんま。君が特別だから、あげただけ。」
「い、いやだなあ先輩。そんなん照れるじゃないですか〜」
照れ隠しに少しふざけて返してくることは想像ついてた。
「てっきり、君も俺が特別だからチョコレートをくれたものだと思ってたけど、俺の勘違いかな? 」
俺より背の高い彼の耳まで赤い顔を覗き込んで聞いた。
「…勘違い、じゃないです。」
「俺、先輩のこと好きで、だからバレンタインのとき告られたって聞いて怖くなって、それで、」
「落ち着いて」
「でも、多分、先輩の言う特別とは、違うから、」
「違わないよ。」
「だって、先輩のそれは、大事な後輩として」
「それもあるけど、それだけじゃない」
「君と、先輩後輩じゃない関係になりたい」
「君は、違う? 」
「っ、違わない!! 」
大きな図体で俺に抱きついてくる可愛い彼を受け止める。
今日、俺にとって可愛い後輩から、
可愛い恋人になった彼を。
後輩▷▷ 佐々木実桜 @mioh_0123
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★0 エッセイ・ノンフィクション 完結済 2話
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