高校時代に女友達に振られたことを引きずり続けている大学生の渡貫詳。
一応『お悩み相談サークル』に所属し、時々持ち込まれる事件を解決して自尊心を満足させたりもするがその日常は灰色なまま。
そんな彼が学食で食事をしていると、ちょっと目を離した隙に割引券が盗まれるという妙な事件に巻き込まれる。しかも、ただ盗むだけではなく新聞記事とタロットカードをその場に残すという妙な犯行アピールをしてくる犯人。その後も学内で似たような小規模な窃盗事件が起き続け、サークルの後輩の角川貴理にせっつかれ、詳は事件の解決に挑むことに。一見何の意味もない犯行に思われた事件だったが、捜査を続けるうちに事件と被害者にある共通点が見つかり……。
事件のテーマとなるのは、犯人がどうやって盗んだのかという点ではなく、何故財布や貴重品ではなくどうでもいいものばかり盗むのか?という日常の謎にというジャンルの本作。手掛かりを丁寧に読者に提示しつつ、終盤で思わぬどんでん返しも用意されており、ミステリーとしてもしっかり面白いのだが、それだけではなく詳と貴理の他愛ない日常の会話が楽しく、一見事件に無関係な要素もしっかりとラストに結びついている青春小説としても優れた作品だ。
(「奇妙な犯罪」4選/文=柿崎 憲)
まず最初に、登場人物が若者であるため、どの年齢層の方でも感情移入がしやすい作品です。
窃盗事件を題材にしています。これは、広義のミステリー(刑法犯)に当てはまるため、巷にあふれてきた「別に解かなくてもよい謎」でないのも推奨できる点です。通常、盗んだ人は誰なのか? 知りたいですよね。
語弊があるかもしれませんが、ミステリー小説の入門として適切な小説です。これはなにも単純であるという意味ではありません。
それは何故か。
フーダニット(誰が犯人か)とホワイダニット(なぜ犯行に及んだのか=動機)がうまい具合に融合されているのです。
と言って頭がこんがらがるような複雑さはなく、伏線もフェアであるため、「ミステリー小説を読んだことがない」という人でも、すんなり読了できるかと思います。
この『友達しかみられない』は、ミステリー小説は決して敷居が高いジャンルでないということを教えてくれる作品でもあります。
さあ、肩肘張らずに読んでみましょう。読み終えた後は、一服の清涼とともに、作者様の他の作品も読みたくなること請け合いです。
主人公、渡貫 詳の『お悩み相談サークル』に持ち込まれる数個の謎について、鮮やかに解かれている作品。
主人公の感情の根底にある謎からも目が離せなくなるような構成になっており、単なるミステリーとは一線を画します。
読者は待ち受ける最初のミステリ、八代 愛美の浮気調査の依頼で程よいジャブが効いてくるのを感じてくるでしょう。ジャブが効いたらあとは自然に目が離せなくなっていきます。
そして最後の「死神盗難事件」……物語を通じて撒かれていた伏線が絡み、解かれる様に一気に目を瞠ります……!これは是非ミステリー好きでもそうでない方も目を通していただきたい物語です。読後感はすこぶる良く、すっきり晴々とした気分を味わえます。
最後に、この小説を面白くないという人は——きっとマッドサイエンティストにロボトミー手術を施されたか、海馬に電極でもぶっ刺されたに違いない——