Uターン

アキノリ@pokkey11.1

ただこの想いを

甲島鐵倉(コウジマテッソウ)っていかにも堅苦しい名前が僕は嫌いだった。

幼馴染の彼女に出会うまでは、だ。

何故嫌いかと言えば難しくて読めないから、だ。

短髪で.....少し、なよっとした性格の僕。

それでも頑張って.....医大に通う事が出来た。


そんな僕の隣の彼女は微笑みながら言う。

鐵倉って意思が固い意味をしているんじゃ無いかなって。

僕の彼女の名前は葉月心(ハツキココロ)。


幼馴染で僕に対して告白してきた可愛らしい女の子。

僕は彼女がとても大好きだ。

だから永遠に守りたいと思っている。


彼女も僕が好きで以心伝心だった。

僕は彼女の手を握る。

彼女も.....僕の手を静かに握ってくれる。

それからイルカショーを見る。

大学生の付き合いだ。


そしてイルカショーを見ての帰り道。

歩いていると心が立ち止まって.....突然泣き始めた。

僕は驚いて.....彼女の涙を拭う。

そして.....彼女は僕を見上げて告げてきた。


「.....鐵倉。私.....あなたと別れようと思ってるんだ」


「え」


「私ね.....実は死んでいるの」


「は.....?」


彼女はそっぽを見ながら.....そう答えた。

口に手を当てて悲しげな感じで涙を流す。

ちょっと待ってくれ意味が分からない。


思いながら彼女を見開いて見る。

心は静かに掌を見せた。

まるで.....氷の様に透き通っている。

僕は驚愕して直ぐに心の手を握った。


「.....私ね.....今から一年前に死んでいるんだ。だけど.....今の今まで成仏が出来ないままこの場所に貴方の前に居るの。何でか分からないんだけどね。でももう.....もう直ぐこの世から成仏できると思う。鐵倉が私を満足させてくれたから。でも.....鐵倉を悲しませたく無い」


「ちょ、ちょっと待って。本当に意味が分からないんだけど.....」


「だよね。ごめんね。だけどこれだけは分かって。もう別れたい」


別れる。

その言葉で僕は初めて彼女に不満を持った。

それは何故かと言えば。

彼女が今の今まで言わなかった事を、だ。

僕は怒ってと言うか気持ちが混乱したまま、もう良い!、と叫んでその場を逃げて車に乗った。


「.....そんな事って.....」


駄目だ。

やけっぱちになってしまう。

僕は車を発進させた。


そのまま複雑な思いでずっと進む。

幼馴染は死んでいる。

その事が.....ずっと頭を過ぎる。

何が起こっているのだ。


「.....心.....」


涙が溢れてきた。

僕は彼女の笑顔が忘れられなかった。

例え言っている事が本当で仮に死んでいるとしても.....彼女は彼女だ。

好きな彼女で間違いは無い。


何をやっているのだ?と思った。

それから直ぐに.....車をUターンさせる。

そして.....水族館に戻る。

夜道を走った。


それから急いで別れた場所に戻る。

だけど戻った場所に.....彼女は居なかった。

僕は.....愕然としつつも直ぐにスマホで電話をする。


「.....心!」


『お掛けになられた電話番号は現在.....』


「く!」


僕は必死に駆け出す。

彼女は.....夜道をきっと歩いて帰っている。

このままなら追い付く筈だ。

思いながら僕は胸を触りつつ心臓の感触を確かめて必死に走る。

車に乗ったら分からなくなりそうだから。


「心.....!」


気が動転してしまって逃げてしまった。

そんな僕に心に会う資格は無いのかも知れないけど。

どうしても彼女に.....もう一度会いたい。

僕は一心不乱に夜道を駆ける。


そして.....心を見つけた。

だけど僕は思いっきり動揺する。

透けているから。

僕はそんな幼馴染に直ぐに手を掛ける。

幼馴染は振り返って見てくる。


「心!」


「て、鐵倉!?」


ハァハァと息を吐きながら心を見つめる。

街頭で完全に透けている。

僕は.....それを歯を食いしばりながら.....見た。

もう時間が無いのだろうか。

思いながら必死に胸の内を吐き出す。


「僕は.....まだ君に伝えなきゃいけない事が有る。成仏する前に.....知ってくれ」


「え?」


僕はやっぱり君が好きだ。

君の事が、だ。

どんな状態でも.....君が好きだ、と僕は.....心を寄せた。

そしてもう時間が無いと思い言葉を発するのを止めて色々省きそれを渡す。

何かと言えば婚約指輪だ。


「.....これ.....」


「.....婚約指輪。渡そうと思ったら.....僕が.....意思が弱かったから.....逃げてしまったから.....!」


心は涙を流して号泣し始めた。

しかし涙は.....下に落ちる事は無い。

乾燥して飛んでいっている。

つまり.....地面は濡れてない。

僕はそれを見開いて見てから心に涙を堪えて顔を向けた。


「私だってごめんね。やっぱり好きなの。鐵倉が.....!」


「有難う。僕も本当に君が.....好きだ」


心は涙を流しながら頷いた。

本当にもう満足。

だからきっと成仏していくんだね。


こんな状態で鐵倉の前に現れたのも.....多分、鐵倉に会う為だよ。

と心は涙を流しつつ告げてきた。

それから.....街頭を見てから俺の手を握ってくる。


「.....じゃあ.....行くね」


「ああ。俺が行くまで.....待っていてくれよ」


「有難う。.....大好きだよ、鐵倉」


すると心は俺にキスをしてきた。

俺は思いっきり目を大きくして.....見ると。

彼女は.....婚約指話ごと光の粒になって消えた。


この話は僕と心だけの秘密となるだろう。

皆んなに話しても信用してもらえないと思うから、だ。

後悔の無い様になっていたら良いな。

思いながら.....俺は光の粒を見つめ.....一筋の涙を流した。



三年前に心が成仏して.....僕は複雑な心境だった。

その中で医学部を卒業して医者になった僕。

これも全部、心のお陰だと思う。

僕は白衣姿で毎日、患者さんの状態を聞きながら観察しながら.....廊下を歩く。

そんな忙しない毎日を過ごしていた。


そんなある日の事だ。

僕の家のポストに手紙が届いていた。

日直が終わって帰って来てからの事だ。


手紙を見る。

その手紙は.....心からだった。

俺は驚愕する。

ナイフを使ってゆっくり開けた。


「.....心.....!」


ガタンとナイフを落としてしまった。

今はそんな事はどうでも良い。

とにかく中身だ。


そこにはこう記されていた。

心からの.....手紙として、だ。

何が記されているかと言えば。


(鐵倉。大学卒業おめでとう。晴れてお医者さんだね。私ね、今、天国で暮らしています。それで.....その事もあって手紙を書いたの。天国にも国や郵便局って有るんだよ。心配無い様な感じで快適に暮らしています。.....それにしても頑張ったね。私、鐵倉がお医者さんになって凄い嬉しい。天国からたまにお手紙を書きます。鐵倉も手紙を書いてほしいな。同封している封筒で.....送れるよ。待っているからね)


「.....」


僕はポタポタと涙を手紙に落とす。

そして天井を見上げた。

あの時。

僕が車でUターンしなかったら僕はきっと後悔しただろう。

医者になれなかったかも知れない。


この手紙で僕は報われた気が.....した。

それから僕は毎日の様に.....手紙を書き記して心に送る。


僕と心だけの.....とても遠い秘密の遠距離恋愛だ。


fin

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