帰還

TARO

帰還(遠い星から)

 あまり優秀とは言えず、仕事にあぶれていた私は、ある星の資源調達の任務に応募して受かった。今どき物理労力など誰もやりたがらないから、当然の結果だった。恋人には愛想をつかされたままだったし、金もないから、逃げるようにしてこの単独ミッションに参加したのだった。

 がたが来ているような大型の貨物用宇宙船に乗り込む。一応、事前に七日ほど座学と申し訳程度の訓練を受けた。実際やることといえば、いくつかのボタンを押すことと、船内日誌をつけることぐらい。宇宙船の操作など勝手にやってくれるから、航海のほとんどはカプセルの中で眠っていればよかった。カプセルに入る前後、行きと帰りで計4回、船内で簡単な確認作業をする。あとは現地で、〈誰でもできる簡単な仕事〉をこなせばよいのだった。

 星に到着する3日前になって私は強制的に目覚めさせられた。充満していたガスが抜き取られ、通常の空気に交換される。この時ショックを受けるが、耐え難いという程ではない。

 慣らしが終わって、着替えをしたら船内作業が始まる。日時と航路の座標を確認した。幸い、というか、当たり前のように計器は誤差なく正しい数値を示していた。あとは着陸して作業に取り掛かる準備をしなければならない。必要とする装備を確認したり、作業マニュアルに目を通して時間をつぶす。

「一日あれば十分だろ、これ…」と私はつぶやいた。

 いざ、星に着陸する際、ちょっとしたハプニングがあった。気の緩みでうっかり半分飲みかけのボトルをろくに栓もしないで放置したまま着陸態勢に入ってしまったのだ。小さなボトルで残した液体も僅かだが、後で掃除しなければならず、大いに気が滅入った。

「こういうところだよなあ」

 着陸すると、早速マニュアル通り行動する、現地には既にいたるところに目印やら案内表示が設置されており、親切この上ない。それを確認しながら運搬車に乗って現場に到着する。巨大な掘削装置が待ち構えていた。

 スイッチを入れるとあとは全て機械がやってくれる。土地を掘削してそこから僅かな希少金属を手に入れる。運搬車がいっぱいになると勝手に宇宙船に帰って積み込む。一連の流れをただ見ていれば良い。

 掘削装置が土地を切り取るのは壮大な眺めだったが、すぐに飽きた。やることが少ないので、ちょっとずつ倉庫が満たされるのをひたすら待たねばならないのだ。運搬車の中にいさえいれば何しようと自由だった。居眠りさえ許されるが、退屈きわまりなかった。

 長い長い時間をかけてようやく作業が終了した。どれだけの時間が経過したか、船内で確認することができるのだが、やめてしまった。作業が終了しなければどのみち帰れないからだ。

「おっとこれを忘れるところだった」

 と、私は最後に土壌改良剤のコンテナを指定の位置に設置した。これで作業は全て終了である。あとは帰還するのみ。


 カプセルが開いて目がさめる。座標を確認する。そして日時を見ると…

「うわ、やべ、デタラメな数字じゃん。1万サーガすぎてるってどういうことよ」

 計器の数字は到着予定の遥か未来を示していた。航行システムに異常があって光速を繰り返したか、それとも、時空の歪みに突入してしまったのか? どうせ私の頭で考えても無駄だった。文明が果たして存続しているのだろうか? かなり近づいているが、ナビはもちろん、警告も受信しない。滅びてしまったのだろうか? 私は身震いした。サバイバルの手段が全く思いつかない。他の星の生態系を目指す? 冗談じゃない。一般知識では通用しないし、一から学ぶには時間がかかりすぎる。文明が滅んだとしても、この星に戻るしか道はなさそうだ。せめて、大気ぐらいはまともであってくれたら、と思って、とりあえず偵察カメラを飛ばすことにした。これぐらいの操作は出来る。

 しばらくして送られてきた映像を確認して、こりゃだめだ、と思った。そこには文明が存在していたが、支配しているのは全く別の生物だった。しかも、進歩の度合いが中途半端で、コミュニケーションが取れそうにもない。こちらの武装もたかが知れているから、制圧の見込みもない。言語を理解したとして、貨物の取引を持ちかけても無駄だろう。価値がわからぬ者にとっては無用の長物だった。

 私は航行手段をマニュアルに切り替えて、速度と座標と日時を入力した。あとはカプセルに入って、また目覚めれば、同じ座標で1000サーガ年後になっているはずだった。やり直し、というわけだ。期待通り文明が進んでいれば良いが、滅んでいるかもしれなかった。

 それより最大の懸念は、今、地表を支配している生き物と私が仲良くできるかどうかだった。だって、それは、私が帰り際にセットした土壌改良剤、すなわちバイオ生物だったからだ。


『緊急特集! 宇宙人は本当にいた!

各地で撮られたUFO映像! 目撃者の驚愕の証言!!

今宵皆さんは驚きの光景を目の当たりにするかもしれない』

〜音楽

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帰還 TARO @taro2791

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