待ち合わせ1分前
ユラカモマ
待ち合わせ1分前
6時30分、小さな小袋と茶色の肩掛けカバンを持ちスニーカーを履いてマンションの部屋を出る。部屋のカギを2つかけエントランスのオートロックの自動扉までくぐってから
(今日はヒールを履くつもりだったのに!)
待ち合わせまであと30分、待ち合わせの場所の駅前のレストランまでは自転車で15分で行けるからまだ十分時間はある。遥香は外に向けていた爪先を返しオートロックを解錠。部屋までの廊下を早足で歩き部屋のカギ2つも解錠し、スニーカーを薄桃色の3センチヒールに履き替えた。時間はまだ6時33分、まだ待ち合わせには十分時間がある。遥香はほっとして茶色のカバンを持ち玄関を出た。ヒールに履き替えたのでスニーカーほど速くは歩けないがそれでも一生懸命歩いてエントランスを抜け外の駐輪所へ向かう。2列に並んだ自転車の中から自分の自転車を見つけ上着のポケットに手を入れて気がついた。
(自転車のカギいつもの上着のポケットだ!)
遥香は慌ててマンションへ戻る。オートロックを開け部屋のカギを開けせっかく履いたヒールも脱いでベッドの上に放り出されていた紺色のジャケットのポケットから自転車のカギを引っ張り出す。ヒールを履き直しながら時計を見ると時間は6時38分。まだ時間的余裕はある。しかし精神的余裕はなくなってきた。遥香は今度こそとカギを閉めエントランスを抜け駐輪所で自転車のカギを回しマンション前の道路まで自転車を押していく。そしていよいよ乗ろうとしたとき遥香は気づく。
(肝心の誕プレがないっ!!)
昨日駅前の店で買ってきた黒のキーケース。カバンに入れてせっかくの包装がぐちゃぐちゃになったら嫌だと思い別の小袋で持っていくつもりだったが今遥香は茶色の肩掛けしか持っていない。
(えっ?! 私持って出...戻ったとき忘れてきた?! 取りに帰...でも時間が...。)
時計を見ると時間は6時41分、このまま行けば確実に間に合う。しかし取りに帰れば怪しい時間だろう。遥香は道路の手前で3秒停止してから意を決して自転車を道路から一番近い自転車置き場に突っ込み、マンションへ駆け込んだ。ガチャガチャと部屋のカギを開け案の定下駄箱の上にあった小袋を引っ掴みドアを勢いよく閉める。エントランスの自動扉を肩で擦りながら通り駐輪所で自転車を引き出すと遥香はすぐさま自転車に跨がって駅の方へと飛び出した。
6時57分、遥香はなんとか待ち合わせのレストランへたどり着く。しかしそのレストランは商店街の中にあり店の駐輪スペースというのは見たところ無さそうだ。
(え? 待って待って、この近くに駐輪所、駐輪所...さっき通ったとこに自転車が5、6台置いてあるとこあったけど置きに行って間に合う?! でも自転車持って入るわけにはいかないし!)
遥香はせっかく来た店の前からまたもやUターンして自転車を停めに行く。遥香の心臓は期待とは別の理由で痛いほど脈を打っている。
(やばい、やばい、やばい、やばい!)
前籠から荷物を取り自転車からカギを引き抜きヒールの爪先でロックをかけ走ろうと振り向いた。その
「遥香! 今来たとこ?」
「! そうだよ。」
同じく自転車を押した待ち合わせ相手である薫が現れた。薫は落ち着いた様子で遥香の隣に自転車を停め、遥香を上から下まで見てからこう言った。
「遥香、今日めっちゃおしゃれじゃん。」
「...! ありがとう!」
その言葉は遥香がそれまで感じていた不安や焦りをすべて吹き飛ばした。ただ面と向かって誉められたのは気恥ずかしく遥香の視線は自分の下、手首の方へと向かう。胡桃色の袖からのぞく腕時計は6時59分、待ち合わせの1分前を示していた。
待ち合わせ1分前 ユラカモマ @yura8812
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