番外編
「英司くん」
「おう、待ったか? 汐里」
駅中にあるファーストフード店。
そこで二人は落ち合った。
まだ初々しい仲の二人は
中学三年のクリスマスから付き合い始め、あれから半年が過ぎた。
お互いに名前で呼び合うようになるまで一週間が掛かった。
半年たった今でも、たまに苗字で呼んでしまうこともあるが、傍から見ても恋人らしくなってきたところだ。
「そういや、悠季から聞いたけど井塚と直木の家に泊まりに行ったんだって?」
「うん。先週の日曜日ね」
「なんか俺、悠季に残念そうな顔されたんだけど……」
「え、ああ……えーっと……」
汐里はそのときのことを思い出して、苦笑いをした。
莉奈の家に遊びに行ったとき、丁度テレビで結婚特集をやっていて、毎度のことながら話の矛先が汐里を英司に向いたのだ。
「で、二人は最近どうなのよ?」
「な、なに莉奈ちゃん。急に……」
「二人が付き合うようになってからもう半年は経つわよね。なんかつい最近のように感じられるけど」
「そ、そうかなぁ」
「二人って結婚したらどうなるんだろーね」
莉奈がお菓子を口にしながら呟いた。
結婚。まだまだ子供な自分たちには遠い話。
でも、いつかは現実となる話だ。
それが、今隣にいる相手なら。
どれほど幸せなことだろう。
「結婚、かぁ」
「青山って父親になったら子煩悩になるだろうね」
「わかるかも。もし女の子が生まれたら、絶対に嫁にやらんとか言いそうなキャラだよね」
「そうそう。男の子が生まれたら、絶対にキャッチボールとかしちゃうベターなお父さんになるわよ」
「想像できるかも」
「そんで、いつまでたっても嫁に甘いのよ」
「この二人に倦怠期とかなさそうよね」
当人を放って好き放題言う二人に、汐里は口を挟める隙がなかった。
年頃の女子なら、多少は夢を見るものだろう。
好きな人との結婚生活。
何歳までに結婚したいとか、子供は何人欲しいとか。将来はどんな家に住みたいとか。
彼は。英司はどう思うだろう。
汐里は冷たい紅茶を一口飲んで、そっと思い浮かべてみる。
例えば、子供は何人。
理想は男の子と女の子。兄と妹がいい。
四人家族で、一軒家に住めたら素敵。
そこで、子供たちが大きくなっていくのを二人で見守っていく。
暖かな、家族。
「ねぇ、舞。汐里、自分だけの世界に入ってるわよ」
「本当だ。顔緩んでるわね」
そんなことがあった休日の出来事。
掻い摘んで、結婚したらどうなんだろうねって話をしたと英司に伝えると、彼は腕を組んで小さく「うーん」と唸った。
「結婚かぁ」
眉間に皺を寄せて悩む彼に、汐里は少しだけ不安が過った。
まだまだ遠いみたいを夢にてるのは自分だけだったのだろうか。
気が早いと、そう思われた?
そう思ったのも、ほんの一瞬。
「やっぱ子供は二人かな」
「え?」
「俺の理想は男と女かな。で、いつか一戸建てとか買いたいんだよな。まぁその為には俺が頑張らないといけないんだけど」
そう嬉しそうに話す英司の優しい表情に、汐里もさっきまでの不安が消え去った。
どこまで似た者同士なんだろう。
告白のときだってそう。二人して同じ日に告白しようとしたり。
だから、きっと好きなんだ。
汐里は確信する。
「私もね、同じこと思ったよ」
「マジ?」
「うん。いつか英司くんと結婚して、子供が生まれて、幸せな家庭を築けたらいいなって……」
「そっか、嬉しいな」
二人は顔を見合わせ、クスクスと笑った。
高校に入ってからは会える時間も経てしまったが、こうやって互いに顔を見ると安心できる。
声を聞くと落ち着く。
手を繋ぐと、ドキドキする。
一生変わらないんじゃないかって、そう思ってしまう気持ち。
「あのさ、汐里」
「うん?」
「汐里は……その、俺でいいの?」
「え?」
「いや、まだずっと先の話だけどさ……いつか、この先も一緒にいられたらの話なんだけど……」
顔が真っ赤になっていく英司に、汐里も頬が熱くなっていくのを感じる。
夢じゃ、終わらない。
この二人なら、きっと夢で終わらない。そんな気がする。
「俺と、結婚してくれる?」
「……うん」
「本気?」
「もちろん」
「そっか、良かった。これでイヤだって言われたら俺泣くところだったよ」
「ふふ。そんなこと言わないよ」
二人は手を繋いで店を出た。
いつか、いつか。
この二人の間を、小さな可愛い手が繋いでくれる未来を夢見て。
Merry Christmas~聖夜に想いを込めて~ のがみさんちのはろさん @nogamin150
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