◆◇12月25日のメリークリスマス◇◆
12月25日、水曜日。
今日はクリスマス。終業式を終え、皆はまた後でと声を掛け合って教室を出ていった。
「汐里、帰ろう」
そう言って彼女に声を掛けたのは、友人の莉奈。その後ろには舞。汐里は「うん」と頷いて、首にマフラーを巻いて二人の後ろに付いて行くように教室を出ていった。
この後、それぞれ家に帰ってから駅の近くにあるカラオケ店に集まることになっている。12月の頭から決まっていた、クリスマス会があるからだ。これにはクラス全員が参加することになっていて、担任の先生も後から顔を出してくれると言っていた。
「汐里、心の準備は出来てる?」
「う、うん……」
「本当に大丈夫? 顔、強張ってるよ?」
舞に頬を突かれ、汐里は深く息を吐き出した。この後、クリスマス会を終えた後に汐里はずっと想いを寄せていた相手、青山英司に告白するつもりでいる。
彼用のプレゼントも前々から準備していた。あとは、どうにか彼を公園に呼び出して告白するだけなのだが。
「……そういえば。莉奈ちゃん、何か用なの?」
「何が?」
「何がって、クリスマス会の前に公園に来てって」
「ああ。ちゃんと忘れずに来なさいよ。じゃないと一生後悔させるわよ」
後悔するんじゃなくて、後悔させられるんですか。汐里は心の中でそう思ったが言わないでおいた。莉奈相手に口で勝てないことはよく分かっている。
「じゃあ、また後でね」
「ええ、またね」
「遅れずに来るのよ」
そう言って、汐里は二人と別れて家路に着いた。
その後ろ姿を見送り、二人は顔を見合わせてニヤリと笑う。
「さて、と」
「行きますか」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「英司、帰るぞ」
「分かってるよ」
他のみんなが教室を出ていった頃、英司は友人の悠季と共に教室を出た。そして玄関のところで靴を履きかえていた透哉と合流し、三人で帰り道を歩く。
「はぁ……」
「これで何度目の溜め息なんだよ」
「仕方ないだろ……」
透哉に呆れた口調で言われ、吐き出すように呟く。
今日はクリスマス当日。彼もまた、ずっと好きだった相川汐里に告白しようとしていた。クリスマス会が終わった後、彼女を近くの公園に呼び出して告白をしようと考えているのだが、何と言って誘い出せばいいのかがいまだに思いつかない。
「……俺、今日の占い最下位だったんだよ」
「英司、占いなんて信じてるのか?」
「いつもは気にしないんだけど……なんか気になって」
「女々しいぞ」
「うっせーよ!」
何となく見てしまったニュースの占いコーナー。今日ほど見なければよかったと後悔した日はないだろう。いつもなら残念だったと思うだけで、直ぐに忘れることが出来たはず。だが、今日だけはそうもいかなかった。
大事な告白の日。その行く末を占うと言っても過言じゃない、今日のお天気占いだった。それが結果は最下位。一応ラッキーカラーが赤だったので、赤いシャツを着ていこうと考えてはいる。
「……ここで逃げたら男が廃るぞ」
「わかってるよ! ここが正念場だもんな」
英司は透哉と悠季とハイタッチをして気合を入れた。
逃げ出すなんて考えてない。ここで結果を出さなければ、今までの頑張りが無駄になる。何のために友人を巻き込んで遊園地に行ったり、プレゼントを買いに行くのに付き合わせたりしたんだ。
英司はゆっくりと深呼吸をした。
とりあえずは、莉奈との約束。帰ってから公園に行かなくては。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
それから数十分後。
もう周りはすっかり暗くなり、街のイルミネーションがキラキラと輝いている。駅前ではクラスメイトが集まり、全員が揃うのを待っているが時間になっても来ない者が数人。
「あれ? 人数足りなくないか?」
「ああ、青山くんたちは遅れるって直木さんが言ってたよ」
「そうか。じゃあ、先に入ってるか」
そんなやり取りがされていた、その頃。
汐里と英司は公園で鉢合わせていた。ここに呼び出した張本人はいない。二人はイルミネーションの前で莉奈のことを待ってみた。
だが、いくら待っても彼女は来ない。汐里は連絡を取ってみても留守電に繋がってしまう。
「……まさか」
ここで汐里は気付いた。遊園地のときもそうだった。二人にだけ内緒で、裏で計画していた。今回もそういうことだ。クリスマス会が終わった後に誘い出す方法を二人ともが悩んでいた。だからこその、お膳立て。
汐里はゆっくり、静かに深呼吸して、英司の方へと向いた。
「あ、青山くん……」
「え?」
「その……私、青山くんに話したいことがあって」
汐里から感じられる緊張感に、英司も気付く。
莉奈が何故ここに自分を呼んだのか。そして、彼女が何でここに居るのか。自惚れでなければ、きっと気持ちは同じはず。だったら、先に言われるわけにはいかない。男としてのプライドだ。
「待って、待って相川!」
「え!?」
「その、俺も相川に言いたいことがあるんだ!」
真剣な眼差し。汐里は家で二人きりになったときのことを思い出す。
きっと、これはあの時の続きだ。汐里は、ギュッと胸の前で両手を握りしめる。
「……その、俺……」
英司は震える手を握りしめ、息を吐く。伝えたい言葉はただ一つ。
心臓が痛い。それでも、言わないと。今日、絶対に伝えようと決めていた言葉を。
素直な、この想いを。
「俺、一年のときから相川が好きなんだ」
声が震える。それでも、伝えたい。
ずっと想っていたこと。
「ずっと、相川のこと見てた。同じクラスになれて、また席も隣になれて、本屋で会えたときも本当に嬉しかったし、好きな小説が同じだって知ったとき叫びたいくらい嬉しかった。遊園地も、一緒に帰ったときも、本気で嬉しかった!」
「……青山くん」
「だから、相川さえ良ければ……俺と、付き合ってほしい」
英司は震える声で言いたいことを言いきった。あとは汐里の答えを待つだけ。
「……わ、私……」
今度は汐里の番。英司は想いを伝えてくれた。
今度は自分が素直にならなくちゃ。あとで、後悔しないために。
「私、も。私も、青山くんのこと、好き、です。ずっと、一年のときから、好きでした。本屋で会えて、ストラップ貰えたときも本気で嬉しかったし、帰りも送ってくれたの嬉しかった。い、今も泣きそうなくらい嬉しい……!」
そう言う汐里の声はもう既に涙声で、零れる涙を隠すように両手で顔を覆う。
もう、お互い言葉にならない。英司は、そっと汐里の肩を抱き、頭を撫でてあげた。
「ヤベー、嬉しい。メッチャ嬉しい……」
「私、も……」
汐里は英司の背中に手を廻した。
良かった。告白をして、本当に良かった。二人は顔を見合し、互いの為に準備していたプレゼントを渡した。
「誕生日、おめでとう。相川」
「知ってたの?」
「前に話してるの聞こえたんだ」
「そっか……嬉しい、ありがとう」
互いのプレゼントを大切に持ち、二人は手を繋いで公園を出た。
あとでお互いの友人に感謝しないとね。初詣、一緒に行こう。今度から一緒に登下校しようか。そんなことを話しながら公園を抜け、みんなの待つカラオケ店へと向かった。
その後ろにて。
「はぁー、やっとくっ付いたか」
「莉奈……覗きなんて悪趣味だぞ」
「覗きじゃないわ、見守ってただけよ」
「……」
「それじゃあ、私たちも行こうか?」
「そうだね」
「佳山君、私たちも手繋ぐ?」
「ええ!?」
メリークリスマス。
聖なる夜に、幸せな時間を。
「あ、あれ!? なんでみんなが後ろから付いてきてるの?」
「お前ら……覗いてたな?」
「許せ、不可抗力だ」
「おめでとう、汐里。青山に何かされたらすぐ言うのよ?」
「そうよ。汐里泣かせたら許さないんだから」
「……頑張れよ、英司」
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