何のために私は生きる?
オリオン
何のために私は生きる?
辛い…。
「田中先生、この資料まだですか?」
「す、すみません。すぐ終わらせます…」
「お願いします、私はお先に失礼します」
やめたい…。
「お、お疲れ様です」
今日も残業かぁ…。やっぱり教師って辛いんだなぁ。
私、田中けいこは都会の小学校で教師をしている。田舎から出てきた新参者で、都会の空気にも、教師という仕事にも未だになれていない…。毎日やめたいと思いつつも、子供たちの笑顔に救われてなんとかこの仕事を続けている。でも…
「田中先生? 資料できました? この資料もお願いしていいですかね?」
…これが普通なのだろうか。私は自分で言うのもなんだが、仕事ができる方だと思う。この先生はよく私に仕事を任せてくるが、どの先生よりも早く帰る。こんなこと言いたくないが、仕事を押し付けられているのではないか…と。
「えっと、昨日の資料どうぞ。その資料は私がやらなければいけないものですか?」
「そうです。まぁ無理ならやりますけど? 」
「…そうですか。やっておきます」
「よろしくお願いします」
あぁ…、今日も残業かな。辛い…。こんな日々、いつまで続くんだ…。
ーー残業を繰り返す日々が続いたある日。
\バタン/
「田中先生! 田中先生大丈夫? 先生!」
私は体育の授業をしている中、倒れてしまった。睡眠時間が極端に減っていたため疲労が溜まり耐えられなくなっていたようだ。倒れたときに少し怪我をしたが、頭などに異常はなく、数日入院することとなった。
あぁ、子供たちの前で倒れるなんて…。私がしたかった小学校の先生というのはこんな仕事だったのだろうか。どうして…、どうしてこんなことに。
\ガラガラガラ/
「けいちゃん! 大丈夫なの!?」
「お母さん!?」
「倒れたって聞いて来たのよ! よかったわぁ、元気そうね…」
私の地元は田舎の田舎、小さな島だ。都会に出てくるのは大変なはずなのに、母はすぐ駆けつけてくれたみたいだ…。
「あれ、けいちゃん!? どこか痛い? 何で泣いてるの?」
お母さんを見た瞬間、涙が溢れて止まらなくなっていた。それからいっぱい泣いた。
たくさん泣いたそのあと、お母さんに小学校での辛かった日々の話をした。
「そう、そんなに大変だったのね…。気づいてあげられなくてごめんなさい」
「心配させたくなくて、私が相談しなかっただけ。頑張れなくてごめんね」
「何言ってるの! 辛いときは辛いって言いなさい! あなたがやりたいように生きればいいから。お母さんは応援してるけど、無理してほしいわけじゃないの」
「ありがとう、お母さん」
なんだか、心が軽くなった。
「そう、おじいちゃんがね。とっても心配してて、足が悪くなってきたから島を出るのは危ないからって止めて来たんだけど。電話してあげてくれる?」
おじいちゃん…。私が都会に出るとき1番心配しててくれて、1番応援してくれた人。
\プルルル/
「もしもし! けいこか! 大丈夫なのか!!」
「おじいちゃん、私は大丈夫。心配してくれてありがとう」
「けいこ、泣いてるのか? 無理するんじゃない。辛いときは逃げたっていいんだぞ」
…逃げたっていい。その言葉がすっと胸に入ってきた。
「おじいちゃん…、私逃げてもいいのかな?」
「あぁ、逃げるのだって勇気がいる。けいこが決めたことならなんだっていいんだ。けいこの居場所はこの島にだってあること忘れるなよ」
その後もおじいちゃんは私を励ます言葉をくれ、たわいもない会話も私の心を和ませてくれた。電話の後、母は大丈夫そうならと言って急いで持ってきてくれた島のものを置いて、明日の仕事のために帰っていった。嵐のような母だ…。1人になった私は、仕事のことをたくさん考えて、子供たちのために働きたいと思った私の気持ちを思い出した。それから学校にやめさせて頂けないかと電話をした。新しい先生を探してもらえることになり、入院が終わったら新しい先生が見つかるまでの間だけ働くこととなった。すぐに、定年したベテランの先生が来てくれることとなり、私は島に戻ることとなった。
島に戻ると皆最初は驚いたが、歓迎してくれた。そして、私の子供たちのために働きたい気持ちが変わらなければ島の学校で働いてほしいと言われた。1人の先生が妊娠されて産休のために先生を探していたらしい。私はすぐにやらせてほしいと言った。数日後、学校に行くと、思っていた通り少人数の子供たちが待っていた。
「田中けいこです。今日からよろしくね」
子供たちは元気よく“よろしくお願いします”と言ってくれた。
心和やかに生きられるこの島で、私は1から先生を始める。子供たちのため、そして自分のために働こうと思った。
何のために私は生きる? オリオン @orion-ringo
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