口裂け女はUターンして全力ダッシュした!

黒銘菓(クロメイカ/kuromeika)

口裂け女は逃げている!

 「ハッ!ハッ!ハッ!」

 口裂け女は逃げていた。

 逢魔が時。マスクを着け、独りになった人に声を掛け、『私、キレイ?』と訊ねる。

 『綺麗』と答えればマスクを取って襲い掛かり、『綺麗じゃない。』と答えれば罰として口を鎌で引き裂く。

 逃げれば自慢の快足で追いかけ、切り裂く。


 それが口裂け女ワタシ

 なのに、その私は今、逃げている!

 『ポマード』と三回唱えられた訳じゃない。

 べっこう飴を追いかけている訳でも無い。

 ただ純粋に、

 「待てや口裂け女ァァァァァァ!」

 セーラー服に身を包んだ少女。しかし、その顔は明らかに人の形相で無い。

 「助けて、助けて!」

 懸命に走りながら助けを求める。襲い掛かる側ワタシが。

 「『綺麗じゃない』って言ったんだから襲って来てよ!口を鎌で斬ってみてよ!全力で逃げるから追いかけて襲い掛かって来イよぉぉォぉォォォぉ!」

 ワタシ!あんなの襲えない!というか、ワタシが今、襲われてる!




 遡る事10分前。



 逢魔が時、ワタシはマスクをして人間を探していた。

 勿論、その目的はワタシの事を訊ねるため。

 切り裂く為だ。

 そうして出会ったのは、人通りの少ない廃墟地帯の道を歩いていたセーラー服の女子高生。


 「ねぇ、良いかしら?」

 後ろから声を掛ける。

 「はい?」

 一瞬動きを止め、振り返る。

 「ワタシって、綺麗かしら?」

 「はい?」

 「ワタシって……綺麗?」

 サッ

 辺り一帯の空気が凍り付く。

 私が出たんだ。それはいつもの事……あれ?何で私、震えてるの?

 「………ヵ?」

 「え?」

 女の子が何かを口にした。

 「…………ナノヵ?」

 「今、何て?」

 空気が急速に凍り付く中、

 「オマエガ“クチサケオンナ”カァァァァァァァ⁉⁉⁉⁉⁉⁉⁉⁉?⁉?⁉!!!」

 鬼の形相の少女が迫って来た。

 本能的に危険を感じてUターン、全速力で逃げて…………








 現在。

 「あと12m、11m、10.5、10.32、9.8!」

 全力で逃げる口裂け女ワタシを10m圏内に収めた少女が縮地走法で迫って来る。

 縮地走法って、縮地走法って、誰かを追いかけて襲う時に使うモノ⁉というか、JKが普段使いするようなモノ⁉

 因みに、私の足は内容にも依るけど、ボルトと高速自動車国道を走る乗用車を軽く視界から消して走れるくらいには速い。

 そんなのを10分追いかけて、しかも距離詰めて来るって何⁉足にジェットでも仕込んでるのかい⁉

 「7m、6.4m、5.1m………3.8m

 アト1.9mデ、シャテイケンナイニハイルゾ!」

 しかも、射程距離が1.9mと地味に広い!

 走りながら2m弱を狙える?

 如何する?後ろの呼吸音からすると日本横断する迄スタミナ切れは期待出来ない。

 コーナーで差を付ける?

 三角飛びとか壁を走るとか出来そうな相手にそれやる?コーナーで決着漬けられる!

 私の持っている鎌は死神の鎌みたいな長物じゃない。


 遠距離戦は不利。長期戦も不利。

 ならば…………………

 「都市伝説の怪異ワタシを舐めるなよ!

 喰らえJK!半径1m。鎌の斬撃結界!『鎌獄結界れんごくけっかい』だ!」

 意を決して左足を強く踏み込み、そこを軸にして体を回転しつつ、懐から鎌を8本取り出して指に挟み、高速で振り回す!

 不意を突かれ、切り裂かれて死ねぃ!


 「気に入った。」

 後ろから声が聞こえた。

 目の前、ワタシを今まで追いかけていた少女の影はそこには無かった。

 私が切り裂いたのは凍り付いた空気だけ。

 「私とアナタの間合い、持久力の差を見極め、近距離で片を付けようと思ったその一瞬、鎌を振るった瞬間、冷静だった。

 もし私が、あなたの後ろに居たら、、もしかしたら手傷くらいは負っていたかもしれない。」

 後ろを振り返るのが怖い。

 鎌を振るう寸前、足音は後ろだった。

 さっき迄奴は後ろに居たんだ!

 今、奴はワタシの正面に居なければならない!


「『何時アナタを追い越したか?』そんな疑問は問題じゃぁない。

大事なのは、『アナタは私を知覚出来なかった。』そこに有る。」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 後ろに、ヤツはワタシの後ろに居る!

 「『鎌獄結界れんごくけっかい』!」

 再度左足を軸に後ろに居る奴に鎌の猛攻を仕掛け………

 ガシィ!

 鎌を8つとも止められた。

 「この手の技の弱点は、リーチが短い事、そして、得物を封じてしまえば大した脅威にならないという事だ!

 何より、この八坂八華、一度見切った技を二度目で喰らうような真似はせん。」

 正面に鬼の相貌が迫る。

 「この……………舐めるなぁァぁぁ!」

 鎌を手放して襲い掛かる!









 「無駄。」

 私の手は何も触れず………

 ズバァン!

 重い踏み込み、腰の入った良いアッパーカットが顎に直撃した。

 「グボァア………」

 多分、5mくらいは吹っ飛んでいたのかな?

 この日、都市伝説がJKに敗れた。











 「よーしっ!口裂け女、倒せたぁ!」

 追いかけられ…追いかけていた女子高生こと八坂八華は地面に沈んだ都市伝説を捨て置き、自由の女神の様に拳を天に突き上げていた。

 「でもなぁ、足は速いし鎌使いは中々なんだけど、全体的に甘いなぁ。

 殺造やるぞうおじさんが倒したメリーさんには程遠いなぁ。」

 このJK、実は巷の口裂け女の噂を聞きつけ、『敢えて』自分を餌にして口裂け女を釣っていた。

 『の修行』という謎の理由の為だけに!

 「まだまだ先は長いなぁ。

 今度は誰を倒そうか?……………いっそ異世界に行けたら、ドラゴンとか魔法使いとかと殴り合えないかなぁ?」




 そう、彼女は未だ知らない。

 この言葉が現実となる未来が




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 拙作、『メリーさんの断末魔』と同系統…に見せかけた『異世界バーサーカーガール ~JKヒロインの異世界暴拳譚~』の序章……に見せかけたその両方でした。

 何を言っているか解らない。という方へ。

 拙作を読んでみて下さい!

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口裂け女はUターンして全力ダッシュした! 黒銘菓(クロメイカ/kuromeika) @kuromeika

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