お願い、優た〜ん♡

天城優輝(あまじょう ゆうき)は翻弄(ほんろう)される★

１　妹（いもうと）は小悪魔（ぷちでびる）のようにお強請（ねだ）りする

「お願（ねが）い、優（ゆう）た〜ん♡」

　ビクッ！　妹（いもうと）天城辰子（あまじょう たつこ）の甘（あま）ったるい声（こえ）に俺（おれ）は身体（からだ）を硬直（こうちょく）させる。

　たかられる。瞬時（しゅんじ）に思（おも）った。

「優（ゆう）たんにお薦（すす）めの本（ほん）があるの♡　聞（き）きたい？」

　聞（き）きたくない！　羆（ヒグマ）かなんか現（あらわ）れて、このお強請（ねだ）り妹（いもうと）を食（た）べちゃってくれねえかな？

(この希望（きぼう）は遠（とお）い将来（しょうらい）叶（かな）えられることとなる。妹（いもうと）は旅行先（りょこうさき）の北海道（ほっかいどう）にて羆（ヒグマ）に食（た）べられるという非業（ひごう）の死（し）を遂（と）げるのであった。詳（くわ）しく知（し）りたい向（む）きは『神（かみ）さま、お願（ねが）い』をお読（よ）み頂（いただ）きたい。グロ注意（ちゅうい）⚠　気分（きぶん）が悪（わる）くなるかもしれない。苦手（にがて）な方（かた）は見（み）ないで下（くだ）さい)

「今月（こんげつ）はピンチでな」

「TSUTANYA（ツタニャ）で面白（おもしろ）そうな本（ほん）見（み）つけたの♪　『萌（も）え萌（も）え有毒生物（ゆうどくせいぶつ）読本（どくほん）』と『萌（も）え萌（も）え有毒植物（ゆうどくしょくぶつ）読本（どくほん）』っていう二冊（にさつ）ね」

「天地（てんち）がひっくり返（かえ）ろうと決（けっ）して買（か）わんぞ！　だいたいなんだ、その毒々（どくどく）しいタイトルは？」

「え〜、お兄（にい）ちゃんの好（す）きそおな萌（も）え萌（も）えイラスト満載（まんさい）なんだよ？」

「お前（まえ）の趣味（しゅみ）全開（ぜんかい）の本（ほん）じゃないか！」

「そんなことない！　別（べつ）に『萌（も）え』に興味（きょうみ）ないもん！」

「そっちじゃなくて『毒（どく）』の方（ほう）！」

「え〜、毒（どく）面白（おもしろ）いじゃ〜ん！　お兄（にい）ちゃんも興味（きょうみ）持（も）ちなよ」

２　妹（いもうと）は淫魔（サキュバス）の如（ごと）く誘惑（ゆうわく）する

「なんで婚約者（こんやくしゃ）に買（か）って貰（もら）わなかったんだ」

「だって婚約（こんやく）して僅（わず）か13日（にち）で金田（かねだ）グループが倒産（とうさん）して、国外逃亡（こくがいとうぼう）するなんて思（おも）わなかったんだもん」

　まあ確（たし）かに金田（かねだ）グループがこんな短期間（たんきかん）で潰（つぶ）れるとは予測不能（よそくふのう）だった。

「ねえねえ、買（か）って買（か）って〜」

「ええい、くどいぞ！　男（おとこ）が一度（いちど）『買（か）わない』と言（い）ったのだ。たとえ九天（きゅうてん）墜（お）つるとも決（けっ）して買（か）いはしない！」

「むぅ。そこまで言（い）うんなら逆（ぎゃく）に絶対（ぜったい）買（か）わせてみせるよ」

　妹（いもうと）の目（め）がキュピーンと光（ひか）る✴

　まずい。変（へん）なスイッチ入（はい）ったかも。

「ふっふっふー♪　ゆ〜う〜たんっ↗　買（か）ってくれたら私（わたし）を好（す）きにして良（い）いよ？」

　などと宣（のたま）いつつ制服（せいふく）のスカートをスルスルとたくし上（あ）げる。

「ちょっ莫迦（ばか）、お前（まえ）💦」

　妹（いもうと）の太（ふと）ももが段々（だんだん）と露（あら）わになり……。

「パッ♡」

「あっ！」

　あと少（すこ）しというところで手（て）が離（はな）されスカートの向（む）こうへと隠（かく）れてしまう。

「今日（きょう）は暑（あつ）いね」

とブレザーを脱（ぬ）ぎカッターシャツのボタンを外（はず）し始（はじ）める。

　色仕掛（いろじか）けで迫（せま）るつもりか。だが生憎（あいにく）妹（いもうと）に発情（はつじょう）などしない。

　しかし俺（おれ）は不治（ふじ）の病（やまい）に侵（おか）されていた。その病（やまい）は、お医者（いしゃ）さまでも草津（くさつ）の湯（ゆ）でも完治（かんち）することが出来（でき）ず、治（なお）せる薬（くすり）を開発（かいはつ）出来（でき）たらノーベル賞（しょう）間違（まちが）いなしと言（い）われている。その病（やまい）とは……。

　何（なに）を隠（かく）そう。俺（おれ）はロリコンなのだ。

　容姿端麗（ようしたんれい）、成績優秀（せいせきゆうしゅう）、文武両道（ぶんぶりょうどう）、博覧強記（はくらんきょうき）に明朗会計（めいろうかいけい）、いや違（ちが）った。明朗快活（めいろうかいかつ）。

　女子（じょし）からは須（すべか）らく求愛（きゅうあい）され、教師（きょうし）からは絶大（ぜつだい）な信頼（しんらい）を受（う）け、男子（だんし）からは羨望（せんぼう）を持（も）たれている(読者（どくしゃ）には確（たし）かめようがないから盛大（せいだい）に盛（も）る)。

　そんな完璧超人始祖（パーフェクトオリジン）の俺（おれ）の玉（たま）に瑕（きず）がこの病（やまい）なのである。

　故（ゆえ）に小学生（しょうがくせい）と選（えら）ぶところのない、ちんちくりんな妹（いもうと）に逆（ぎゃく）に反応（はんのう）してしまう。なんてこった！

　これが妹（いもうと）にバレれば俺（おれ）は残（のこ）りの人生（じんせい）を『妹（いもうと）の奴隷（どれい）』として過（す）ごす羽目（はめ）になる。

　なので断固（だんこ）として抵抗（ていこう）を試（こころ）みる。

「ふっ、妹（いもうと）よ。俺（おれ）を色仕掛（いろじか）けで落（お）とそうというつもりだろうが、そのつるペタちんちくりんな身体（からだ）からは、一片（いっぺん）の色気（いろけ）も感（かん）じぬわ。出直（でなお）して参（まい）れっ！」

「ふえっ？」

　カッターシャツのボタンを外（はず）す妹（いもうと）の手（て）が止（と）まり、俺（おれ）を見（み）つめる瞳（ひとみ）にはみるみる涙（なみだ）が溜（た）まって溢（あふ）れ出（だ）し……。

「ふえ〜ん。お母（かあ）さーん。お兄（にい）ちゃんが私（わたし）のこと、ちっぱいのぺちゃぱいのまな板（いた）の哀（あわ）れ乳（ちち）って言（い）った〜っ」

　泣（な）きながら部屋（へや）を出（で）ていこうとする妹（いもうと）。

　しまった。母（かあ）さんは怒（おこ）らせると鬼（おに）より怖（こわ）い山（やま）の神（かみ）。仕方（しかた）あるまい。

「待（ま）て辰子（たつこ）。その毒々読本（どくどくどくほん）な、一冊（いっさつ）買（か）おう。いや、この兄（あに）も毒（どく）について猛烈（もうれつ）に学（まな）びたくなったのだ」

　この一言（ひとこと）に妹（いもうと）はピューンとＵターン↩

「ホント？　お兄（にい）ちゃんも誰（だれ）か毒殺（どくさつ）したくなったの？」

　いや、なるものか。っていうか、お前（まえ）は誰（だれ）かを毒殺（どくさつ）するつもりなのか？

「今（いま）、物騒（ぶっそう）な文言（もんごん）が聞（き）こえてきたのだが？」

「気（き）のせいだよ♡　『萌（も）え萌（も）え生物（せいぶつ）』と『萌（も）え萌（も）え植物（しょくぶつ）』、どっちが良（い）い？」

「ちょっとその前（まえ）に。今月（こんげつ）はピンチなんだ。だから来月（らいげつ）まで待（ま）ってくれないか。来月（らいげつ）は必（かなら）ず買（か）ってやるから、な？」

「むうぅ〜っ」

　フグのようにほおを膨（ふくら）らませ不機嫌（ふきげん）を露（あら）わにする妹（いもうと）🐡　しかし少（すこ）しでも先延（さきの）ばししておかないと。

　と、ここで。

「優輝（ゆうき）〜っ！　電球（でんきゅう）付（つ）け替（か）えてくれない〜？」

の声（こえ）が聞（き）こえてきた。母（かあ）さんだ。難（なん）を逃（のが）れる好機到来（こうきとうらい）。

「母（かあ）さんが呼（よ）んでるから行（い）ってくる」

「行ってらっしゃい（　い　　っ　　て　　ら　　〜　）♪」

　妹（いもうと）は渋（しぶ）ることなく笑顔（えがお）で送（おく）り出（だ）してくれた。助（たす）かった。

３　妹（いもうと）は悪魔的（デーモニック）に弱（よわ）みを握（にぎ）る

　それにしても膨（ふく）れていた妹（いもうと）が何故（なぜ）、笑顔（えがお）だったのか。

　俺（おれ）は電球（でんきゅう）を付（つ）け替（か）えながら考（かんが）えた。そしてひとつの結論（けつろん）に達（たっ）してしまった💡

　就中（なかんずく）恐（おそ）ろしい結論（けつろん）に。

　超（ちょう）ダッシュで電球（でんきゅう）を付（つ）け替（か）えＢダッシュで二階（にかい）の自室（じしつ）に向（む）かう。そこで俺（おれ）が見（み）たのは、目（め）を背（そむけ）けたくなるような惨劇（さんげき）であった。

「あっ、お兄（にい）ちゃん、お疲れ様です（お　　つ　　で　　す）♡」

　俺（おれ）に気付（きづ）いた妹（いもうと）が労（ねぎら）いの言葉（ことば）を掛（か）けてくれる。が！

「辰子（たつこ）よ、何（なに）をしている」

　何（なに）をしているかは一目瞭然（いちもくりょうぜん）だった。およそ人類（じんるい）が考（かんが）えうる最悪（さいあく）の事態（じたい）が目（め）の前（まえ）にあった。

「お兄（にい）ちゃんの〜、お・た・か・ら・さ・が・し？」

　最後（さいご）の『し？』の発音（はつおん）のところで首（くび）を傾（かし）げてみせる。

　その成果（せいか）は確（たし）かめる間（ま）でもなかった。目（め）の前（まえ）には新（あたら）しい生命（せいめい）を生（う）み出（だ）すのに必要（ひつよう）な崇高（すうこう）なる儀式（ぎしき）を撮影（さつえい）した映像資料（エロースDVD）数点（すうてん）に、主（おも）に成人男性（せいじんだんせい）を対象（たいしょう）とした男女（だんじょ）の愛（あい）の営（いとな）みを撮影（さつえい）した写真（しゃしん）を中心（ちゅうしん）に構成（こうせい）された雑誌（エロースぼん）数冊（すうさつ）。さらに……。

「こんなのも見（み）つけちゃったんだけれど？」

と言（い）いつつゴミ箱（ばこ）の中（なか）から汚物（おぶつ）を摘（つま）み上（あ）げるように丸（まる）まったティッシュを取（と）り出（だ）した。

「すみませんでした（　さ　ー　せ　ん　し　た　ー　）。もう、ご勘弁（かんべん）下（くだ）さい★」

　土下座（どげざ）で額（ひたい）を床（ゆか）に擦（こす）りつける。無条件降伏（むじょうけんこうふく）ポツダム宣言受諾（せんげんじゅだく）である。

「やだな、もう。お兄（にい）ちゃん、顔（かお）を上（あ）げてよ」

　顔（かお）を上（あ）げ妹（いもうと）の表情（ひょうじょう）を見（み）る。小悪魔（こあくま）なんて生（なま）ぬるいものじゃない。微笑（びしょう）を湛（たた）えた顔（かんばせ）はまさに悪魔（あくま）のそれであった👿

４　妹（いもうと）は女王（クイーン）のように傅（かしず）きを求（もと）める

　コーヒーを入（い）れようと台所（だいどころ）に向（む）かうと。

「お兄（にい）ちゃ〜ん、私（わたし）、ミルクティーねー☕」

　妹（いもうと）がリビングで毒々（どくどく）しい本（ほん）を読（よ）みながら、俺（おれ）に声（こえ）を掛（か）けてくる📕

　苦々（にがにが）しく思（おも）いつつ妹（いもうと）には逆（さか）らえない。

　自分（じぶん）と妹（いもうと）のふたり分（ぶん）の飲（の）み物（もの）を持（も）っていくと、

「ちょっと、お母（かあ）さんの分（ぶん）を用意（ようい）しないなんて信（しん）じらんない。親（おや）を蔑（ないがし）ろにするなんて畜生（ちくしょう）か虫（むし）けらのような息子（むすこ）ね？」

と酷（ひど）い言（い）われようだ。むろん発言主（はつげんぬし）は母（かあ）さん……ではなく妹（いもうと）の辰子（たつこ）だ。

　むっとして

「これは母（かあ）さんとお前（まえ）の分（ぶん）だよ。俺（おれ）は飲（の）むのをやめたんだ」

　と切（き）り返（かえ）した。すると、

「へー。お母（かあ）さん、コーヒーで良（い）いの？　それお兄（にい）ちゃんのマグカップだよ。そんなので飲（の）んだらお兄（にい）ちゃん菌（きん）に侵（おか）されて病気（びょうき）になっちゃうよ？」

　言（い）うに事（こと）欠（か）いて病原菌（びょうげんきん）扱（あつか）いかよ。

　妹（いもうと）と睨（にら）み合（あ）っていると。

「まあまあ。ふたりともケンカしない。お母（かあ）さんは冷（つめ）たいモノ飲（の）みたいから自分（じぶん）で取（と）りに行（い）くわ」

　母（かあ）さんが席（せき）を立（た）つ。俺（おれ）はコーヒーを自分（じぶん）の元（もと）へと引（ひ）き寄（よ）せながら、

「さすが母（かあ）さんは気（き）を利（き）かせてくれるな」

と呟（つぶや）く。負（ま）けじと妹（いもうと）も、

「何（なに）言（い）ってんの？　お兄（にい）ちゃん菌（きん）に侵（おか）されて病気（びょうき）になるのが嫌（いや）だったからに決（き）まってるじゃない？」

「なんだと！」

「『美少女（びしょうじょ）クラスメイトと保健室（ほけんしつ）でセックチュ』だっけ？　お母（かあ）さんに教（おし）えてあげたら、お兄（にい）ちゃんも成長（せいちょう）したなって喜（よろこ）んでくれるかもよ？」

「くっ。卑怯（ひきょう）だぞ、毎日（まいにち）50円（えん）を渡（わた）しているじゃないか！」

「お兄（にい）ちゃんが私（わたし）に逆（さか）らわなきゃ良（い）いだけの話（はなし）でしょ？　なんで突（つ）っかかってくんの？　莫迦（ばか）みたい」

　ちっ。なんとか妹（いもうと）の弱点（じゃくてん）を見（み）つけないと一生（いっしょう）奴隷（どれい）のままだ。

　母（かあ）さんが戻（もど）ってきてテーブルの上（うえ）にお皿（さら）を置（お）く。○マザキ春（はる）のパン祭（まつ）りで貰（もら）った景品（けいひん）だ。その上（うえ）には、うさちゃんりんご🐰

「お母（かあ）さん？　うちでトリカブト育（そだ）てない？　トリカブト栽培（さいばい）するのに特別（とくべつ）な許可（きょか）とか必要（ひつよう）ないんだって？」

　母（かあ）さんが席（せき）に座（すわ）るが早（はや）いか妹（いもうと）が話（はな）し掛（か）ける。つかトリカブト栽培（さいばい）って、そりゃヤバすぎだろ！

「うちでトリカブトなんか育（そだ）てて、もし事件（じけん）とかあったら、うちが疑（うたが）われちゃうわ」

「じゃあ鈴蘭（すずらん）は？　鈴蘭（すずらん）も人（ひと）を殺（ころ）せるだけの毒（どく）が……」

　だからなんで毒（どく）のあるやつばかりを育（そだ）てたがる？　そのうちクラスメイトを毒殺（どくさつ）したりとかしねえだろうなあ？

　りんごを食（た）べ終（お）えコーヒーもなくなったところで席（せき）を立（た）つ🍎

　と。

「お兄（にい）ちゃん、お皿（さら）！　お母（かあ）さんに片付（かたづ）けさせるつもり？」

　くそっ！　憎（にく）たらしい。

５　妹（いもうと）はそれでも妖精（フェアリー）のように愛（あい）らしい

　お皿（さら）に手（て）を伸（の）ばそうとすると母（かあ）さんが、

「さっきは優輝（ゆうき）が飲（の）み物（もの）用意（ようい）してくれたでしょ？　今度（こんど）は辰子（たつこ）の番（ばん）じゃない？」

と言（い）ってくれた。形勢（けいせい）逆転（ぎゃくてん）だ。

　一瞬（いっしゅん）ほおを膨（ふくら）らませ唇（くちびる）を尖（とが）らせるも、母（かあ）さんに逆（さか）らうのは得策（とくさく）じゃないとみたのだろう。無言（むごん）で立（た）ち上（あ）がり、お皿（さら）と全員分（ぜんいんぶん）のマグカップ、グラスを持（も）とうとする。なんか危（あぶ）なっかしい。

「半分（はんぶん）持（も）ってやるよ」

「お母（かあ）さんは私（わたし）をご指名（しめい）だから！」

「無理（むり）すんなって」

と歩（ある）きながら奪（うば）い合（あ）いをしていたため、何（なに）かに足（あし）を取（と）られた辰子（たつこ）が体勢（たいせい）を崩（くず）して、

「きゃっ！」

と声（こえ）を上（あ）げる。

　俺（おれ）は転倒（てんとう）を防（ふせ）ぐためマグカップとグラスを手（て）にしたまま辰子（たつこ）を抱（だ）き留（と）めた。

　しかしパン祭（まつ）りで入手（にゅうしゆ）したお皿（さら）は、辰子（たつこ）の腕（うで）が上（あ）がった瞬間（しゅんかん）にすっぽ抜（ぬ）け、天井（てんじょう）に当（あ）たり、壁（かべ）に立（た）て掛（か）けてあるミョルニールハンマーに激突（げきとつ）しフローリングの床（ゆか）へと突（つ）っ込（こ）んだ。しかも直後（ちょくご）にミョルニールが倒（たお）れてきて頭部（とうぶ）がお皿（さら）に直撃（ちょくげき）した。

　一瞬（いっしゅん）の出来事（できごと）であった。せっかく苦労（くろう）して得（え）たお皿（さら）が……あれ？

「ふたりとも怪我（けが）はない？　それなら良（よ）かったわ。お皿（さら）？　平気（へいき）よ。このお皿（さら）は頑丈（がんじょう）だから、ミョルニールの直撃（ちょくげき）くらいじゃビクともしないわよ」

　そう言（い）って母（かあ）さんが笑（わら）う。確（たし）かにお皿（さら）は無事（ぶじ）だった。ってかミョルニールが直撃（ちょくげき）したら防弾（ぼうだん）ガラスだって粉々（こなごな）だろ？　どうなってんの？

　とはいえ妹（いもうと）が無事（ぶじ）で良（よ）かった。もし俺（おれ）が咄嗟（とっさ）に抱（だ）き留（と）めなければ、倒（たお）れてミョルニールの直撃（ちょくげき）を食（く）らっていたかもしれない。妹（いもうと）の身体（からだ）が震（ふる）えている。

「お兄（にい）ちゃん、助（たす）けてくれて、ありがとう」

　照（て）れてほおを朱（しゅ）に染（そ）めながら礼（れい）を言（い）う妹（いもうと）は妖精（ようせい）のように愛（あい）らしかった。

　おわり