「迷子です……」「人生の?」

結論から言うと、海上を走れた。烈海王もびっくりするだろう。

ただ、その結果がこんなことになるだなんて……。


――四十分前――


「そろそろ魔力尽きるから、遠泳しよっか」

海上を走りながらな為、跳ねる水音で聞き取りずらいが、姉さんは確かにそう言った。

「「「は?」」」

本日三度目のハモり。改めて、自分達兄妹の仲の良さを痛感する。

って、いやいやそこじゃない。

「私の記憶違いじゃなければ、にーさん泳げなかったよね?」

「はい、泳げません」

「……おにい、気合いでふぁいとー」

気合いとか、気の持ちようで何とかなるような問題じゃない。昔から運動はからきしなのだ。

「え、どうしましょう。そもそも水に触れたくない!」

「にーさんは猫か」

「見た目も、猫っぽい……」

言われてみれば、自分は猫に似ているかも。性格面どころか、容姿面も似ている。

「そっかぁー、そらは猫似かもね。そういえばさ」


「猫は高所から落ちても、平気だよね?」


その言葉に、本能的恐怖を感じ、背筋がスっと冷たくなる。

いや、流石に質の悪い冗談だろう。そうだ、そうに違いない。

「姉さん、何言って」

「とりゃ!」

『姉さん何言ってるんですか』と、言い切ることは出来なかった。

理由は単純明快。今自分は、宙に浮いてるから。

最後に聞こえたのは梨乃と詩乃の悲鳴で、最後に見たのは青い空だった。




おでこに、ひんやりした物が当てられる。冷たさを感じると同時に、意識が段々醒めてきた。

えーっと、確か姉さんに投げられて……それからどうしたっけ。

というか自分、生きてる?

慌てて起き上がり目を開けると、そこに居たのは、

「あ、起きた。君、大丈夫?」

一際目を引くピンクの髪。飾り気ない、しかし整った顔立ちの女の子。

きっと、彼女に助けられたのだろう。

「は、はい。少し頭がぼんやりしますが……。えっと、貴方が助けてくれたんですか?」

周辺を見回してみると、人気がない公園のような所だった。

「うん、そう。いい天気だなーって空見てたら、君がフライアウェってるのが見えて」

「あ、ありがとうございます」

「いえいえ、無事で良かった」

そう微笑み掛けてくれる女の子は、どうやら親切な御仁らしい。空飛ぶ自分を助け、介抱もしてくれるだなんて。

……あれ?助ける?空飛ぶ自分を?どうやって?

「あのー、ちなみになんですけど、どうやって助けてくれたんです?」

「魔法使って、ピューでドーン。ってな感じ」

「……そうですか」

どうやら、自分とは次元が違うらしい。ついでに言うと、関西人並の擬音の多さだ。

「今度は私が聞いていい?なんで空を飛んでたの?」


朝起きてから、今までの経緯を全て話した。


「驚いた……」

「そうでしょう!朝起きたら獣耳と尻尾が生えてるなんて、普通有り得ないですよね!」

「まさか、男の子だったなんて……」

「…………」

途端、目から光が失われる。

「あ、うそうそ!ごめんね」

「……兎に角!私、元の姿に戻りたいんです。何か方法を知ってませんか?」

すると、女の子から値踏みするような視線で見つめられ、

「今の話通りなら、君も魔法が使えるんだよね」

「姉さんが言うには、使えるそうです」

「一つだけ、方法がある。半年後に行われる、『アマナツ島秋の魔法大会』で優勝するんだ。そしたら、どんな願いでも叶えてもらえる」

……胡散臭い話を持ち掛けられた。

「どんな願いでも……!そんな美味しい話、あるんですか?」

「うん。でも、参加するには魔法使いが集う団体、ギルドに入らないと」

私みたいな貧弱を、入れてくれるギルドなんてあるのかな……。

そんな考えを見透かされたのか、ただの偶然なのか、

「だから、ギルドを創ろう。私と君で」

「え!?」

「これも何かの縁だし。それに、君とだったら楽しくなりそう」

「私も、貴方となら楽しくなる気がします!」

それは紛れもない本心で、これからの日々を思うと、期待で胸が膨らんだ。

「団長は君、私は副団長をやるよ。団長が男の子で、しかも魔法が使えるだなんて、話題になりそうだからね」

そこで少女は、コホンと咳払いをし、

「私、河津かわづ皐月さつき。さつきでいいよ」

「えっと、日奈月ひなつき未空みそらです」

「よろしく、そら。……ところで、日もどっぷり暮れてきたけど、帰らなくていいの?」

見上げてみると、空は夕立色に染まっていた。そろそろ、夕ご飯の時間かも。

って、家の場所分からない……!てことは、

「ふふっ、今日は野宿かぁ」

「ちょっ……そんな良い笑顔で言われても!」

食べれる草を探すか、なんてことを考えていた、その時。

『ピンポンパンポーン。島民の皆様に、迷子のお知らせを致します。頭に獣耳、お尻には尻尾が付いている、少々イタい格好をした、見た目十歳ぐらいの男の子が迷子です。迷子センターで、お姉さんがお待ちです。見掛けた島民の方は、アマナツ島北迷子センターまでお連れください。繰り返します……』

「……姉さんめ、今日という今日は絶対に許さーん!」

「そら、連れて行こうか?」

「お願いします!」


これは、実の姉により、社会的に殺された少年が、堂々と道の真ん中を歩けるよう奮闘する物語である!

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空色びーすと 萩村めくり @hemihemi09

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