生贄を捧げられたんじゃが、妾そんなの望んでない

瑞多美音

生贄を捧げられたんじゃが、妾そんなの望んでない

100年に1度ある祭りが催される。

 毎年行われる祭りとはまったくの別物で……古い風習が残るその村では祭りの最後に神に生贄を捧げるそうな。


 目の前には白い服を着せられ、うずくまる幼子の周囲には大量の食料と酒……


 しかし、妾……生贄を捧げられたんだが、正直望んでない。しかも妾は女神ぞ?なぜ女子?しかも幼いではないか。どうせ生贄を捧げるのなら妾好みの男にしてほしかったぞ。

 まさか、あやつの趣味か?妾はこの地の担当になって数十年、その前は男神だったからの……しかし、こんなことがあるのなら引き継ぎで言えばいいものを。今度の集まりで皆に教えてやろう。

 そうじゃ。実は神でも配置転換があるのじゃ……妾は下っ端じゃからな。他の神から人気のない土地に行くことになったのじゃ。この小さな山ひとつ守る神じゃ。そもそも毎年の祭りの時にも少ない食料と酒を奉納するだけで普段は見向きもされない神なんじゃぞ?今回は生贄といい、大量の食料といいまったく様子が違うがの……毎日のように拝まれ食料や酒の奉納が多い場所が人気なわけじゃ。仕方ない、妾は所詮下っ端じゃからな……はぁ。



 泣くばかりの幼子を見つめ、まず思ったのは……


 「食べ物がいるな……人間は面倒じゃな。さて、おぬし名はなんという?」

 「ぐずっ……食べないでっ」

 「ふむ、食べるわけなかろう。年はいくつじゃ?」

 「えっ……食べないの?」

 「うむ、妾に食事は必要ないのでな。食事は娯楽じゃな」

 「わたし、はなえ……4才」

 「そうか……はなえか」

 「どうする?村に帰すこともできるぞ?」

 「だっ、だめ!わたしのおうちなくなっちゃった」


 ふむ、話を聞けばどうやらはなえの家族はもういないらしい。それで風習にのっとり生贄という名のもと捨てられたという訳か。せめてもの詫びがあの食料と酒かの?

 

 「仕方あるまい……ここで暮らすとよい」

 「ありがとうございます」


 仲のいい神に相談すれば……


 「あら、生贄なんて珍しいわね……そうね人間が暮らすには、食べ物もいるし、服もいるでしょう。トイレやお風呂だって必要でしょうねー」

 「やはり、そうかの……」


 ここにはほとんど物がないからの。一から揃えなければ。

物々交換……といってもほぼ譲ってもろうたようなものじゃが。いいんじゃ。沢山あって余るところから譲ってもろうたのじゃからな。それに生贄は珍しいから面白半分で見に来てはお土産を置いて行くのでな。


 食料、衣服、布団などある程度が揃えば今度は文字を教えた。

 文字が読めれば本を渡しておけば間が持つ。

 時に添い寝をしてやり、おねしょの後片付けまで……妾、神様なんじゃが。

 必要のない食事を一緒にとり、少女が料理を作れば食べてやり、掃除をすれば褒めてやる。何もなかった空間はどんどんとはなえのものが増え生活感が出てきた。


 ふむ。小さな山を見守るだけでは変化もあまりなく、つまらなかったが……こやつがいればなかなか賑やかじゃな。他の神々も今までは見向きもしなかったが、時々遊びに来るようになったしのぉ。遊びに来た神々に妾の前任の話も広めていたら直接抗議しに来たしのぉ……


 そして、1年が過ぎ2年が過ぎ……幼かった少女はいつのまにか年頃の女の子になっていた。時が過ぎるのは早いの……今では料理も洗濯も難なくこなしてしまう。


 「神様っ!またここに本を放り出して……読んだら戻してくださいって言いましたよね?」

 「うむ、まだ読んでいる途中なのじゃ……」 

 「こっちの本は?」

 「うむ、それも読んでいる途中じゃ」

 「はぁ……そう言って全然元に戻してくれないんですからっ」


 最近では、はなえがすべてを仕切っているぐらいじゃ……楽しそうだからそのままにしてるがの。しかし、いつまでもここに居させていいものか……人間の寿命はあっという間じゃ。


 「のう、はなえ。どこか遠くの地に下ろしてやろうか?」


 さすがにこの村に下ろすほど無神経でないぞ。他の神に頼めばどこかの街に下ろしてやれるわ。


 「え、なんでですかっ。わたし何か悪いことしましたかっ?」

 「いや、そうではないがの……一生を妾のそばで過ごす気かと思ってな……」

 「え、一生どころかいつかは眷属にしてもらって配置転換にもついて行く気でしたよ?もう少し年を取ってからがいいですけど……例えば女神様みたいな胸になったら……とか?」


 うむ、胸は無理かもしれんぞ……おぬし、栄養が尻に行くタイプじゃろ?


 「それにしても、なんではなえがそんなこと知ってるんじゃ?」

 「以前、他の神様が遊びにいらした時一緒にいらした方はわたしの前の生贄の方だそうで……眷属にならなければ付いていけないんでしょう?」


 前任が来た時、確かに若い女子がいたな……あれはこの村の生贄だったのか。ふむ、100年以上前に生贄になったのに若いとは眷属にした以外ないか。


 「ふむ、本当によいのか?人間には人間の楽しみがあるのであろう?恋とやらもしたい年頃だろう?」

 「時々、下に遊びに行かせてもらって……誰か一生を共にしたい人見つけられたら……事情を話してそれでもいいって言ってくれたら、神様に旦那様も眷属にしてもらってふたりで仕えますからっ」

 「ふむ……意外と考えておったのじゃな」

 「あっ、もちろん神様が恋をしたら応援しますからねっ」


 恋のぉ……ふむ……長い時間があるのじゃ。妾好みの相手が現れればいつかはいいかもしれんな。


 「正直……時々、下に遊びに行くのも楽しそうですけど……わたし、ここにきてよかったと思ってるんです。最初は生贄なんて怖かったしお祭りの日なんか来なければいいって思ってたけど、こんなに優しい神様に会えたので最高のお祭りになりました」

 「ふむ……そうか」

 「わたしを育ててくれたことも感謝してるし、こうやって暮らすのも楽しくて……だから、そばに置いてくださいっ」

 「そこまで頼まれたら仕方ないのぉ……」


 妾、どうやって眷属にするか知らないんじゃが……なんせ下っ端じゃからの。仕方あるまい。また他の神に相談するかの……


 こうして、配置転換後も少女にお世話されつつのんびりまったり……時に街へ下りては騒ぎを起こしたり、他の神様の元へ遊びに行って交流を深めながら楽しく暮らしていくのだった……少女が宣言通り旦那様を見つけ眷属にしてもらったり、神様が数百年ぶりに恋をするのはまた別の話だったりする。

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生贄を捧げられたんじゃが、妾そんなの望んでない 瑞多美音 @mizuta_mion

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