【1000年に一度の星祭】

ボンゴレ☆ビガンゴ

きっと君にとっては最高の星祭になっただろうね

 1000年に一度の星祭


 1000年に一度の星祭がやってきた。

 虹の夜、仲間たちの誘いを断って、僕は君を連れ出した。

 君は駅で僕を待っててくれた。

 銀河鉄道は人でごった返していたけれど、うまく車両に潜り込むことができて、二人で胸を撫で下ろした。


「みんなに悪いことしちゃったね」


 君が舌を出して笑う。


「バレたら大変なことになっちゃうよ」


 満員の車内で吐息を感じる距離で、僕たちは小さな共犯者だった。

 揺れる車窓の向こうには、アメジストの綿飴みたいな星雲がみえる。

 列車は揺れながら目的地へ向かった。


 駅に着き、ゆっくりと列車は停車した。華やかな星の灯りが列車を包む。車内は高揚感に包まれ、扉が開くとざわめきながら人々はホームへ流れ出した。


 僕は君と手を繋いで、はぐれないようにして車両から出た。


 色々な星の人が様々な服を着て笑い合っていた。駅の構内まで祭りの楽しげな空気が漂っている。

 駅を出ると星の海が煌めいていて、いろんな出店がひしめき合っていた。


 良い匂いに誘われて、出店でアンドロ焼を一つ買って、君と分け合いながら、浜辺に向かう。

 流星が空に流れ、オーロラが海を照らしていた。


 オパールの珊瑚が広がる浜辺に着くと、向こうに銀色のロケットがいくつも着陸していて、1000年前にこの星を作った先駆者たちの末裔が花嫁を探すために、浜辺に降り立っていた。


「リギルはいる? ねえ、リギルは見える?」


 背の低い君はぴょんぴょんと跳ねて人混みの向こうに憧れの先駆者の姿を探した。リギルは君の遠い遠い親戚にあたるから、君は本当はリギルにロケットに乗せてもらって、「丸星」に連れて行って欲しいとおもっているんだ。

 そんなことは万が一にもないけれど、もしそうなってしまったら、僕は悲しい。

 けど、先駆者の花嫁に選ばれることは光栄なことだし、君のパパもママも、もし君が先駆者の花嫁に選ばれるとしたら喜ぶに決まっている。だから、僕も喜ばなければいけないのだけど……。


「ねえ、もう少し近づかないとリギルが見えないよ」


 君は僕の手をひいて人の海をかき分けるようにして泳いだ。

 君が好きなリギルは最初のロケットで来ているはずだったから、きっともう花嫁を見つけてしまっているかもしれない。


 だけど、君は瞳をキラキラ輝かせて、リギルを探している。

 そんな無邪気な君の表情も大好きだけど、決して僕には向けられない表情だから、ちょっと悔しかった。


 できることなら、君をリギルに見せたくなかった。

 もし、リギルが美しい君を見染めて連れて行きたいと言ったら、君は僕のことなんか一瞬で忘れて、喜んでロケットに乗るだろう。


 不安な心のまま、人混みをかき分けロケットに近づく。

 ロケットの周辺は星祭のメイン会場だから、大きな音で華やかな音楽がなり、いくつかのステージの上で踊りや歌を歌っている人もいた。


 大きなロケットの外壁は、遠くから見ると銀色だったけど、近くで見ると、貝殻の色みたいな淡い色を放っていて、それを見て君はうっとりした顔をした。

 ロケットの周りをぐるりと囲む人々は口々に先駆者の末裔の名を呼び、両手を上げている。


「あ、リギルだ! あれ、リギルだよ!」


 君がぴょんぴょん跳ねて僕に言った。


 君の指差す先に、君によく似た先駆者の末裔がいた。

 僕みたいに、デコボコしてしてどろっとした体でなく、君や丸星の人々と同じ、つるりとした体に、サラサラの髪だった。


「リギル! リギル!」


 君が叫ぶと、リギルは君を見つけた。そして、嬉しそうに微笑んで、二本の足でゆっくりとこちらに歩み寄ってきた。


「こんばんわ。やあ、ようやく見つけることができたよ」


 先駆者が花嫁に贈る、ダイヤのバラを差し出して、リギルは跪いた。


「美しい君よ。僕と一緒に来て欲しい」


「リギル……嘘みたい……」


 君はうっとりとした瞳でリギルを見る。


「僕は君を探していたんだ。一緒に来てくれるかい?」


 リギルは五本指の手を君に差し出す。

 君はうっとりとしたまま、僕のことなんか忘れてしまって、リギルの手を取った。


「よろこんで……」


 歓声が上がる。人々は先駆者の末裔が目の前で花嫁を決めた奇跡に驚きと喜びの声をあげたのだ。


 僕は君の名前を読んだけど、人々の声にかき消されてしまった。


 リギルは君の手をお姫様の手を握るみたいに優しく握って、ロケットに乗り込んでしまった。


 人々の祝福の歓声がロケットを包む。

 僕は立ち尽くしていた。

 君の後ろ姿が遠くなっていく。


 君が遠くなっていく。


「みんな、ありがとう。また1000年後に会おう」


 リギルが言うと、歓声はさらに大きくなった。


 君はうっとりした顔でリギルの横に立っていたが、僕の視線に気づくと、一瞬だけ僕の知っている顔に戻って、小さく手を振って言った。


「ありがとう。パパやママによろしく」


 そして、僕を残して、ロケットは飛び立って行った。


 音楽が大きくなり、広場ではダンスが始まった。二本足も五本足も、分け隔てなく笑顔で、踊りの輪は大きく広がった。


 僕はひとりぼっちで、踊りの輪を眺めていた。

 オーロラの空を見上げたけど、君を乗せたロケットはもう見えなかった。



 虹の夜。

 僕は滲む空を見上げていた。

 いつまでも。

 いつまでも。




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