四年に一度の自由

@balsamicos

四年に一度の自由

 この国では四年に一度、私たち隷人にも【自由】が与えられる。ここで言われる自由とは、その日はあらゆる事を犯しても罪には問われず、全てが許されるというものだ。それが今日ということもあって、周囲ではあらゆる非人道的な行いが罷り通っている。


 四階建ての隷人用宿舎の屋上で、地上に広がる魑魅魍魎蔓延る地獄絵図のような光景を私はただぼんやりと眺めていた。


すると不意に背後から気配を感じた。


「おっ、JJ3〜!お前はやっぱりここにいたか!お前も少しは楽しめよぉ、四年に一度なんだぞ?毎度毎度こんな調子で良いのか〜?」


「そうゆう君は随分と楽しんだようだな、K2」


 軽薄そうな装いの彼はK2。私のルームメイトで日々の過酷な労働を共に行う、いわば仕事仲間だ。


 左腕にはギンギンと金色に光り輝く悪趣味な腕時計をつけ、両脇には高そうな衣服をこれでもかと抱きかかえている。指やズボンの裾には赤黒い血痕がこびりついていた。


「おうともよ!今回はめちゃくちゃついてるぜ〜、この調子なら第二陣も期待できる!沢山手に入ったらお前にも分けてやるよ、JJ3!」


「いや、遠慮しておくよ、K2」


「んだよ、つれねぇなぁ、それはそうと前々から思ってたんだが、なんでお前はこの自由デーを楽しくやらねーんだ?」


「別に、私はこんなハリボテの自由に価値を感じないだけだよ」


「何言ってるんだ?この日は何をしてもどんな事をしても許される!これのどこがハリボテって言うんだよ!」


「許す許さない言ってる時点でそれは自由とは呼べないさ、結局は政府に管理されている偽りの自由だよ」


「そりゃそうだけどよ、俺らの日頃の働きをみて政府が設けてくれた唯一の良心なんだ、少しぐらい良い夢みたって良いだろうよぉ」


「こんなの民衆の不満を適度に発散させるためのただのシステムだ、それに人としての尊厳を失ってまですがりたい夢なんて悪夢以外の何者でもない」


「そ、それならお前は何なら楽しいんだ!お前は一生、馬車馬のように働かされるだけの人生で良いってことか?」


「仕方がないさ、生まれた環境、生まれた時代がこの場所の時点で私達は詰んでいるんだ、諦めるしかないよ」


「なんだよ、まじでお前つまんねぇ奴だな、日頃助かってることも多いから気ぃかけて話しかけてやったっていうのに…あーせっかくの時間を無駄にしちまった、もういいわ俺は荷物下ろして第二陣行く、じゃあなー」


 そういうとK2ドンドンと大きな足音をたてて階段を降りていった。


「確かに私はつまらない人間だ、時々K2、こんな絶望的な世界でも自身の幸福を追い求める君のような人を羨ましく思うよ」


 そうだ、私は別に彼のような人を軽蔑しているわけではない。人は生まれてきた時点ではあらゆる自由が保障されている。ただ場所が、人が、環境が、それを矯正し縛り上げる。唯一縛られないその人の【心】。そのこころに貪欲に忠実に生きる彼らは紛れもなく私以上に自由であるのは明白だ。


 今日地上で行われている地獄。その地獄を嬉々とした表情で駆け回る鎖に繋がれた獣が私には少し美しくみえた。





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