四年に一度と、かにけんと

あきのななぐさ

四年に一度

原 『さあ、いよいよやってくるよねん!』


下田「ノックもなしに、いきなりですね。開口一番、全く意味わかりませんよ? 原先輩?」


山田「まあ、原先輩自体がわからないという意味でもあるかな。それより、扉が壊れたら原先輩のせいですからね? 俺たち関係ないですから」


原 『ああ、山田君。実にけがらわしいよん。四年に一度しかいないんだよん? 扉なんて些細なものだよねん』


山田「嘆かわしくても、勝手に人を汚さないでください。あと、四年に一度だからといって、語尾に『よん』とか『よねん』とか……。わざとらしいからやめてください」


下田「ああ、なるほど。お前、よく気が付くよな?」

山田「気づきたくない。でも、スルーするともっとうざくなる……」

下田「なるほど、確かに……。じゃあ、この流れでいくのか?」


山田「どうだろうな……。で、四年に一度でしたっけ? まあ、確かに扉と比べると些細ですけど。原先輩もあんまり興味ないでしょ? そんなところで仁王立ちするほど……。わかりましたから、ちゃんと部室に入ってください……」


原 『それそのものには興味はないよねん。でも、その前に動く大きなものには興味があるよねん』


下田「まあ、建設費は莫大だよな?」

山田「いや、誘致にもかなりの金が動くらしい。言ってみれば、その金でかった票で全てが決まる」

下田「そう言われると、なんだかなぁって感じがするなぁ。結局、熱意とかより金かと思ってしまう」


原 『そう、結局はお金だよねん。でも、それじゃあ応援している人の頑張りが無意味になるよねん。お金は最終的な手段でしかないよねん。それより前に、応援する人がいるという事実を忘れてはいけないよねん。だから応援することが――。いえ、応援する人が偉いんだよねん!』


下田「なんだかよくわからないですけど? まあ、確かにそう思っていた方がいいのかもしれない。どこにどう決まったとしても、そこでやる事とそれは関係ない。俺たちも観戦し、応援する。その事には変わりない」


山田「語尾はどうあっても変えないつもりですね……。まあ、それはもういいか。それにしても、原先輩おかしくないですか? あっ、先に言っておきますけど、原先輩がおかしいのは知ってます。原先輩にしては、まともなこと言ってる気がするという意味です。いや、言ってることが微妙にずれていったか……」


原 『失礼だよねん。でも、この大人の原先輩は、ウグイスのような清く美しい心と体の持ち主だから許すのよねん』


山田「鶯声うぐいすごえであることは否定しませんよ。でも、『結局はお金』といった人だから、清いほうではなく……。でも、この会話の流れでなぜ鶯が出てくる?」

下田「酒が入ると、さらに回るよな。何気に体はスルーしたな、山田。でも、山田にもわからんことを俺に聞かれても困る」


原 『ふっふっふ……。『ふっふっふ』だよねん。仕方がないから、教えてあげようだよねん。ついに、この時が来たという事だよねん。これは大人にしかできない、大人としての役割だよねん』


山田「言い直した……。今度は大人……。――あっ!? いえ、もういいです。――下田。俺、わかったから行くわ」

下田「え⁉ 何が!? ちょっ、えー⁉」 


山田「…………原先輩。扉の前で立ちふさがるのやめてくれません?」


原 『そうだよねん。どうしても聞きたいよねん?』

山田「いえ、結構です」

原 『『言え!』と生意気にも命令する山田に、寛大な先輩は教えてあげるんだよねん』

下田「うわ、めんどくせー……」


 ――コン、コン。


尾田「こんにちわー! あっ、原ちゃん先輩! あたった? ごめんやで? でも、なんで原ちゃん先輩、扉の前におるん? そや、それより草木教授の伝言や。『人の話は最後まで聞くように……。さっきの話は断ってるから』だって――。うわ! 痛っ!? えー!?」


下田「なんだ⁉ 原先輩!? 何があった!?」

山田「最近、都合が悪くなると逃げるということを覚えたらしい……」






下田「……なあ、美羽ちゃん。草木教授の話って?」


尾田「知らんよ? 『そう伝えればわかる』って言われただけやもん」

上村「ウグイス嬢の話だよ……」


下田「上村先輩! いたんすか!?」

上村「ひどいな、下田君。尾田君とは部活棟の前から一緒に来たよ。まあ、事情は知ってる……。下田君、正月の事覚えてるかい? 草木教授の家に行った時の事」


山田「ああ、あの時の後援会の人が今回の騒動の発端ですか?」

上村「そうみたいだね……」


下田「え!? ひょっとして、俺だけ話についていってない? おい、山田!」

尾田「ウチも知らんよ?」


山田「下田……。お前、原先輩が何の話してたか覚えてるか? やたら、四年を強調するうざい話し方で……」

下田「ああ、五輪オリンピックの話だろ?」

山田「そもそも、そこから間違ってたんだ……。俺も最初はわからなかった……」

下田「原先輩の扱いだけは一級品の山田がわからなかったことを、俺がわかるわけないだろ?」


山田「お前も何気にひどいこと言うよな……。まあ、いいや。原先輩は、統一地方選挙の話をしてたんだよ。たぶん、後援会の人が正月に原先輩の声を聞いて覚えてたんだろう。それで、原先輩に『ウグイス嬢をしてほしい』と頼むために、草木教授の所に来た……」


上村「そこにたまたま僕と原君がいたというわけだよ。まあ、原君は話の途中で飛び出していったけどね。たぶん、ここに自慢しに来たんじゃないかな? 僕は用事があったから、後で来た尾田君にも伝言したんだと思う」


下田「なるほど……。でも、草木教授はなんで断るんだろ? いわゆるバイトだろ? 実際、声もいいし、度胸もある。何より、黙ってれば美人じゃないか? 後援会の人も、それもあって来たんだろ?」


山田「なんでって……」




上村「………………。『余計なこと言うかもしれないから』だって……」


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