3、
1週間ほどして、久米沢は会社にあの馴染みのお巡りさんの訪問を受けた。
「まあ、わざわざ報告することでもないのかもしれんがな」
と、お巡りさんは迷うように前置きし、話した。
「君が死臭がすると言った車があっただろう? ワンボックスタイプの白いバン。ナンバー4××9の」
久米沢は暗い元気のない顔でうなずいた。
「どうした?」
「いえ……、なんでもないです……」
お巡りさんは久米沢のしょぼくれた顔に首を傾げながら、続けた。
「その持ち主の、配線工事の会社の社長が、人を殺したと言って自首してきた。
殺したのは会社の若い社員で、死体は供述通り山の中から掘り出された。死後3週間だ。
殺した動機は、目をかけてあれこれ世話してやっていた若手が、やめたいと言い出して、最初は説得しようとしていたのが、口論になって、カッとなって殺してしまったそうだ」
久米沢はあのおやじならやりそうだなと思った。
「他の社員にはやめて故郷に帰ったと説明していたそうだが、それがなんで自首してきたかというと、癌にかかっているそうだ」
「ガン?」
「うん。痛みに耐えられずに病院に行って検査してもらったら、もうだいぶ進行して、手の施しようがなく、余命2ヶ月と宣告されたそうだ」
「それで、死ぬ前に自分の罪を悔いて?」
「うん……」
お巡りさんは歯切れ悪そうにうなり、言った。
「臭いが、堪らなくなったそうだ。自分の中から死臭がして、臭くて堪らず、それが、土の中で若者の死体が腐っていく様を想像させて、どうにも耐えられなかったそうだ」
久米沢は車の後部窓の、あのすさまじい有様の男を思いだしてブルッと震えた。
2週間も前の死体の臭いを、自分がなんで嗅いだのか分からないが、おやじを癌にしたのはその若者の死霊ではないかと思った。
腐っていく自分の体を、自分を殺したおやじに、生きたまま、味わわせてやろうと、復讐の呪いをかけていたのじゃないかと。
久米沢は深く暗いため息をついた。
そんなことは勝手にやってくれればいい。無関係な俺に、死の臭いを残していかないでくれ。
思い出すと鼻の奥に甦って、一生消えそうもないじゃないか、と。
終わり
2011年10月作品
臭う車 岳石祭人 @take-stone
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