3.いつかあの橋を渡って

 内緒のお散歩は楽しいが、退屈な夜は変わらない。どうして夜は毎日やってくるんだろう。どうして夜になるとみんなの声がひそひそ声になるんだろう。どうしてみんなはじっとしていられるんだろう。

 坂を下っていくと見慣れた景色が少しずつはなれていく。そして、やがて大きな道路が横たわっているのが見えてくる。この道に沿って歩けば、川をまたぐ大きなつり橋がある。この橋が、こちらの町と向こうの町をつないでいる。お母さんやお父さんと一緒に渡ったこともあるが、一人で橋を渡ったことはない。もしも一人で町まで行こうとすると、お化けに連れ去られてしまうからだ。そのお化けは光の中でじっと身を潜めていているから、いくら目をこらしても見つからないのだとお父さんは言っていた。そのお化けもへっちゃらなくらい大きくなったら、絶対に一人であの橋を渡ろうと思っている。そして、お仕事中のお母さんとお父さんのお手伝いをするんだ。


 道路を横切り、茂みの中を歩いていけばそこはもう河川敷だ。大きな光の束が川の水面にまで届いて、きらきらと揺らめいている。その光はじっと動かずにそこにいる様に見えるけど、実は色んな所が少しずつ動いている。あそこののっぽのビルの上の赤い光は、ゆっくりと灯ったり消えたりを繰り返しているし、町中を横切る道路の中は、小さな光の粒がたくさん走っている。

 あの町のどこかで、お母さんとお父さんが一生懸命お仕事をしている。手すりに寄りかかって出来るだけ目を凝らし、その仕事場を探してみるけど見つかった試しは無かった。

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またはりぬ・ちんだら・かぬしゃまよ 五十川マワル @paradise_a_55

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