なんとなく気になっていた同じバイトの男の子。
その彼に彼女がいると知って願ってしまった悪意。
それがトゲとなって主人公を責め続ける……
あらすじだけ追うと、ドロドロ暗くて湿っぽい、それはそれで魅力があるのでしょうが、重いなぁ、暗いなあ、スッキリしないなぁ……と思いそうな物語。
しかし本作はほんわかと柔らかく、いい意味で往年の少女漫画のようなロマンチックさも含んでいて読後感が素晴らしい。繊細な感情のくみ取り方も自然でかわいらしくてうっとりします。
春にぴったりの桜色の短編です。さらっと読めますのでぜひぜひ、この優しい物語を味わってもらいたいです。
自分の考えがぐらついているとき、対人関係も難しくなる。
花占いに望みをかけた後ろめたさ。
他人の不幸を願ってしまった後悔。
それらがわだかまりを生み、二人の距離を広げてしまうけれど、結局は……。
模索しながら理想の「着地点」に漸近していく二人。
不器用さ故に、人とのつながりが花びらのように揺れ続ける描写がいい。
彼女の視線がどこを向いているかに注目して再読すると、桜花の如く揺れる心の動きに連動しているのがわかります。巧手、というほかはない。
同題異話皆勤という継続の実力はもとより、作品の水準も高く、作者様の実力を感じます。
いつもながらお題をきっちり書ききった、同題異話のお手本のような作品だと感じました。