四年で一つ、歳を重ねる

佐倉伸哉

本編

 2月29日。四年に一度の閏年に設けられた、特別な日。

 僕はその2月29日に生まれたのだけど……不思議なことに、僕の体は四年で他の人の一年分成長する。つまり、他の人より四倍成長が遅いのだ。

 2月29日の前後の日、2月28日と3月1日に生まれた人は普通に成長しているのに、何故か僕は四年経たないと一歳になれない。当然ながら周りの子と比べて成長速度は段違いに遅く、僕が五歳に到達した頃には他の子は皆成人してしまった。

 だからと言って時間の早さがゆっくりになるかと言えば、それは違う。成長がゆっくりだから行動も四倍遅いわけではない。でも、僕が他の人の一年分の成長をするには四年の時間を要するのだ。

 そんな特異体質の僕は遺伝子の問題があるのか、体に異常があるのかと色々な機関で調べられたけど、結局のところ他の子と比べて違う箇所は見当たらなかった。誕生日が2月29日、四年に一度しか訪れないことだけ。


 辛いと思ったことも沢山ある。

 保育園に通い出しても、僕は四年経たないと進級できないから友だちはみんな先に進級していってしまう。小学校に入っても一緒。僕は一年生を四回している間に、他の子はスクスク成長して高学年に。後から生まれてきた子に追いつかれ、そして追い越されていく。

 『のろま』と悪口を言われたことも数え切れない程ある。「どうしてそんなに成長が遅いの?」と悪気のない質問で心が傷ついたこともある。「どうして僕だけこんなに成長が遅いの?」と両親に訊ねて困らせたことも。

 得をした……ようなことを挙げるならば。

 勉強については、同じ学年を四回も繰り返すから年を追う毎に良くなっていく。躓いた箇所も四年あれば苦手を克服することが出来る。毎年のようにクラス替えをしているようなものだから、毎年新鮮な気持ちで友だちを作ることが出来る。……その分だけ、別れの時が辛いけど。

 子ども料金は他の人より四倍長く利用することが出来る。高校の文化祭も十二回経験できるから、他のクラスメイトから「達人」の称号を授かった。センター試験は四年連続で対策してきたから、結果はバッチリだった。


 早く大人になりたいな、と思ったこともある。

 早く大人になりたくないな、と思ったこともある。

 こんな体質、嫌だなって思ったこともある。

 この体質で良かったな、って思ったこともある。

 神様から試練を与えられた、と恨んだこともある。

 神様本当にありがとう、と喜んだこともある。

 それでも僕は、四年で一つ歳を重ねる。他の人と比べてゆっくりと、ゆっくりと。


 そんな僕も、ようやく二十歳の時を迎えた。

 ここまで八十年の歳月が流れていた。同じ年に生まれた他の子はみんな皺くちゃなおじいちゃん・おばあちゃんになっているけど、僕だけは若者のままだ。

 色々な出来事を見てきた。想い出もいっぱいある。四倍成長が遅いことは、決して悪いことじゃない。他の人の四倍、様々な経験を積み重ねてきた。

 そして、次の区切りは六十歳。これから二百四十年も先。僕がおじいちゃんになる頃には僕が若かりし頃を知る人は地球上で誰も居ないことだろう。

 これから先、どんなことが待っているかな。僕は少しだけ、楽しみだ。


 (了)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

四年で一つ、歳を重ねる 佐倉伸哉 @fourrami

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ