四年ゼミ
草薙 健(タケル)
説明を始めます。
『周期ゼミ』をご存じでしょうか。
周期ゼミは、皆さんがよく知ってるクマゼミやアブラゼミと同じ、
よく知られているのは、ジュウサンネンゼミとジュウナナネンゼミ。分類は、カメムシ目セミ科Magicicada属です。周期ゼミは日本に
――え? なぜ、周期ゼミと呼ばれるのかって?
それを今から説明しようと思っていたところです。
ジュウサンネンゼミを例にしますね。このジュウサンネンゼミは、ぴったり十三年に一度の周期で大量発生するという性質を持っています。十二年でも十四年でもありません。
十三も十七も素数であることから、別名『素数ゼミ』とも言われています。
素数をお忘れですか? ここに補足説明を用意しておきました。
素数とは、正の約数が二個である自然数のことです。つまり、『二、三、五、七、十一、十三、十七――』のような数字ですね。
――まだ分からない?
十三は、一と十三でしか割り切れないですよね? 割り切れる数が丁度二個なので、確かに素数です。これで理解しましたか?
――結構。話が少しそれました。周期ゼミの話に戻しましょう。
周期ゼミは、地域によって発生年数が違うことが知られています。ある地域では、西暦を十三で割ったら余りが一になる年にしか発生しない、割った余りが二になる年にしか発生しない、という風になっています。
ちなみに二〇二〇年に大量発生するのは、ジュウナナネンゼミだと、西暦を十七で割ったら余りが十四になる地域です。その年次集団は "IX" と呼ばれています。
――なんでそんなへんてこりんな年数の周期になっているかって?
外敵から身を守るため、という説が唱えられています。例えば、四年に一度大量発生するヨネンゼミが仮にいたとしましょう。そうすると、他の動物にとってはどうでしょう?
四年に一度、大量の餌が勝手に沸いてくる一大イベントに映るはずです。
つまり、蝉を食べる捕食者側も四年に一度の世代リズムを構築すれば、安定してエサを確保できるのです。
ただ、これは同時に問題を引き起こします。
四年に一度、蝉が大量発生すると同時に、捕食者側も四年に一度大量発生したら、どうなると思いますか?
正解は、両者共倒れです。
捕食者にヨネンゼミが大量に食い散らかされると、次第にヨネンゼミの個体数は減っていき、最後には捕食者によって食べ尽くされてしまいます。そしてまた、エサがなくなった捕食者も、最終的には滅びてしまうでしょう。
一般的に、蝉を食べるような捕食動物は、世代サイクルがだいたい一年から十年くらいのようです。
もし、大量発生の周期が十三年ならどうでしょう? 捕食者が四年周期の世代サイクルだとすると、その捕食者が最初の大量発生から次の大量発生にありつけるのは、最小公倍数の五十二年後ということになります。
こうなると、捕食者の方がジュウサンネンゼミを食い散らかすというのはかなり難しくなります。
お分かり頂けましたか? 蝉の発生周期が素数なのは、捕食者の世代サイクルがどんな周期であろうと、最初の大量発生から次の大量発生の間隔を長く出来るというメリットがあるからなのです。
他にご質問はありますか?
無いようですので、私の説明を終わります。
■■■
やれやれ、やっと終わった。
「誰か、質問のあるやつはいるか?」
あーあ。本当に退屈だよなぁ、この時間。早く終わらないかな。
「よーし、今日の四年ゼミはこれで終わりだ」
やっと終わったー! よっしゃ、バイト行こ。
四年ゼミ 草薙 健(タケル) @takerukusanagi
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